地域の森林・林業の活性化を目指して
【上川北部森林管理署】
上川北部森林管理署では、北海道や管内の市町村との「民有林との連携」を進めており、今回は「木質バイオマス利用への取り組み」と「市町村との森林整備推進協定を通した取り組み」等についてご紹介します。
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上川北部流域の概要
上川北部森林管理署のある上川北部流域は、名寄盆地を中心とし、その周りを函岳、ピヤシリ山、天塩岳などの標高600~1,500メートルの山々に囲まれています。
そして、これらを水源とする大小の河川が合流する日本最北の大河「天塩川」が貫いています。
管内には士別市、名寄市、和寒町、剣淵町、下川町、美深町、中川町、音威子府村の2市5町1村があり、天塩川の清らかな流れの下、稲作・畑作・酪農・林業を基盤とした生活、文化があります。
流域内の総面積は42万ヘクタールに及び、その78%、32万ヘクタールを森林が占めています。
その所有別構成は、民有林6.1万ヘクタール(19%)・道有林8.2万ヘクタール(25%)・国有林16.2万ヘクタール(50%)・北海道大学演習林1.9万ヘクタール(6%)で、それぞれの森林を舞台に様々な森づくりが進められています。

天塩岳風景林
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更新補助作業(掻き起こし)により生立したカンバ林
~上紋峠頂上から望む~
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上川北部流域の現状と課題
上川地域の市町村(4市17町2村)では、公共施設等での木質バイオマスを燃料とした熱利用が盛んに行われており、平成27年3月段階で41基の木質系ボイラーが導入されています。
そのうち、上川北部流域では、下川町を初めとする5市町村の温泉、公共施設等で、木屑焚きボイラーの燃料として木質バイオマス原料が利用されており、将来にわたっての安定供給が課題となっています。

熱利用温水ボイラー
このボイラーは再生可能エネルギーとして林地未利用材をチップ化し燃料に利用するもので管内の公共施設、温泉等の温熱源として導入が進められています。
また、効率的な森林整備、資源の循環利用などを通じて地域の森林・林業を再生することが強く求められています。
現在、地域の林業関係者間で協力、連携した取り組みが進められていますので、内容を報告します。
木質バイオマス原料の安定供給に向けた取り組み
地域の課題としての取り組み
上川地域では、各種ボイラー等の燃料を化石燃料から地域で生産される木質バイオマス原料に換えることで、
- 地域の広大な森林を活かせること
- 地域でお金が循環し地域経済の活性化につながること
- 灯油ボイラーと比べて木質バイオマス原料の方が燃料費が抑えられること
等が期待されるため、木質バイオマスの熱利用が市町村の公共施設等で盛んに行われるとともに、新たに導入することも検討されています。
また、管外で計画されている大規模バイオマス発電施設の稼働も踏まえると、木質バイオマス原料の需要増加が見込まれ、安定的な供給が懸念されています。
これらを踏まえ、北海道上川総合振興局が中心となり平成25年度に管内の林業・林産業、関係行政機関等で構成する「上川管内木質バイオマス安定供給協議会」が設置されました。
協議会では、管内熱利用施設などへの木質バイオマスの安定供給体制の構築を図ることを目指し、原料の集荷の低コスト化、流通の効率化等について協議しています。

上川管内木質バイオマス安定供給協議会
国有林としての取り組み
国有林においては当署のほか上川管内の各森林管理署等(上川中部署、上川南部署、北空知支署)がこの協議会に参画しており、木質バイオマス原料の安定供給については「地域の課題」として上川総合振興局と連携し課題解決に向けた下記の取組を展開しています
木質バイオマス原料発生情報の発信
木質バイオマス原料となる資材を需用者が確保しやすいようにするためには、資材となる林地未利用材の発生状況等の情報提供を行っていく必要があります。
現在、上川総合振興局に続き北海道森林管理局においても「木質バイオマス発生情報提供」により、林地未利用材の発生状況等をホームページで公表しています。
まだ成果として木質バイオマス原料への活用実績はありませんが、需要者のニーズに応えられるよう引き続き情報発信していきます。

ホームページによる木質バイオマス発生情報の提供
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林地未利用材等の発生状況や販売方法等の情報を提供しています。
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国有林材の安定供給
国有林材を安定的に供給するため、「国有林材の安定供給システム販売」を行っています。
これは、国が需要者側と結ぶ協定に基づいて国有林材を安定的に供給する制度で、地元熱供給への活用等を目的とした企画提案が評価されて協定を締結した物件もあります。
今後も本制度を活用し、地域への木材の安定供給体制の構築に貢献していきたいと考えています。
木質バイオマス原料の集荷・運搬コストの検証
平成26年度の主伐実施箇所で、試行的に枝等の林地未利用材を森林作業道(間伐等の森林作業のための道)脇の数カ所に集積をしましたが、木質バイオマス原料の燃焼に影響を及ぼす泥の混入や集荷・運搬方法における作業効率の改善(コストの削減)が大きな課題となっています。
これらの対応策の一つとして、バイオマス資源の運搬功程や面的なまとまり(団地化)を考慮した伐採計画を作成し、引き続き作業効率の改善等について検討を進めることとしています。

高性能林業機械による搬出の様子
安定供給に向けた情報収集
既に木質バイオマス原料の集荷を実施している伐採搬出現場において、管内の木質バイオマス加工流通業者等との意見交換及び集荷状況の調査を行っており、取得した情報は、必要に応じ協議会に提供するなど、安定供給に向けて取り組んでいます。

木質バイオマス加工流通施設で情報収集
森林整備推進協定による取り組み
相互のメリットの発現を目指して
当署は下川町、中川町とそれぞれ「森林整備推進協定」を締結しています。
この二つの協定は地域の森林・林業の再生に向け、森林の多面的機能の高度発揮と資源の循環利用を図るため、協定者が連携・協力して合理的な路網の整備や効率的な森林整備の実施を目的とするものです。
お互いの事業の効率化の推進等を目指して、現地検討会、勉強会等を実施し、地域の森林・林業の活性化に貢献するために定期的に会議を開催する等の連携を深めています。
森林整備推進協定調印式
主な取組内容
町有林と国有林の路網を接続
町有林と国有林が隣接する箇所において、路網の接続について検討を進めています。
効率的な森林整備には路網の整備が極めて重要であり、路網が接続されることで双方の森林整備の効率化や未利用資源の活用において利便性の向上等が期待されています。
地域の要望等を踏まえ地元事業体等を対象とした「路網作設技術等の勉強会」の開催や、国有林のフィールドを活用した検討会等の開催、森林技術・支援センターと連携して「コンテナ苗の普及を目指した各種試験結果の情報提供」を行う等、林業技術を地域に普及する取り組みを進めています。

地元事業体を対象とした路網作設勉強会の様子(中川町)
林業体験バスツアー等を開催
下川町と当署の共催により、「植樹祭」や「林業体験バスツアー」を開催しています。
「林業体験バスツアー」は、町民の方を対象に参加者を募集し、国有林と町有林をバスツアー形式で巡り、林業体験や見学により地域の森林・林業への理解を深めて頂くことを目的としたイベントです。
平成26年度は国有林で直径十数センチメートルほどの太さのアカエゾマツの枝打ち体験を実施し、町有林では高性能林業機械(ハーベスタ)による間伐作業の見学を行いました。
このイベントでは森林をより身近に感じて頂くと共に、初めて目にする高性能林業機械の実演で最近の林業労働における負担の軽減化や作業の効率化等への理解も進み、林業のイメージアップに繋がりました。

町民を対象とした下川町林業体験バスツアーの参加者
国有林フォレスターとして
近年、各市町や上川総合振興局北部森林室との連絡会議、現場技術交流会等の場を通じて様々な関係者との意見交換を行い、地域の課題や要望等について情報の共有を図っています。
特に現場技術交流会については、担当者同士の意見交換として大変有意義な技術交流の場となっており、お互いの技術向上のためにも継続的に開催していきたいと考えています。

現場技術交流会の様子
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共有した地域の課題や要望については、取り組み可能なことから一つひとつ進めているところです。
今後も関係機関と連携し、地域の森林・林業の再生に貢献するため、国有林フォレスターとして「国有林だから出来ること」「国有林でしか出来ないこと」に着目し、国有林と民有林をつなぐ窓口として積極的に取り組んでいきたいと考えています。
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国有林フォレスター
上川北部森林管理署
森林技術指導官
中村 淳司
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