区 分 : 都市住民と山村の交流 | |
タイトル : 中川から地球環境を考える 中 川 町 森 の 学 校 | |
都道府県名 : 北海道 | 市町村名 : 中川町 |
1 地域の概要 北海道中川町は,旭川市から北に約160km,東を北見山地,西を天塩山地に囲まれた北海道北部山間地に位置し,総面積598平方キロメートルで,その85%が森林で占められている。町南部には安平志内川が流れ,町のほぼ中央に位置する佐久地区で天塩川と合流する。天塩川は,町中央部・北部を南北に流れ,日本海へ注ぐ.天塩川水系に沿って開ける谷や細長い平野部に牧草地・耕地・集落が点在している。交通網は,JR宗谷本線,国道40号線が通過しているが,南に位置する最寄りの都市である名寄市,そして北に位置する稚内市まで,車および電車ともにそれぞれ90分の距離にある。人口は,1957年のピーク時で7000人であったが,その当時の度重なる冷害による集団離農や高度経済成長期を境に主幹産業であった林業・畑作が衰退に伴い,徐々に減少し,現在は人口2,370人となっている。 |
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2 事業(取組)の背景と経緯 (1)事業(取組)の背景 明治期にアンモナイトの産出が報告されて以来,多くの研究者・学生そして愛好家が訪れ,“アンモナイトのマチ”として全国的に知られている。また,町の85%を占める森林については,北海道大学中川地方研究林や北海道立林業試験場道北支場など森林そして林業を研究する機関があり,この分野でも多くの研究者・学生が訪れている。一方で,町民の意識も「化石のマチ」・「自然豊かなマチ」であったが,このような地域特性を事業展開のなかで充分に活かしきれずにいた。 (2)事業(取組)の経緯 平成9年度に化石の里づくり構想を立上げ,協議そして地域財産の調査を進めてきた。この活動のなかで多くの有形無形の財産が地域にあることが明らかとなった。この魅力的な財産・地域特性を研究者や愛好家など一部の人たちだけでなく,専門家の解説による自然科学そして環境教育の実践の場として広く知ってもらい,一方で道内外に中川ファンをつくるために中川町森の学校が開講した。 |
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3 事業(取組)の概要 本事業は,夏期(9月上旬)と冬期(2月下旬)にそれぞれ3泊4日の日程で行っている。夏・冬ともに森と川の生態系の観察・地層観察・アイヌの自然観・林業の今昔などから,「地球環境の変遷と自然と人との共生」をテーマにしている。現地スクーリングは,町内フィールドでの活動を中心とし,アカデミックな要素とエンターテイメントの要素をバランスよく配置している。講師は北大中川研究林と道立林業試験場の研究職,町職員と町民が務める。町教委を中心とした町職員がスタッフとして取組全体をバックアップしている。募集(社会人対象)は実施の3ヶ月前に行い,抽選で30名程度の受講生を決定する。受講生はインターネットを使った定期的なテキスト配付により現地スクーリングまでの事前学習を行う。テキストに関する質問,事前・事後のコミュニケーション等は,森の学校メーリングリストで行う。このようなイベント型事業は,一過性になりがちであるが,メーリングリストがあることで,受講生同士そして講師陣・スタッフ間で現在もコミュニケーションが継続している。 中川町森の学校は,研究者や学生など専門に研究を行っている一部の人しか体験できなかった中川の自然・地域特性をそれぞれの分野で最新の研究を行っている専門家の解説によって,分かりやすくそしてアカデミックに一般の方々が体験することができる“本物指向”のエコツーリズムである。 ![]() 川を歩きながらの地層観察(森の学校夏) 北大研究林での冬の原生林の観察(森の学校冬) |
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4 事業(取組)の成果(効果)![]() 事業開始からまだ2年目(4回実施)であり,明らかな成果はまだ数値化することができないが,森の学校の実施によるいくつかの波及効果を概述する: 森の学校では中川町をフィールドとし,スタッフ・町民と受講生が交流することで,中川の自然・風土の魅力そして人の魅力に受講生が感動し,中川ファンが増えた。 また交流会等では,地元の観光面や特産品等の宣伝を行い,町職員スタッフとの会話がきっかけとなり,地元情報と特産品が送られる「ふるさと会員」の入会が増加している。森の学校の閉講式では,受講生一人ひとりが修了証と「なかがわふるさと大使」の名刺をもらい,「なかがわふるさと大使」として,それぞれの職場・家庭など生活しているところで中川のもつ魅力を広めてくれているようである。実際,2回目以降では“先輩受講生”からの紹介で募集してきた受講生も少なくない。また,口コミで「ふるさと会員」の輪が広がっているようである。 一方,地元住民(高齢者学級や林業グループ)が講師となり,都会の人々に地域を紹介し,中川での日常が“町外からの目線”で評価されることで地域の魅力を改めて見直しつつある。 受講生の中には,森の学校がきっかけで,幾度となく中川を訪れるリピーターが現れてきた。 |
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5 今後の課題 単なる自然体験はどこの市町村でもやっている。アウトドア指向がトレンドの現在,体験型観光を越えた中川町独自の「森の学校」の特色を押しだしていかなければならない。カリキュラムはもちろんのこと,例えば食事なども地元にこだわって独自色を出していく必要がある。 道外からの参加が約7割を占める現在の状況では,受講料(3泊4日:15,000〜20,000円)が安くても交通費がかなりかかってしまう。旅行代理店等と提携して,交通費を安くすることが今後の安定した受講生数の確保につながる。 回を重ねる毎に増え,町の財産ともいえる「森の学校の同窓生」の組織化や,同窓生に,例えば今後のマチづくり(エコミュージアム構想)などのなかで,どのように町と関わっていってもらうかも課題のひとつである。 森の学校の受講生と町民の“顔の見える交流”をさらに推進する必要がある。そのために森の学校にもっと町民の活躍できる場面を想定しなければならない。 多くの要望があった「森の学校ジュニア版」も次年度以降実施する予定であり,「社会人版森の学校」と同様に,その内容についても他地域の事業との差別化を図る予定である。 |