基 本 認 識

 平成16年は、相次いで上陸した台風や集中豪雨、地震により、山地災害や森林被害が各地で発生し、森林のもつ国土保全機能の向上や治山事業の必要性があらためて注目されることとなった。
 我が国においては、森林に恵まれた自然条件の下で、古くから人間の生活に森林や木材が深くかかわってきた。住宅の主要部材や家具あるいは燃料として木材を有効に活用する一方、森林の減少や荒廃が土砂の流出、洪水等の災害の発生につながることを認識し、森林の利用と保全とのバランスをとり、森林の荒廃をくい止める努力が払われてきた。しかし、そのバランスが崩れた時代もあった。
 明治期には、幕藩制廃止に伴う林政の空白期に乗じた乱伐や近代化に伴う木材需要の増加等から、森林の荒廃が進行し、我が国の森林が史上最も荒廃した時代とされる明治の後半には大水害が続発した。このことから、国土保全と用材確保の両面から森林の保護と造林が叫ばれ、「森林法」の制定等の施策により、我が国の人工林面積は拡大し、昭和初期には、約470万haに及ぶに至った。
 第二次世界大戦中から戦後にかけて、資源に乏しい我が国は、燃料や各種資材として大量の木材を利用したため、再び森林の荒廃が進み、各地で洪水が多発した。このような状況を改善するため、保安林の計画的な指定や治山事業による荒廃地の復旧整備が推進されるとともに、全国植樹祭をはじめとする緑化運動が大きな盛り上がりを見せ、全国で盛んに造林が行われた。
 昭和26年の森林面積(注)は2,475万haで、平成14年の2,512万haよりやや少ない程度でほぼ変わっていない。しかし、中身をみると「伐採跡地」や「原野」といった無立木地等が平成14年より200万ha多い。また、森林にある樹木の量を体積で表す蓄積についてみると、昭和27年が17億m3で平成14年の40億m3の43%程度しかなかった。
 このことから、昭和20年代中頃は、いわゆる「はげ山」がいかに多く、我が国森林の樹木の蓄積量が少なかったかがうかがい知れるとともに、現在の我が国森林の量的な増加ぶりがわかる。
 この森林蓄積の増加は主に人工林の成長によるものである。
 森林の内訳について昭和26年と比較すると、平成14年は、無立木地等が減少しているほかに、天然林が300万ha減少している一方、人工林は約500万ha増加しており、人工林が森林面積の4割を占めるに至っている。
 この間の人工林の造成は、荒廃した森林の復旧とともに天然林を成長の早く利用価値の優れた針葉樹人工林へ転換することを主な目的としていた。戦中、戦後に荒廃した森林の復旧という面では、多くの人々の多大な努力によって造成された人工林が現在も成長を続け、森林のもつ公益的機能の発揮に大きな役割を果たしている。一方の木材生産という点では、戦後造成された人工林がようやく利用期を迎えようとしている。
 森林の造成には、極めて長い期間を要する。過去の荒廃を経験してきた我が国の森林について考える場合、まず、これまで造成されてきた人工林が、今日、森林として成長し、一定の多面的機能を発揮しているということを前向きに評価することが必要である。そのことにより、間伐の推進、長伐期化、複層林や針広混交林への誘導等、個々の森林について自然的条件や地域のニーズ等に応じた望ましい森林へ向けての施業の必要性が明確になる。
 我が国の森林は、「伐らないで守る時代」、「植えて回復する時代」を経て、「成長した森林を活かす時代」に入っている。
 「森林を活かす」とは、木材を生産しつつ、公益的機能も十分に発揮させていくことである。我が国の人工林は、利用可能な林齢の面積が増加してきており、むしろ、木材として利用されないことが、間伐の遅れの原因となり、森林整備への再投資を滞らせ、公益的機能の発揮にも悪影響を及ぼしている。
 森林の整備・保全や木材生産の実際の作業に当たるのは、山村に住み、林業に携わる人たちにほかならない。森林、特に人工林のもつ多面的機能を発揮させていくためには、木材が適切に利用されることにより、伐採、植栽、保育等のサイクルが円滑に循環し、これによって林業の持続的かつ健全な発展が図られるとともに、林業に携わる人たちの生活基盤である山村が魅力的である必要がある。
 他方、森林の整備・保全の着実な推進には、林業、山村で行われている自律的な取組が重要であることはもとより、これらの努力を国民全体で支援していくことが必要である。
 以上のような基本認識の下に、本年度報告する「第1部森林及び林業の動向」では、我が国森林の状況を踏まえた上で、森林からの恩恵を次世代に引き継ぐための林業・山村の取組方策について提示するとともに、森林・林業基本法の理念に基づき、森林、林産物、国有林野事業の各分野についての動向と課題を取り上げた。
 第T章『次世代へと森林を活かし続けるために』では、我が国の森林、特に人工林が量的に充実する一方で、手入れが必要な状況について記述した。そして、森林の整備・保全を進めるには、林業の採算性を向上させ森林所有者の意欲を喚起すること、森林管理の基盤である山村の維持が不可欠であることを明らかにした上で、そのための取組方策として、森林所有者へのきめ細やかな働きかけ、地域材利用の推進、山村資源を活かした森業・山業の創出等について、各地の事例も参考に記述した。さらに、今後も、山村に住み林業に携わる人々が国民の支援を受けつつ、森林の整備・保全を続けていくことが必要であり、そのことにより、森林からの恩恵を次世代に引き継いでいくことが重要であることを提示した。
 第U章『森林の整備・保全』では、地球温暖化防止に向けた我が国の森林吸収源対策の重要性とその課題を記述した。そして、山地災害が多発したことも踏まえ、多面的機能の発揮に向けた森林の整備・保全の取組を記述した。また、国民参加の森林づくりに参加しているボランティアや企業等の現状や課題を記述した。さらに、違法伐採対策や技術協力等持続可能な森林経営に向けた我が国の国際貢献の新たな動きについて整理した。
 第V章『林産物需給と木材産業』では、木材需給の動向を丸太、合板、集成材別に把握した上で、乾燥や流通等、安定供給に向けた体制整備の課題や取組、さらに木材輸出の動きを記述した。特用林産物については、きのこ生産の動向や中国の木炭輸出禁止の動きを記述した。また、木材利用の拡大に向けた意義を訴え、身近な製品への利用やラベリングの取組、木質バイオマスの利用推進等の取組を記述した。
 第W章『「国民の森林」を目指した国有林野における取組』では、「国民の森林」の実現に向け、優れた自然環境をもつ森林の維持・保存、森林環境教育や国民参加の森林づくり等の取組について記述した。また、平成15年度までの集中改革期間における取組の成果を整理して記述した。
注:昭和26年当時は「林野面積」。また、昭和20年代で同じ年に面積と蓄積のデータが揃う例はなく、面積は昭和26年、蓄積は昭和27年のデータを使用した。