T 次世代へと森林を活かし続けるために |
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1 我が国の森林に求められているもの
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(我が国の森林の状況) |
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○ 平成16年は、台風、集中豪雨、地震等による山地災害や森林被害が多発したが、安全で安心できる豊かな暮らしを実現できるよう、災害に強い森林づくりを一層推進していく必要がある。また、このような森林の整備・保全を担う人たちが山村において安定的に就労し、定着することによって、将来にわたる森林づくりの展望も開ける。 ○ 国土の保全、水源のかん養、地球温暖化防止等の森林のもつ多面的機能への国民の期待にこたえていくためには、いかに森林を良好な状態に保つかが大きな課題である。 ○ 森林の面積は、戦後昭和20年代半ばからほぼ変わっていないが、蓄積は人工林を中心に大幅に増加している。ha当たりの森林蓄積は現在161m3まで増加し、少なくともこの半世紀で我が国の森林資源は量的に最も充実した状況にある。 |
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○ 人工林面積の約2割は一般的に伐採利用が可能となる林齢46年生以上であり、木材資源として利用段階に入りつつある。 ○ 森林の土砂の流出や崩壊を防ぐ働きは、適切に管理された人工林であれば天然林とほとんど変わらない。また、二酸化炭素吸収量の大きい針葉樹から主に構成されている人工林は、地球温暖化防止に果たす役割が大きいなど、人工林は適切に管理することで公益的機能の発揮が期待できる。 ○ 一方、我が国では、ササ、つる等の植物が繁茂しやすいことから、植栽から20年生程度までの集中的な手入れが必要である。また、降水量が台風時等に集中し、土壌が浸食されやすい環境にあることから、その後の適切な間伐が不可欠である。 ○ 人工林の手入れが十分でない状況が進めば、林産物生産はもとより、公益的機能の発揮にも支障をきたすおそれが増していくことになる。 |
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図T−1 平成16年に日本に上陸した台風 |
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図T−2 我が国の森林面積及び蓄積の推移 |
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資料:林野庁業務資料 | |||
表T−1 昭和27年と平成14年の我が国の森林の比較 |
面 積 千 ha | 蓄 積 千 m3 | ha当たり 蓄積 m3/ha | |
昭和27年 | 24,745 | 1,722,867 | 70 |
平成14年 | 25,121 | 4,040,124 | 161 |
資料:林野庁業務資料 | |
注:昭和27年は、森林面積の統計がなく、表の数値は昭和26年8月1日現在のもの | |
図T-3 我が国人工林の林齢別面積(平成14年3月31日現在) |
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資料:林野庁業務資料 | |
○ これまで、森林の再生能力を超える伐採により森林荒廃の危機に直面したことはあったが、人工林において伐採、植栽、保育等のサイクルが円滑に循環しないことにより、公益的機能の発揮にも支障をきたすおそれが生じるのは歴史上はじめてのケースである。 ○ 森林のもつ公益的機能の発揮に関し、我々が直面している最も大きな課題は、これまでに造成された人工林について、木材資源として利用の可能性が高まっていることを踏まえつつ、その整備・保全をいかに進めていくかにある。 |
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(林業のもつ意義) |
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○ 林業は、植栽、保育、伐採等の施業や森林管理を通じて、森林のもつ多面的機能を維持・向上させるという役割をもつ一方、持続可能な森林生態系の生産力を基礎とし、環境への負荷の少ない産業である。 ○ 森林面積の6割は私有林であり、森林所有者の施業への意欲を向上させるためには、林業の採算性の向上が不可欠である。 |
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○ 山村に居住する森林所有者や林業就業者は、日常的な森林管理活動を通じて、森林のもつ多面的機能の発揮による安全で豊かな国土の形成に重要な役割を果たしている。 ○ 都市側からみた山村の魅力として、グリーンツーリズムや森林セラピーなど、新たな需要も現れている。また、山村には、多様な伝統・民俗文化が残り、我が国の文化継承のためにも山村の維持は欠かせない。 ○ 国産材価格が低迷し、林業経営体の収入は減少し、一方で山村の魅力の低下、伐採・育林等の事業量の減少、国産材の供給量の減少といった事態が悪循環をなしている状況にある。一つ一つの課題を並行的に克服する中で全体を好転させていく地道な努力が必要である。 |
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図T−4 保有山林面積3〜20haの林家の意向 |
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(1)今後の木材生産の意向 | (3)間伐を実施する考えのない理由 |
(複数回答) | |
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(2)間伐実施の意向(間伐期にある保有山林) | |
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資料:(1)、(2)、(3)ともに農林水産省「林家の森林施業に関する意向調査(平成16年7月調査)」 | |
図T−5 林業・山村をめぐる課題のつながり |
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(持続的な林業生産活動の推進) |
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○ 森林施業の停滞は、林業の採算性の低下によって森林所有者の施業意欲が低下していることが原因の一つである。コスト縮減を図り、採算性を向上させながら、経営意欲の喚起を図ることが必要である。 ○ 我が国の私有林の所有構造は、小規模分散的であり、林業生産の効率化を図るためには、施業の集約化が必要である。 ○ 施業の集約化を進めるに当たっては、森林組合等の林業事業体が、森林所有者に対して、現況写真などにより具体的に施業の必要性を喚起し、必要経費、木材販売額、施業の方針などを提示しながら施業意欲を引き出す取組が有効である。 ○ コスト縮減については、高性能林業機械の積極的導入、路網整備、列状間伐等の導入による育林作業の省力化等を進めることが重要である。 |
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○ 地域材利用の推進については、ターゲットを明確にして供給体制整備の方向を定めることが必要である。また、近年、消費者側には、地域材や健康に配慮した木材を利用したいという意識が芽生えつつあるが、それを具体的な需要につなげることが重要である。 ○ 一つの方向は大量消費市場に向けた取組であり、住宅メーカー等が必要とする製品を安定的に供給するために、丸太から木材製品までを一貫して生産・流通させるシステムの形成が必要である。 ○ もう一つの方向は、関係者の連携による「顔の見える木材での家づくり」のように最終消費者の多様なニーズに対応した製品供給を実施する取組であり、木材の品質や産地等の情報の提供によって、消費者が安心して納得のいく住宅を取得できるようにするシステムの形成が必要である。 |
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図T−6 木材を利用した住宅を選ぶとき重視すること(複数回答) |
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資料:内閣府「森林と生活に関する世論調査(平成15年12月)」 | |
表T−2 地域材利用推進の取組(滋賀県)(事例) |
滋賀県では、県産木材活用推進協議会が、「木の香る淡海の家推進モデル事業」として、県産木材の利用を通じて森林整備の推進を図ることを目的に、県産木材を使用した住宅を県内で新築または増築する人を対象として、1戸当たり最高で100本の県産乾燥柱材(ヒノキ)の無償提供を行っている。平成16年度は、応募のあった41戸に対して無償提供を実施した。 なお、このほか、11道県で、地域材の無償提供の取組が行われている。 |
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(林業就業者の確保・育成、山村の活性化) |
○ 林業就業者は長期的には減少傾向で推移し、高齢化も進行している。一方で、林業を「自然の中で働ける職場」として捉える見方もあり、平成11年度以降新規就業者は2千人台で推移している。さらに平成15年度は、「緑の雇用」事業の効果等から4千人を超えるまで増加した。 ○ しかし、新規林業就業者の4〜7年後の定着率は55%に過ぎず、就業期間がより長期に見込める若年層の就業者の確保とその定着が課題である。 ○ 新規就業者の3割がUIターン者であり、特にIターン者は山村の生活、住民との相互関係を新たに構築していくことが必要であるため、定住環境の支援が重要である。 ○ 魅力ある山村の構築に向けては、山村に豊富な資源を活用した産業の育成が重要であり、特用林産物の振興、地域の創意工夫による森林資源等を活かした新たな産業(森業・山業)の創出等、地域にあった振興策に取り組むことが重要である。 |
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○ 我が国の人工林は次第に成熟している。自然的条件や地域のニーズ等に応じて、必要な場合は針広混交林等に誘導しながら、これまで造成されてきた人工林資源を活かしていくことが重要である。 ○ 木材需要が確保され、適切に利用されることで、林業の持続的かつ健全な発展が図られ、森林のもつ多面的機能の発揮が確保される。 ○ 今、我々が恩恵を受けている森林の姿は、これまで林業・山村を支える人々が行ってきた積年の取組の成果である。これらの人々が、国民の支援を受けつつ、森林の整備・保全を続けていけることが必要である。 ○ 森林からの恩恵を次世代に引き継いでいくことが、林業・山村、そして国民全体の使命である。 |
表T−3 和歌山県の「緑の雇用」の取組(事例) |
和歌山県では、平成14年度から緊急雇用対策を活用して、UIターン者等を森林整備の新たな労働力として受け入れる取組を推進しており、「緑の雇用担い手育成対策事業」にも積極的に取り組んでいる。 また、和歌山県では、単に林業に関する技術習得の場をつくるだけでなく、UIターン者が山村で定住できるよう様々な取組を行っている。住宅対策では、住宅の建設や民家の空き屋の提供、本人や家族の収入確保等では、農協や食堂でのパート、木工や農業の技術習得等をサポートしている。 これらの取組の成果もあり、今年度新たに緊急雇用対策で雇用された者を含め、平成16年12月現在、県内からの森林作業従事者251名のほか、県外からは329名、家族を合わせると524名が新たに県内に居住するようになっている。 |
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表T−4 どこにでもある資源の活用(徳島県上勝町)(事例)
徳島県上勝町では昭和61年に地元有志が集まり、山野に自生する植物の葉や小枝、花などの地域資源を料理の器の飾り「つまもの」として商品化した。その後、昭和63年には農協に「彩」部会を結成、平成11年には商品の宣伝や生産者への情報提供を行う第3セクター「いろどり」が設立され現在では、町内農家の約4割が携わり、総販売額は2億5千万円(平成15年度)に到達するまでに規模は拡大している。また、携わる生産農家のほとんどは高齢者が主体だが、それぞれの生産者が、パソコンを通じて生産状況等を踏まえながら独自に出荷を考えるなど、高齢者の生きがいにもなっている。 | ![]() |
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表T−5 長野県信濃町の「癒しの森」プログラム(事例)
長野県信濃町では、森林の保健休養機能を活用した取組を目指し、「癒しの森」プログラムを開始した。 既存の散策路を距離や勾配によっていくつかにコース分けし、ウォーキングコースを設定するとともに、観光業関係者を中心とした希望者を対象に「森林メディカルトレーナー」として養成し、平成16年までに、約100名が町長から認定を受けるに至っている。 本格的な受入れは雪解け後の平成17年の春以降になる見通しだが、これまでの取組は町民主体で行ってきており、今後も、農業、林業、観光業、医療関係者等を含め、町民一体となって、町全体を癒しの空間にすることを目指している。 |
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