林業経営基盤の強化並びに木材の生産及び流通の合理化に
関する事項についての基本方針について(案)

第1 林業経営基盤の強化に関する基本的な事項

1 育成すべき林業経営体及び林業事業体についての基本的な考え方

 近年、国民の価値観が多様化、高度化していることに伴い、森林に対しては、林産物の供給のみならず、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止等の多面にわたる機能の持続的な発揮が求められており、このためには、これら森林の有する多面的機能の発揮に重要な役割を果たしている林業の持続的かつ健全な発展を図っていく必要がある。
 また、我が国の森林資源は人工林を中心に徐々に伐採可能な時期を迎えつつあり、これを将来にわたって健全な森林として維持し、多面的機能を十全に発揮していくためには、多様な森林の整備を進めていくとともに、今後急激に成熟化が進行することから、その持続的利用を図っていくことが重要になっている。
 このような中で我が国の林家等の森林所有規模は一般に零細であり、また、木材価格の低迷、林業経営コストの増大等による林業の採算性の悪化、林業収入への依存度の低下等から、林業経営意欲の低下した森林所有者が増加し、森林の有する公益的機能の確保にも支障をきたすことが懸念されている。
 このような現状にかんがみ、林業生産活動の活発化を図るとともに、これを通じて森林を適切に整備し、森林の有する多面的機能を持続的に発揮していくため、効率的かつ安定的な林業経営の担い手として、地域の林業経営のリーダー役となる、主として所有森林を対象に林業経営を行う林家等の林業経営体や、主として施業等の受託により林業経営を行う森林組合、素材生産事業体、造林事業体等の林業事業体を育成し、これらの者に経営意欲の低下した森林所有者等の施業や経営を集約化していくことが必要である。
 このため、林業経営体や林業事業体が経営規模の拡大や生産方式の合理化等により効率的かつ安定的な林業経営の展開を図ることができるよう、次の事項に留意し、地域における育成すべき林業経営体像及び林業事業体像を明らかにするとともにその実現に向けた林業経営基盤の強化を促進するものとする。

2 育成すべき林業経営体及び林業事業体についての基本的な事項

(1) 林業経営体について

ア 地域の林業経営の規模や態様等の実態を踏まえた効率的かつ安定的な林業経営を担い得る林業経営体を育成すること。

イ 育成すべき林業経営体は、林家、会社、森林整備法人等多岐にわたることから、それぞれの特性に応じた適切な林業経営基盤の強化を進めていくこと。
 この場合、林業経営体の規模・態様等の実態に応じ、育成すべき林業経営体像も異なることから、例えば、

(ア) 林家にあっては、相当規模の森林を所有し、又は一部施業や経営を受託することにより、継続的な林業生産活動を行い、主たる従事者の生涯所得が基本的には地域における他産業従事者と遜色のない水準の確保を達成すること
 この場合、木材生産による所得を補完する観点から特用林産物等による所得も含めるものとすること
 なお、林家が法人化した会社にあっても、相当規模の森林を所有し、又は一部施業や経営を受託することにより、継続的な林業生産活動を行い、これに必要な適切な経費を支出した上で利益の確保を達成すること

(イ) 会社等にあっては、林業部門と他部門との会計上の分離、事業や労務に関する長期計画、経営の多角化に関する方針等を明確化すること

(ウ) 森林整備法人等にあっては、経営に関する基本方針、事業に関する計画等を明確化すること
等経営体の実態に応じた目標とすること。

ウ これらの目標は、林業経営体の規模・態様等の実態を踏まえ、次に掲げる指標を基準として明らかにすること。この場合、必要に応じ自己森林経営型、施業受託併用型、特用林産併用型等の類型区分を行うこと。

(ア) 林業経営の規模
 林業経営の規模に関する指標は、植栽方法別、樹種別、齢級構成別面積及び蓄積、地位(林地の肥沃度)、特用林産物の種別及び生産量等とすること。また、施業や経営の受託を行う場合は、その面積、施業内容等とすること。

(イ) 生産方式
 生産方式に関する指標は、機械装備の種類、台数及び生産能力、保育、間伐等の施業体系、伐期、伐採方法等の生産体系、作業道等の林内路網密度、特用林産物の生産方式等とすること。

(ウ) 経営管理方法
 経営管理方法に関する指標は、複式簿記の記帳、青色申告の実施、林業部門と他部門の会計処理の分離等の財務管理のほか、労務管理、作業管理、販売管理等とすること。

(エ) 事業実行方式等
 事業実行方式に関する指標は、立木又は素材の共同販売、委託販売等の導入等とすること。このほか、自家労働と雇用労働の配分、定期的な休日制の導入、給料制の導入、社会保険の導入等の林業従事の態様に関する指標や、森林施業技術や経営方法等に関する研修の受講、労働災害防止や安全衛生施設の導入等に関する措置とすること。

(2) 林業事業体について

ア 地域の林業経営の規模や態様等の実態を踏まえた効率的かつ安定的な林業経営を担い得る林業事業体を育成すること

イ 育成すべき林業事業体は、森林組合、素材生産事業体、造林事業体等多岐にわたることから、それぞれの特性に応じた適切な林業経営基盤の強化を進めていくこと。具体的には、例えば、森林所有者から施業や経営を受託すること等により相当規模の事業を確保し、生産性の高い林業生産活動を行い、これに必要な適切な経費を支出した上で利益の確保を達成すること等事業体の実態に応じた目標とすること。

ウ これらの目標は、林業事業体の規模・態様等の実態を踏まえ、次に掲げる指標を基準として明らかにすること。この場合、必要に応じ、造林事業主体型、素材生産主体型、造林・素材生産総合型等の類型区分を行うこと。

(ア) 林業経営の規模
 林業経営の規模に関する指標は、年間の素材生産量、作業種別の施業の受託面積(長期の施業受託や経営受託によるものを含む)とする。

(イ) 生産方式
 生産方式の指標は、機械装備の種類、台数及び生産能力等とする。

(ウ) 経営管理方法
 経営管理方法の指標は、林業部門と他部門の会計処理の分離等財務管理、労務管理、作業管理、販売管理等とする。

(エ) 事業実行方式等
 事業実行方式に関する指標は、技術士や林業技士等林業に関する技術者又は技能者の配置等事業実施体制に関する措置とすること。このほか、定期的な休日制の導入、月給制の導入、社会保険の導入等の林業従事の態様に関する指標や、森林施業技術や販売方法等に関する研修の受講、労働災害防止や安全衛生施設の導入等に関する措置とすること。

3 林業経営基盤の強化に関する措置についての基本的な事項

(1) 林業経営体について
 林家、会社及び森林整備法人等、林業経営体の規模・態様等に応じ、林業経営基盤の強化のための具体的措置を実施すること。

ア 経営方針の明確化
 地域の自然的、経済的諸条件、経営の規模・態様、森林の内容等に応じた林業経営体ごとの林業経営の基本的な方針を明確にすること。

イ 林業経営基盤の強化

(ア) 経営規模の拡大

a 森林の取得
 自己所有森林と一体的な施業が行い得る森林、適切な森林整備が遅れている森林等の取得、分収林契約の締結等を行うこと。

b 森林施業等の受託
 自己所有森林と一体的に施業が行い得る森林等の施業や経営の受託を行うこと。

(イ) 生産方式の合理化

a 生産性の向上
 地域の特性に適合した高性能林業機械の導入、作業道等の計画的な整備の推進等による施業の合理化を図ること。

b 長伐期施業等の推進
 今後の森林整備の多様化の方向を踏まえ、地域の施業体系、地位(林地の肥沃度)、地理的条件等を勘案しつつ、長伐期施業の導入等により林業経営の安定化を図ること。また、これらの施業に適切に対応できるよう研修の受講等により技術の向上を図ること。

(ウ) 林業経営の複合化
 木材生産による林業所得を補完する観点から、地域の需給動向等に応じた特用林産物等の生産を行うこと。 このほか、都市部からの地理的条件等を勘案しつつ、キャンプ場、宿泊施設等の運営、木工品の生産、特用林産物の加工等を行うこと。

(エ) 経営管理の合理化
 林業経営に係る収支及び資金計画の明確化、労働力の投入・配分の合理化及び適正化等の経営管理の合理化を推進すること。

(2) 林業事業体について
 森林組合、素材生産事業体、造林事業体等林業事業体の規模・態様等に応じ、林業経営基盤の強化のための具体的措置を実施すること。

ア 経営方針の明確化
 地域における森林の所有構造、林業生産活動の実態等に応じた林業事業体ごとの林業経営の基本的な方針を明確にすること。

イ 林業経営基盤の強化

(ア) 経営規模の拡大
 経営意欲の低下した森林所有者等の施業や経営を積極的に受託すること等により相当規模以上の素材生産、造林及び保育の事業の確保を図ること。
 特に長期の施業受託や経営受託によるものの確保に取り組むこと。

(イ) 生産方式の合理化
 地域の特性に適合した高性能林業機械の導入による生産性の向上、研修の受講等により森林施業技術の向上を図ること。また、施業等の受託に当たっては、対象森林の団地的まとまりの確保により施業の効率化を図ること。

(ウ) 経営管理の合理化
 林業経営に係る収支及び資金計画の明確化、施業の計画的な受託等による年間を通じた事業量の平準化、労働力の投入・配分の合理化及び適正化等の経営管理の合理化を推進すること。

第2 木材の生産及び流通の合理化に関する基本的な事項

(今回は見直しを行っていないことから省略)