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青森事務所

管理計画

白神山地世界遺産地域管理計画

前文

白神山地世界遺産地域(以下「遺産地域」という。)のブナ林は、純度の高さやすぐれた原生状態の保存、動植物相の多様性で世界的に特異な森林であり、氷河期以降の新しいブナ林の東アジアにおける代表的なものである。また、様々な群落型、更新のステージを示しつつ存在している生態学的に進行中のプロセスとして顕著な見本となっている。本地域のこうした自然環境は、「陸上・淡水域・沿岸・海洋の生体系や生物群集の進化発展において重要な進行中の生態学的生物学的過程を代表する顕著な見本である」と判断され、平成5年12月、世界遺産条約に基づき世界遺産一覧表に登録された。

世界遺産登録の過程においては、平成5年6月、世界遺産委員会ビューロー会議から、1)推薦地域の拡大、2)法的地位の格下げ、3)管理体制の改善を含む管理計画の策定を勧告され、これを受け、日本政府として世界遺産委員会事務所に対し、1)推薦地域を拡大すること、2)現行制度でも厳格な保護が担保されていることの確認、3)関係省庁と両県による連絡会議を設け連帯のとれた管理に努めるとともに管理計画を策定することを内容とする回答を同年9月に行った。世界遺産委員会は、日本政府のこの対応を評価し、一覧表への登録が認められたところである。以上の経緯を踏まえ、このたび、本管理計画を策定したものである。

なお、本管理計画の策定に当たっては、平成7年9月、骨子案を公表し、地元の意見を聴く会、文書による意見の受け付け等を通じて、出された関係者の意見等を参考にしつつ計画の策定を行った。

1.目的

本管理計画は、遺産地域の保全に係る各種制度を所管する関係行政機関(環境省、林野庁、文化庁、青森県、秋田県をいう。以下同じ。)が相互に緊密な連携を図ることにより、遺産地域を適正かつ円滑に管理することを目的とし、各種制度の運用及び各種事業の推進等に関する基本的方針を明らかにするものである。

2.遺産地域の概要

白神山地は、青森県南西部と秋田県北西部の県境にまたがる標高100メートルから1,200メートル余に及ぶ山岳地帯の総称である。
地質は、主として中生代白亜紀にできた花崗岩類を基盤に、新生代新第三世紀中新世の堆積岩とそれを貫く貫入岩類で構成されている。地形は、壮年期的な様相を呈し、深い谷が密に入り組んでおり、30度以上の急傾斜地が半分以上を占めている。

当山地のブナ林内には多種多様な植物群落が共存し、かつブナ林を背景とした豊富な動物群が生息するなど、当山地は、我が国の固有種であるブナを主とする森林の博物館的景観を呈する地域である。

遺産地域は、この白神山地の核心部に位置し、都市から遠く離れ、傾斜が急峻で森林の伐採もほとんど行われていない。従来から、ごく限られた範囲の地元住民による山菜採り等の伝統的な利用がなされてきているが、ほとんど手つかずの状態になっており、白神山地の中でも人為的な影響をほとんど受けていない特に原生的なブナ林が残されてきた地域である。また、河川については、一部に堰堤があるものの、遺産地域内は良好な渓相がよく保たれている。

本地域の保護の歴史は新しく、明確な制度的保護措置がとられたのは1990年の森林生態系保護地域の設定、1992年の自然環境保全地域の指定等最近のことである。

遺産地域の概要は次ぎのとおりである。

(1)位置

遺産地域は、青森県南西部と秋田県北西部の県境にまたがる北緯40度22分~40度32分、東経140度2分~140度12分に位置し、標高300メートルから1,243メートルの向白神岳に及ぶ山岳地帯である。

関係する町村は、
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町、深浦町、岩崎村
中津軽郡西目屋村
秋田県山本郡藤里村
である。(図-1 位置図)

(2)面積等

遺産地域は、面積16,971ヘクタールで、その全域が林野庁所管の国有林野となっている。

(3)植物相

遺産地域には、我が国の冷温帯における気候的極相であるブナ林が原生的な状態で残存している。林内や山頂部の風衝地、崖すい、露頭部の岩れき地等において500種以上の多様な植物が確認されている。この中には、アオモリマンテマ等の地域固有の植物や、トガクシショウマ等の分布が極めて限られている種、北限・南限に当たる種、あるいは高山植物などの貴重な植物も含まれている。

(4)動物相

動物についても、遺産地域には豊かなブナ林を主な生息地として、多くの哺乳類、鳥類、昆虫類、は虫類、両生類、淡水魚類等が生息している。

中大型哺乳類に関しては、東北地方に分布する中大型哺乳類16種のうち、非常に多い降雪量のため生息が困難なニホンジカ、イノシシを除く14種が生息する。この中には、ニホンザル、ツキノワグマや特別天然記念物に指定されているニホンカモシカも含まれる。

鳥類についてみれば、天然記念物に指定されているイヌワシやクマゲラ、その他クマタカ、シノリガモ等貴重な種を含め84種の生息が確認されている。

昆虫類も豊富で、約2,000種の生息が確認されている。この中には、分布の北限又は南限となっているものもある。

3.管理の枠組み

(1)基本的な考え方

本地域の世界遺産としての価値を将来にわたって維持していくことを目標として、保全に係る各種制度の趣旨を踏まえつつ、遺産地域全体の一体となった管理を行う。

遺産地域を、1)特にすぐれた植生を有し、また、人為の影響をほとんど受けていない核心的な地域(以下「核心地域」という。)、2)核心地域の周辺部の緩衝帯としての役割を果たす地域(以下「緩衝地域」という。なお、本地域は、世界遺産委員会ビューロー会議の勧告を受けて推薦の拡大をした地域。)の2種類に管理区分し、この管理区分に沿って管理を行う。(図-2管理区分図)

管理区分の面積

(2)地域指定制度等の概要

核心地域については、自然環境保全地域の特別地区及び野生動植物保護地区、国定公園の特別保護地区並びに森林生態系保護地域の保存地区として厳正に保護している。

緩衝地域については、自然環境保全地域の普通地区、森林生態系保護地域の保全利用地区として保全している。緩衝地域の一部には国定公園、県立自然公園も含まれている。(図-3地域指定区分図)

ア 自然環境保全地域

「自然環境保全地域」は、すぐれた天然林など一定の要件を満たす区域のうち、その区域における自然環境を保全することが特に必要なものについて、環境大臣が「自然環境保全法」に基づき指定及び管理する地域である。

白神山地の核心部は、平成4年7月、同法に基づき「白神山地自然環境保全地域」に指定された。本地域には、特に保全を図るべき土地の区域である「特別地区」が9,844ヘクタール指定されており、工作物の新築、土地の形質の変更、土石の採取、木竹の伐採などの行為は、環境大臣の許可が必要とされている。これと同一の地域が「野生動植物保護地区」に指定されており、保護対象となっている108種類の植物の採取、損傷が禁止されている。これらの地区は、全て遺産地域の核心地域に含まれている。

特別地区以外の地域は「普通地区」であり、一定規模をこえる工作物の新築、土地の形質の変更等の行為について環境庁長官への届出が必要とされている。普通地区は、すべて遺産地域の緩衝地域に含まれている。

イ 自然公園(国定公園、県立自然公園)

自然公園は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって国民の保健、休養及び教化に資することを目的として「自然公園法」に基づき指定される公園で、「国立公園」、「国定公園」「都道府県立自然公園」の3種類がある。

本遺産地域には、環境大臣が同法に基づき指定し、青森県知事が管理している「津軽国定公園」と、青森県知事が条例に基づき指定・管理している「赤石渓流暗門の滝県立自然公園」、及び秋田県知事が条例に基づき指定・管理している「きみまち坂藤里峡県立自然公園」が含まれている。津軽国定公園には、公園の保護及び利用上重要な地域であって工作物の新築や木竹の伐採等の行為は県知事の許可が必要とされている「特別地域」、及び公園の核心的部分を厳正に保護する地域であって工作物の新築や木竹の伐採等に加え、動植物の採捕、落葉落枝の採取やたき火なども県知事の許可が必要とされている「特別保護地区」が指定され、それぞれの地種区分に応じて規制されている。両県立自然公園には特別地域が指定され、同様の規制が行われている。

ウ 森林生態系保護地域

「森林生態系保護地域」は、我が国の森林帯を代表する原生的な天然林が相当程度まとまって存在する地域を保存することによって、森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、森林施業・管理技術の発展、学術研究等に資することを目的として林野庁が「国有林野管理経営規程」に基づき設定及び管理する地域である。

白神山地の核心部のブナ林を中心とした地域は、本制度に基づき、平成2年3月、「白神山地森林生態系保護地域」に設定された。最も原生的状況を呈する林分であり、森林生態系の厳正な維持を図る地区である「保存地区」は、学術研究や非常災害時の応急処置のための行為等を除き、原則として、人手を加えずに自然の推移にを委ねることとしている。保存地区の森林に外部の環境変化の影響が直接及ばないよう緩衝の役割を果たす地区である「保全利用地区」については、木材生産を目的とする森林施業は行わず、自然条件等に応じて、森林の教育的利用、大規模な開発行為を伴わない森林レクリエーションの場としての活用を行うものとしている。

遺産地域は、全域が森林生態系保護地域と重複しており、その保存地区が本計画の「核心地域」と、保全利用地区が「緩衝地域」と一致している。

エ 天然記念物

文部大臣は、「文化財保護法」に基づき、動植物(生息地、繁殖地、渡来地及び自生地を含む。)、地質鉱物(特異な自然現象の生じている地域を含む。)で我が国にとって学術上価値の高いもののうち重要なものを「天然記念物」に、「天然記念物」のうち特に重要なものを「特別天然記念物」に指定することができる。

遺産地域に生息・育成する動植物のうち、ニホンカモシカが特別天然記念物に、また、クマゲラ、イヌワシ、ヤマネの3種が天然記念物に指定されており、その現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは文化庁長官の許可が必要である。

(3)管理体制

遺産地域は、上記の各種制度を所管する環境省、林野庁、文化庁、青森県及び秋田県が密接な連携の下に一体となった管理を行う。
より効果的な協力、連携を図るため、遺産地域の管理に当たっては、上記の関係行政機関の連絡調整の場として「白神山地世界遺産地域連絡会議」(以下「連絡会議」という。)を設置し、相互の協力、連携を図りつつ、一体となって遺産地域の適正かつ円滑な管理を行う。
また、遺産地域の管理を効果的に実施するためには、地元の理解と協力の増進が不可欠であることから、連絡会議と地元の市町村及び関係団体との連携を図る。

自然公園は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって国民の保健、休養及び教化に資することを目的として「自然公園法」に基づき指定される公園で、「国立公園」、「国定公園」「都道府県立自然公園」の3種類がある。

本遺産地域には、環境大臣が同法に基づき指定し、青森県知事が管理している「津軽国定公園」と、青森県知事が条例に基づき指定・管理している「赤石渓流暗門の滝県立自然公園」、及び秋田県知事が条例に基づき指定・管理している「きみまち坂藤里峡県立自然公園」が含まれている。津軽国定公園には、公園の保護及び利用上重要な地域であって工作物の新築や木竹の伐採等の行為は県知事の許可が必要とされている「特別地域」、及び公園の核心的部分を厳正に保護する地域であって工作物の新築や木竹の伐採等に加え、動植物の採捕、落葉落枝の採取やたき火なども県知事の許可が必要とされている「特別保護地区」が指定され、それぞれの地種区分に応じて規制されている。両県立自然公園には特別地域が指定され、同様の規制が行われている。

4.管理の方策

(1)基本方針

世界遺産としての価値を損なうことのないよう、核心地域、緩衝地域の管理区分に沿って的確に保全を図る。

一体となって効率的及び効果的な管理の実施を図る観点から、関係行政機関は、相互に連携を図るとともに、連絡会議の場等を通じて、連絡調整に努める。

ア 核心地域

人手を加えずに自然の推移に委ねることを基本とし、工作物の新築や土石の採取など、自然環境の保全上支障を及ぼすおそれのある行為は、学術研究等特別の事由がある場合を除き、各種保全制度に基づき厳正に規制する。

特に、世界遺産一覧表への登録による知名度の上昇により、遺産地域の一部で入山者が急増し、人の入込みによる自然環境への影響が懸念されていることを踏まえ、既存の歩道を利用した登山等を除き、本地域への立ち入りは規制するものとする。なお、規制の態様については、入り込みの状況、地元の意見等を踏まえ、更に検討を進める。

イ 緩衝地域

必要に応じ、一定の行為を規制し、現状の保全を図る。特に、核心地域の自然環境に影響を及ぼす行為については、厳正に規制する。
なお、木材生産を目的とする森林施業は行わないこととし、本地域内に含まれる既存の人工林は複層林施業等により、将来は天然林に導くものとする。

(2)動植物の保護

管理区分に沿いつつ、各種制度に基づき動植物の保護の徹底を図る。

ツキノワグマをはじめとする動物については、今後とも自然環境の調査、モニタリングを実施するとともに、その結果等を踏まえ、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」に基づく「鳥獣保護区」の設定を含む所要の保護措置を的確に実施する。

ア 核心地域

木竹の伐採及び植物の採取は、学術研究等特別の事由を除き、厳正に規制する。天然記念物に指定されている動物の捕獲並びに繁殖を妨げる行為は、厳正に規制する。

土地の形質変更など動植物の生息・生育環境に影響をもたらす行為は、厳正に規制する。

イ 緩衝地域

動植物の生息・生育環境に支障を及ぼすおそれのある土地の形質変更等の行為を規制し、動植物の保護を図る。天然記念物に指定されている動物の捕獲並びに繁殖を妨げる行為については、厳正に規制する。

(3)野外レクリエーションの取扱い

白神山地の自然が有する世界遺産としての価値を損なわないよう、以下の管理区分ごとの方針に即して、野外レクリエーションの適正な誘導を図る。

なお、遺産周辺地域の林道のうち、核心地域への利用者の入り込みに影響を及ぼす可能性のあるものについては、一般車両の通行の規制等アクセスの適正化について検討する。

ア 核心地域

既存の歩道を利用した登山等については、植生等への悪影響が生じないよう適正な利用へ誘導する。
その他の野外レクリエーションについては規制する。

イ 緩衝地域

各種制度の趣旨に反しない範囲において、森林の文化・教育的利用、簡易な森林レクリエーションの場、すぐれた自然とのふれあいの場として利用することができるものとする。

(4)管理事業の実施

遺産地域の管理を行うに当たっては、地元の理解と協力の増進に努め、より適切な管理の実施を図る。

ア 巡視

環境省及び林野庁は相互に連携を図りつづ、遺産地域の管理の一環として、森林管理署等職員等による遺産地域内の巡視活動を適宜実施する。また、これを補完するため、民間のボランティアに巡視を委嘱する。

青森県及び秋田県は、遺産地域の管理に関し、それぞれ自然保護指導員を委嘱して巡視活動を実施する。

今後とも、これらの巡視体制を充実するほか、地域全体における一層の効果的な巡視を図るため、連絡会議においてその調整を行うことなどにより、関係機関の連携を強化する。

司法警察員としての資格を有する森林管理署等職員等については、違法行為の取締を迅速に行うため、巡視活動の充実を図るとともに、違法行為発見時における関係機関への連絡体制の強化等を図っていく。

イ 管理施設の整備

遺産地域の適切な管理を促進するため、自然環境への影響に配慮しつつ、必要に応じ標識、巡視歩道等の管理施設の整備を行う。

(5)情報提供、環境教育活動

遺産地域の価値や保護の必要性について、情報提供や環境教育等を通じて、国民の理解と協力を増進することが重要である。このため、遺産地域に関する自然や文化、利用施設等について情報提供の体制を整備するとともに、白神山地の自然が有する世界遺産としての価値についての解説、来訪者自身が学習する場や機会の提供を積極的に行う。

具体的には、当面次のような施策を講じる。

  1. 適切な地域に、遺産地域についての展示、解説等を行う施設を整備する。 
  2. 森林の仕組み、働き及び森林との接し方についての普及啓発を森林管理局(分局)・署等及び藤里森林センターにおいて推進する。
  3. 保護意識の普及、啓発のためのポスター、リーフレットを作成し、適宜、掲示や来訪者への配布を行う。また、案内板、解説板、標識等を設置する。
  4. 環境教育活動に関するプログラムを研究、開発する。また、遺産地域内での自然観察の指導や登山指導のあり方について検討する。

(6)調査研究、モニタリング

遺産地域の自然環境については、未解明の部分が多々残されていることから、学術研究上必要な調査や長期にわたるモニタリング等を実施し、基礎的なデータの収集に努める。特に、遺産地域の自然環境及び人為の影響等について長期的なモニタリングを実施する。
また、調査研究、モニタリングのための拠点施設を整備し、データの集積、提供、標本の保管などを実施する。特に「白神山地世界遺産センター」等の研究拠点の整備を図る。

さらに、調査研究、モニタリングについて、関係団体等と連携、協力が図れるものについて、積極的に対応する。 

5.計画の実施その他の事項

狩猟、山採採り、魚釣り、野外レクリエーション等の細部にわたる取扱いについては、本管理計画を基に、必要に応じ地元関係者等の意見を聴きつつ、適宜連絡会議において確認していくものとする。

なお、本管理計画は、社会条件の変化等を踏まえ、必要に応じ、見直しを行うものとする。その際には、地元関係者等の意見を聴くこととする。

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