岩手南部森林管理署遠野支署
署長が語る!
令和2年2月
岩手南部森林管理署遠野支署
支署長 野木宏祐
1 はじめに
平成12年4月1日、私は森林官として1年間勤務した久慈支署安家森林事務所から青森県の碇ヶ関村(現平川市)に赴任するために北上山地を後にしました。離任に際しては「将来、署長になって、また北上山地に帰ってきます!」と挨拶したのですが、19年を経た平成30年4月、遠野支署長として、本当に北上山地に赴任することになり「言霊(ことだま)」の力を意識しました。常日頃から言葉は大切にしたいものです。
さて、「署長が語る!」では、第23回(平成27年5月)で前々任の仙北谷彰氏、第50回(平成29年9月)で前任の小笠原孝氏が執筆していますので、今回は、内容が重複しないよう、最近の遠野支署の取組などを紹介しつつ、支署長として普段考えていることを語りたいと思います。長い文章ですがお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
2 遠野支署の管内の変遷
現在、遠野支署は、岩手県遠野市全域と花巻市の東部地域(旧稗貫郡大迫町及び旧和賀郡東和町の区域)を管轄し、36,375haの国有林野を管理しています。管内の国有林野率は30%(遠野市36%、花巻市東部17%)です。
表1 支署の位置・管轄区域(農林水産省組織規則による。)
支署の名称 |
位置 |
管轄区域 |
岩手南部森林管理署遠野支署 |
遠野市 |
遠野市 花巻市(旧稗貫郡大迫町及び旧和賀郡東和町の区域に限る。) |
当支署の管轄地域は、旧遠野営林署の管轄地域と旧花巻営林署管轄地域のうちの東部に該当しますが、旧両署の境界はやや複雑なものとなっています。
つまり、旧宮守村(現遠野市)の達曽部(旧上閉伊郡達曽部村)と下宮守の一部(黒日陰国有林)は花巻営林署、旧東和町(現花巻市⦆の旧谷内村の区域は遠野営林署が管轄しており、宮守村と東和町の区域は、遠野署と花巻署が分割して管轄する形となっていました。また、東和町のうち旧中内村の区域は、川尻営林署(後の湯田営林署)が管轄していました。
これは、昭和29(1954)年の市町村合併の際に旧和賀郡東和町と旧上閉伊郡宮守村が発足して、遠野署が管轄していた旧和賀郡谷内村が東和町に、花巻署が管轄していた旧上閉伊郡達曽部村が宮守村にそれぞれ合併したため、両署の管轄地区域が宮守村と東和町とにまたがり、分割することになりました。
平成13年に花巻営林署廃止後の暫定的組織である岩手南部森林管理署花巻事務所を廃止(7月31日)した際に、旧花巻営林署が管轄地域のうち東部の達曽部担当区と大迫担当区が遠野支署に編入(8月1日)されたことにより、この不一致は解消されましたが、現在も宮守担当区と達曽部担当区の担当区界として残っており、両担当区とも管轄区域が遠野市と花巻市にまたがっています。
森林事務所の管轄区域を現在の町名及び住居表示で整理(筆者による整理です。)すると表2のとおりとなります。
表2 遠野支署の森林事務所の管轄区域(筆者による整理。)
森林事務所 の名称 |
担当区 |
担当区の区域
|
変遷 |
土淵 |
土淵 |
遠野市の一部(土淵町土淵、土淵町柏崎、土淵町栃内、土淵町飯豊及び土淵町山口に限る。) |
栃内担当区を統合(S60年度) |
上郷 |
遠野市の一部(遠野町(住居表示実施区域である上組町、東上組町、材木町、穀町、東穀町、東舘町、中央通り、新穀町、大工町、新町、六日町、下組町及び鶯崎町を含む。)、綾織町上綾織、綾織町下綾織、綾織町新里、綾織町鵢崎、上郷町板沢、上郷町佐比内、上郷町平倉、上郷町平野沢、上郷町細越、上郷町来内、青笹町青笹、青笹町中沢及び青笹町糠前に限る。) |
遠野担当区を統合(S62年度) |
|
附馬牛 |
附馬牛 |
遠野市の一部(附馬牛町安居台、附馬牛町上附馬牛、附馬牛町下附馬牛、附馬牛町東禅寺、松崎町光興寺、松崎町駒木、松崎町白岩、松崎町松崎、早瀬町一丁目、早瀬町二丁目、早瀬町三丁目及び早瀬町四丁目に限る。) |
東善寺担当区を統合(H6年度) |
宮守 |
宮守 |
遠野市の一部(小友町、宮守町上鱒沢、宮守町下鱒沢、宮守町上宮守及び宮守町下宮守(字黒日陰山国有林を除く。)に限る。)及び花巻市の一部(東和町谷内、東和町砂子、東和町小友、東和町小原、東和町倉沢、東和町鷹巣堂、東和町田瀬、東和町舘迫及び東和町町井に限る。) |
・鱒沢担当区を統合(S30年代までは存続を確認) ・小友担当区を統合(H5年度) |
大迫 |
大迫
|
花巻市の一部(大迫町大迫、大迫町亀ヶ森、大迫町内川目及び大迫町外川目に限る。) |
・亀ヶ森担当区を統合(S60年度) |
達曽部 |
遠野市の一部(宮守町下宮守の一部(字黒日陰山国有林に限る)及び宮守町達曽部に限る。)及び花巻市の一部(東和町土沢、東和町安俵、東和町北成島、東和町東晴山、東和町北小山田、東和町石鳩岡、東和町北川目、東和町南川目、東和町新地、東和町外谷地、東和町前田、東和町北前田、東和町百ノ沢、東和町中内、東和町石持、東和町上浮田、東和町下浮田、東和町落合、東和町小通、東和町駒籠、東和町毒沢、東和町南成島及び東和町宮田に限る。) |
・土沢担当区を統合(S62年度) |
3 遠野支署の沿革
遠野支署の最も古い前身組織である農商務省山林局岩手大林区署遠野派出所が西閉伊郡横田村砂場丁(現遠野市新町)に開庁したのは明治21(1888)年10月4日のことです。
この後、明治22(1889)年には岩手県が管理していた遠野地域の官有林野(土地の官民区分で国の所有となった林野のこと。)を皇室財産(御料林)とするため宮内省御料局に移譲しています。なお、遠野地域の御料林の面積は、大正4(1915)年には、21,000haでした。
遠野派出所は明治25(1892)年には遠野小林区署に昇格し、大正13(1924)年の官制改正で青森営林局遠野営林署となりました。
当初の遠野営林署の管轄区域は、上閉伊郡の全域(達曽部村と下宮守村の一部を除く)及び和賀郡谷内村でした。
その後、昭和16(1941)年には、遠野署の管轄区域のうち現在の釜石市と大槌町の区域を分割して大槌営林署が新設されました。
御料林は宮内省御料局(後の帝室林野局)の盛岡出張所が明治30(1897)年に設置され、遠野地域の御料林も管理していましたが、昭和12(1937)年に、現在の遠野支署庁舎が所在する東舘町(当時は石倉丁)に、帝室林野局東京支局遠野出張所が設置されました。今も庁舎内には当時植えられたアカマツやオオモミジが枝を広げています。
戦後は、昭和22(1947)年の林政統一(農林省山林局所管の国有林、帝室林野局所管の御料林、内務省北海道庁所管の北海道国有林の統合)により遠野営林署は遠野第1営林署、帝室林野局の遠野出張所は遠野第2営林署となり、翌昭和23(1948)年には両署を統合して青森営林局遠野営林署として遠野第2営林署の庁舎を使用することになりました。
昭和29年当時の絵図を見ると遠野市内本丁(現六日町の遠野高校の北側)にあった遠野第1営林署の庁舎は法務局庁舎として使用され、その裏側に隣接して遠野担当区事務所が置かれていた模様です。
昭和51年(1976)年には現在の庁舎が竣工し、昭和63(1988)年には遠野営林署開庁100周年を迎えて、いずれも盛大な記念式典や祝賀会が開催されています。現庁舎が竣工した昭和51年は、全国で初めての市民の舞台で、今年、第45回記念公演を迎える「遠野物語ファンタジー」が始まった年でもあります。
平成11(1999)年3月には、国有林野事業の抜本的改革により東北森林管理局青森分局岩手南部森林管理署遠野支署として再編され、平成13(2001)年8月には、旧花巻営林署の大迫担当区と達曽部担当区の区域が遠野支署に編入されて、現在の管内となりました(表3)。
※詳しくは、遠野支署ホームページの管内概要を御覧下さい。
遠野派出所庁舎(明治21年開庁) | 遠野小林区署庁舎(大正4年竣工) |
帝室林野局東京支局遠野出張所の庁舎
(昭和12年に開庁) |
現在の庁舎昭和51年11月15日竣工
平成29年3月耐震工事完了 |
表3 遠野支署の関係年表
年 |
できごと |
明治21(1888)年 |
農商務省山林局岩手大林区署花巻派出所開庁(09月05日)、同遠野派出所開庁(10月04日) |
明治22(1889)年 |
花巻派出所が花巻小林区署に昇格(05月25日) |
明治25(1892)年 |
遠野派出所が遠野小林区署に昇格(09月03日) |
大正13(1924)年 |
官制改革により青森営林局花巻営林署、同遠野営林署となる。(12月20日) |
昭和12(1937)年
|
帝室林野局東京支局遠野出張所が現在の遠野市東舘町に設置される。 |
昭和16(1941)年 |
釜石経営区を分割して大槌営林署を新設 |
昭和22(1947)年 ~ 昭和23(1948)年 |
林政統一により、遠野営林署(国有林)が遠野第1営林署に、遠野出張所(御料林)が遠野第2営林署となり、翌23年には両署を統合して遠野営林署となる。御料林の東舘庁舎を使用。 |
平成11(1999)年
|
国有林野事業の抜本的改革により、東北森林管理局青森分局岩手南部森林管理署遠野支署となる。花巻営林署は岩手南部森林管理署花巻事務所となる。 |
平成13(2001)年
|
花巻事務所廃止。旧花巻営林署が管轄していた大迫担当区と達曽部担当区が遠野支署に編入される。 |
平成16(2004)年 |
青森分局廃止により、東北森林管理局岩手南部森林管理署遠野支署になる。 |
4 地域とのつながり
当支署が所在する遠野市は市域の8割が山林原野であり、遠野物語にも森を舞台とした多くの話が紹介されており、地域住民にとって森林は身近な生業の場であるとともに怪異現象に遭遇する場であったことが読みとれます。
さて、遠野営林署が開庁100周年を迎えた昭和63(1988)年当時には、遠野営林署には約200人の署員がいました。
かつては現場作業員の多くが地元出身者であり、定員内の職員にも地元出身者が数多くいました。交通事情が悪かった頃は家族同伴で転勤する者が多く、担当区事務所も宿舎併設が基本であり、担当区主任(現在の森林官)の多くが、地域に駐在していたため、業務に限らず日常生活も通じて国有林と地域社会とのつながりは深いものがありました。
しかし、地域の社会・経済における森林・林業の比重の低下に加えて、合理化による組織の再編・廃止や人員の削減、事業の請負化、交通の発達による単身赴任者の増加、ライフスタイルの変化など様々な要因により、次第に地域社会との関係性が薄れつつあります。
昭和28年 遠野営林署の運動会 | 昭和63年開庁100周年記念祝賀会 |
また、平成11年に行われた国有林野事業の抜本的改革により「遠野営林署」から「岩手南部森林管理署遠野支署」に再編されて21年が経ちますが、今の組織名は、一般の方には、なかなか覚えていただけないようです。
確かに長い組織名なので、職員は、電話応答などで「森林管理署遠野支署」と名乗りますが、それでも舌を噛みますし、今度は森林組合と間違われることも度々です。飲食店などの予約も、いまだに「営林署」の方が断然に有効です。
1924年から1999年までの75年間使用された営林署という組織名の重みとわかり易さのアドバンテージでしょうか(ちなみに私が森林官のときには、わずかですが「小林区さん」と呼ぶ方が健在でした。)。ともかくも、地域の皆さんに「遠野支署」という組織名に馴染んでいただくことは、支署長としての大きな課題なのです。
それはさておき、遠野支署管内において、国有林野は約3割の面積を占めており、さすがに遠野物語の時代ほどではないにせよ、今も様々な形で地域の暮らしと結びついています。国有林を管理経営していく上で、地域の理解と協力を得ることは必要不可欠なことです。
このような認識にたって、地域の皆さんに遠野支署の存在と業務を知っていただくとともに、関係機関や団体との連携を強めて地域社会に寄与していくため、現在、遠野支署では様々な地域連携の取組を行っていますので、その一端を御紹介させていただきます。
(1)森林・林業(民国連携)施策
地域における林業生産活動を持続的に発展させていくためには、民有林と国有林が連携していくことが不可欠です。
遠野支署でも遠野市や花巻市との森林・林業関係の施設連携に取り組んでおり、連絡会議などに参画しているほか、関係機関と遠野地域における木材需給の調査や調整会議などを行っています。当支署主催の採材現地検討会や労働災害防止会議等については民有林関係の事業者等も対象にして開催しています。
花巻市東部地域については、花巻市、花巻市森林組合、岩手南部森林管理署との四者で森林整備協定を締結して共同施業団地を設定し、路網の共同利用等による森林整備に取り組んでいます。
また、一般の通行が少ない市道などのうち、国有林野事業で使用する比重が高い路線については、支署においても整備ができるよう併用協定の締結を働きかけています。
採材現地検討会 | 労働災害防止会議 |
(2)関係機関・団体との連携
広大な国有林野に関わる事象は非常に多岐にわたり、森林・林業の分野だけに収まりきるものではありません。したがって、国有林野を管理経営していく上では、様々な分野を所管する行政機関や様々な事業を行っている団体との連携と協力が重要となります。
ア ニホンジカ問題への対応
近年、早池峰山周辺地域で問題となっているシカ被害への対応では、遠野市、花巻市、岩手県の担当者と連携・協力し効果的に施策連携をしていくことが重要になります。
当支署では、シカの捕獲を支援するために、遠野市及び遠野猟友会並びに花巻市有害鳥獣被害対策協議会間で、ニホンジカ等被害対策協定を締結して、ワナの貸与等によるシカ被害対策を推進しています。当支署から貸与するワナはツキノワグマの錯誤捕獲のおそれが少ない、非バネ式のくくりワナや小型囲いワナとなっています。
また、県が指定管理鳥獣捕獲等事業を行う林道について除雪を実施し、令和元年度は8路線を実施中です。
遠野市への小型囲いワナの引き渡し |
イ 早池峰山の保全・管理
遠野支署と三陸北部森林官林管理署の管内にまたがる早池峰山周辺森林生態系保護地域の保全管理については、県の自然公園担当者や関係市の担当者との連携が重要になります。早池峰国定公園地域協議会や早池峰山地域保全対策推進協議会などの場を通じて、早池峰山に関わる様々なプレイヤーと連携・調整しながら、高山植物保護、移入植物種の駆除活動、登山道のパトロールなどに取り組んでいます。
さらに、早池峰山の高山植物をシカの食害から守るための植生保護柵の設置を平成30年度から実施しており、令和元年6月には、植生保護柵の設置を円滑に進めるための協定を岩手県、三陸北部森林管理署、遠野支署の三者で締結して取組を強化しているところです。
植生保護柵の荷上げ作業 | 植生保護柵の設置作業 |
早池峰山合同パトロール | 移入植物種駆除活動 |
ウ 防災関係
防災関係では、治山事業により平成28年の台風10号で被害のあった笛吹峠周辺の復旧治山事業に取り組んでいるほか、保安林の適正配備とその整備に取り組んでいます。
また、支署長は遠野市防災会議の委員になっており、令和元年の台風19号災害においても遠野市及び花巻市の災害対策本部と緊密な連絡を確保して対応にあたりました。
山火事予防対策については、日頃からの消防本部・消防団との連携が重要であり、春の山火事危険期には、関係機関・団体とともに山火事防止パレードなどを実施しています。また、山での遭難や労働災害への備えとして消防本部や警察署と国有林の地理情報を共有しておくことは重要です。
平成31年度 遠野市山火事防止パレード |
エ 環境保全
環境保全関係では、毎年4月に田瀬湖周辺で行われている田瀬湖一斉清掃・ゴミ川柳大会に当支署も参加して流域の皆さんと一緒にごみの清掃を行っています。
7月には当支署が主催して、不法投棄物のクリーン活動を管内国有林や周辺民有林で行っており、これまで遠野市の環境部局と農林部局、県の土木センターと農林振興センター、森林組合、森林ボランティアの皆さんの参加を得て実施してきましたが、今年度からは、遠野市消防本部と遠野警察署にも御参画いただいています。
令和元年度不法投棄物クリーンキャンペーン |
オ 関係機関の協力による研修等の開催
また、当支署の様々な研修では、これら関係機関に講師を依頼して開催しています。今年度は、遠野市消防本部による救命訓練、自衛隊岩手地方協力本部の協力による実践的な衛生講話、遠野警察署による「危険予測シミュレーター」を用いた交通安全指導などを開催しました。
これらの関係機関とは、日常的な連絡に努め、必要な情報を共有し、所管業務の境界分野や重複分野で連携・協力し行政の隙間を小さくしていくことが大切です。特に、所属長や担当者が、相互に顔のわかる関係を築いておくことが、災害などの非常時における円滑な連携・協力に寄与するものと考えます。
自衛隊岩手地方協力本部の協力による衛生講話 |
(3)森林・環境教育や森林レクリエーション
地域の方や児童・生徒に森林や環境への関心を高めてもらうために、遠野支署では、様々な形での森林・環境教育に取り組んでいます。
NPO法人や関係機関・団体との共催で毎年度開催している「琴畑水源遊々の森」での植樹活動や「田瀬ダム・森林探検隊」といった活動のほか、学校や児童館の依頼に応じて森林教室や学校林での学習支援なども行っています。
琴畑水源遊々の森植樹活動
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附馬牛小学校学校林の観察会
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また、平成30年度には、開庁130周年を記念して「遠野における森林の変遷」についての講演会を12月に開催し、本年度は12月に「遠野の森林鉄道展」を遠野市役所本庁舎市民ホールにて開催し、それぞれ多くの市民の方に御参加いただくなど、一般の方向けのセミナーや展示を行っているほか、依頼を受けて、環境イベント、地域団体の会合、企業の研修等で、当支署の様々な取組についての講演や発表などを行っています。これらの資料については、遠野支署HPの遠野支署資料館で順次公開して参ります。
国有林遠野開庁130周年記念講演会 | 遠野の森林鉄道展 |
(4)情報発信
奥山に位置している国有林での業務は、一般の方の目にふれることが少なく、また、長い間、慣れ親しんできた営林署という名称が変わったこともあり、我々が山でどのような仕事をしているのか、なかなか認知されない状況があります。
遠野支署では、国有林の業務や取組について、一般の方々によく知ってもうため平成30年度から情報発信の強化に取り組んでいます。
具体的には、報道発表(プレスリリース)を小まめに行なうとともに、専門的な内容もわかり易く解説するよう工夫をしています。
特に、管内に拠点がある新聞社や遠野テレビには、日常的な情報提供を通じて記事やニュースとして取り上げていただく機会が増えています。
このほかにも、当支署のイベント情報などについては、遠野市や花巻市の広報、遠野市観光協会のSNS等への掲載、市内各所へのポスターの掲示等による周知を行っているところです。情報発信に御協力いただいている皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。
イベントや情報発信はマンネリ化しやすいものです。毎年、活動を見直していくとともに、管内国有林の話題や魅力を署員自身が発見していくことが大切だと思います。
余談ではありますが、遠野支署の構内には道路に面した掲示板があります。アナログではありますが、支署の前を通行される方との大切な接点でもあるので、支署行事のポスター等の掲示だけでなく、地域行事のポスター掲示などにも活用して、年末にはクリスマスリースやしめ縄などを飾りつけ、小さいですがイルミネーションも点灯させています。
庁舎掲示板 | 管内概要の充実化 |
鍋倉山から望む遠野支署庁舎
遠景には国有林の山々が |
5 遠野支署管内の穴場
ここで話題は大きく変わりますが、来客があった際などに、私が案内している観光ルートを御紹介させていただきます。展望箇所がやや多めになっておりますが、私が任地に着任したときは、なるべく早く見晴らしの良い場所に赴き、その地域を見渡して地理感覚を掴むようにしています。はじめての土地を旅するときも同様ですが、是非、皆さんも試してみて下さい。
(1)遠野郷ハイライトコース(高清水展望台~遠野ふるさと村~重湍渓~遠野早池峯神社)
このコースは、公共交通機関が無い場所もあるのでレンタカーの使用をお勧めしますが、1日で巡ることができるコースです。遠野の観光と言えば、街の中心部から貸自転車で伝承園にかっぱ淵、そして福泉寺を周遊するというのが鉄板コースですが、そこは、ガイドブックを御覧下さい。
遠野にお越しの皆さんは、遠野物語を読んで山深い農山村のイメージを抱かれており、遠野駅に降り立つと、昭和レトロな市街地が出現するため、イメージとのギャップを感じると言われます。遠野物語は、遠野郷の主に農山村部の話がまとめられているので、遠野市中心部(旧遠野町)の話は多くはありません。しかし、遠野市中心部は、盛岡南部氏の筆頭家老であった八戸氏(根城南部氏、遠野南部氏とも)の城下町であり、その町割をよく留め、昭和レトロな商家・商店街が今も健在です。昭和40年代頃の映画の見ている気分になるので時間に余裕があれば散策したいところです。遠野市は、どぶろく特区第1号であり、さらに、秋田県横手市と首位を争うホップの産地としてビアツーリズムにも取り組んでおり、市内には、遠野産ホップを使用したクラフトビールを醸造しているレストランや、どぶろくを飲める飲食店や民宿などもあるので、一泊して飲食を楽しめると、なお良いと思います。
駅前通りを直進して、突き当りにある鍋倉山は、八戸氏の居城跡を整備した公園で、中腹には八戸氏の祖先を祀った南部神社が鎮座し、さらに山道を登っていくと遠野市中心部を俯瞰できる展望台があります。春には、遠野さくらまつりの会場にもなり、満開時は山全体が淡紅色に染まります。
さらに、余裕があれば、鍋倉城の堀の役割を果たしていた来内川の橋を渡り、近接する「遠野物語の館」と「城下町資料館」に寄ると、遠野の民間伝承と城下町としての遠野ついて、より詳しく知ることができます。
昭和レトロな遠野市街地 | 鍋倉山からの夜景 |
次は、遠野に来たら一度は行ってみたい圧巻スポット、高清水山(797m)の展望台です。
この展望台からは、田植えの前には湖のような、秋には実った稲穂で金色の海となる遠野盆地を眺望することができます。
また、9月から11月にかけての晴れて冷えた早朝には放射冷却で発生した朝霧による雲海に沈んだ遠野盆地を見ることができます。高清水展望台には、松崎町と綾織町の両側から舗装道路を車で登っていけますが幅員が狭いので、山道の運転が苦手な方は御無理をなさらぬようお願いいたします。
高清水山からの展望 |
高清水展望台から松崎地区側に下り、附馬牛地区にある「遠野ふるさと村」に行ってみましょう。遠野ふるさと村は、この地方の伝統的民家である「曲がり家」などの古民家7軒を移築・復元した野外博物館で、近世の農村の雰囲気が再現されています。古民家には実際に上がることもできますし、馬を飼育している民家もありますので、遠野物語のイメージに憧れて遠野を旅する方にも、きっと御満足いただけるかと思います。なお、最近は、管理棟周辺で「座敷わらし」の目撃情報が複数あるそうで、新たな出没スポットとして注目されています。
遠野ふるさと村に移築され保存されている古民家 |
遠野ふるさと村を出た後は、大出地区に向かって附馬牛地区を北上する途中で重湍渓(ちょうたんけい)に寄り道をします。重湍渓は花崗岩の大きな岩が緩い階段状に続いている渓谷で遠野市が選定している遠野遺産の一つに選ばれています。川の深みが少なく、岩も尖っていないので天然のプールのようで、夏場には子供たちが水遊びをする姿を見かけます。新緑と紅葉の時期は渓谷美が美しくお勧めですが、冬場は積雪により通行止めとなるのでご留意ください。
晩秋の重湍渓 |
かつては、この重湍渓の河岸には森林鉄道の軌道が敷設されており、中滝、小出、大出といった猿ヶ石川沿いの集落を経由して上流の国有林へと続いていました。遠野の森林鉄道については、遠野支署ホームページの遠野支署資料館に近日中に資料を掲載したいと思いますので御覧下さい。
運行中の森林鉄道(昭和31年6月25日) 「群峯」(全林野遠野分.1993)より |
さて、旅の締めくくりは、附馬牛町の最上流の集落である大出に鎮座する早池峯神社です。大同元(806)年に来内村の猟師・始閣藤蔵が開いたと社伝に伝わっています。
かつては十一面観音を本尊とする妙泉寺という寺院でしたが、神仏分離により現在は瀬織津姫(早池峰大神)を祭神としています。
現在の神門や本殿は妙泉寺時代のものであり、寺院建築の様式を色濃く残しています。巨木が林立する境内は静寂が包み、天狗が現れそうな雰囲気です。7月の例祭の宵宮では、暗闇の中、茅葺の神楽殿に灯がともり、幻想的な雰囲気の中で深夜遅くまで夜神楽が舞われ、市内外から多くの方が見物にきます。この早池峯神社周辺も有名な座敷わらしの出没スポットで、現在も目撃談を語る方もいます。大出までくると市街地の喧騒は一切届きません。川のせせらぎだけが静かに響き、きっと遠野物語の山の世界を味わっていただけるとものと思います。なお、国有林の職員の現場は、そのさらに奥にあるということも知っていただけると幸いです。
遠野早池峰神社本殿 (かつては妙泉寺の本堂) |
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遠野早池峰神社夜神楽 (7月の例祭の宵宮に神楽殿で深夜まで舞われる。) |
(2)琴畑のループ線
遠野市土淵町の琴畑渓流は新緑や紅葉の美しさで知られ、3月から9月にはイワナやヤマメを追って多くの釣り客が訪れます。琴畑川は市の上水道の水源でもあり、国道340号線から分かれて市道を進み、琴畑集落を過ぎたところに市の琴畑取水場があります。取水場を過ぎて国有林に入ると、遠野遺産「琴畑渓流と白滝不動」があります。遠野市では有形・無形の文化や自然を守り伝えるため「遠野遺産」の認定をしており、国有林内でも複数の遺産が認定されていますが、こちらもその一つで、琴畑渓流でも特に美しい「白滝」とほとりに祀られる不動尊が認定されているものです。
琴畑渓流の白滝 |
林道をさらに奥へと進むとNPO法人遠野エコネットが当支署と協定を結んで放牧跡地の森林再生に取り組んでいる「琴畑水源遊々の森」があります。市内の小学校の参加を得て、ミズナラの植栽を行っていますが、シカによる苗の食害があることから、苗に保護チューブを被せて、シカによる被害を防いでいます。
琴畑水源遊々の森に近接する沢筋には「琴畑湿原ハルニレ遺伝資源希少個体群落保護林」があり、湿地を好むハルニレのほか、ミズナラの遺伝資源を保全しているところです。
さらに、琴畑林道から分岐する遠野市道「樺坂峠線」を登はんしていくと、ボックスカルバートを利用したループ線があり、小規模とはいえ正真正銘のループ構造となっています。この市道は当初、琴畑高原の牧野に通じる農道「琴畑樺坂峠線」として昭和53年頃に開設されたものです。山岳国道などで採用されているループ線ですが、小規模な未舗装道路での施工事例は全国的にも特異ではないかと思われので、交通ファン垂涎の名所になることを期待しています。
琴畑のループ線 |
(3)花巻市東部の名所
ア大迫地区
花巻市総合文化財センターは、花巻市大迫町の国道396号線に面した小高い丘にあります。ここでは、花巻市内の文化財などの資料を収蔵保管し、調査研究や整理作業を行なうとともに、情報発信や保護活動も行っています。
施設の老朽化により、平成23年3月31日に惜しまれながら閉館した山岳博物館の貴重な資料も移管されて管内に展示されています。花巻市の考古学資料や早池峰山の自然と文化に関する展示もあり、小規模ながら充実した展示を楽しむことができます。
大迫の中心街を見下ろす「向山」は森林公園となっており、散策路と展望台が整備され、晴れた日には正面に早池峰山を望むことができます。早池峰山のふもと岳集落の先にある「七折の滝」も必見です。50mの高さから落ちる水流が、岩にぶつかり、水しぶきとなり幾重にも折れて滝壺への注ぐ光景は絶景です。
稗貫川をせき止めて岩手県が建設した早池峰ダムは、夜間ライトアップがされています。人気の全くない漆黒の湖畔で独占する早池峰ダムの夜景は大変贅沢です。ただし、野生動物には注意しましょう。
花巻市総合文化財センター
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向山森林公園からの展望
(中央の川は稗貫川) |
七折の滝 |
早池峰ダムのライトアップ |
イ東和地区
花巻市東和町土沢にある舘山公園もお勧めです。東和総合支所の裏山にあたり、公園の名前が示すとおり、1612年に南部氏が伊達領との境界警固のために築いた城で江刺氏が城主を務めました。1670年には藩政の安定化もあり廃城になっていますが、城郭は良い状態で残されており、公園内からは東和町中心部を眺望することができるので、地域のイメージをつかむのに良いでしょう。土沢の旧道も街道の景観を良く残しており散策したいところ。
近年、全国で「ダム」をモチーフにしたダムカレーが話題になっていますが、当支署管内の「田瀬ダム」(国直轄建設第1号ダム)にも「田瀬ダムカレー」が存在しますので紹介いたします。「湯田ダムカレー」の弟分で全国初の兄弟ダムカレーとなるそうです。地域の食材を使用し、田瀬ダムをイメージした盛り付けも季節ごとに変化します。東和ICに近い東和温泉のレストランで、毎日10食限定で提供されていますので、是非お試しください。
田瀬ダムカレー |
田瀬湖周辺では、7月下旬に田瀬湖湖水まつりが開催され、なかでも田瀬湖湖岸や水面から花火を打ち上げる水空中花火大会は、暗闇の中、至近距離で炸裂したスターマインが、さらに湖面に映るという大スペクタクルです。会場は、緩い芝生の斜面なので、開会を待ちながら涼む夕暮れ刻は夏Fes.のような雰囲気です。キャンピングシートがあれば芝生の上に足を延ばしてゆっくりと鑑賞することができるのも魅力です。まさに、花火大会の穴場中の穴場とも言えましょう。
田瀬湖水空中花火大会の会場
(打ち上げ前の様子) |
6 支署のオオモミジ
現在の遠野支署の庁舎敷は、元は昭和12年に設置された帝室林野局遠野出張所の庁舎敷で、戦後、国有林と御料林が統合されてから、新制遠野営林署の庁舎敷として使用されています。
昭和12年に開庁した庁舎は、昭和51年に新庁舎として建て替えられましたが、庁舎敷内には、昭和12年の開庁当時の庭木と思われる老木が数本残っています。その一つがオオモミジの大木です。秋になると次第に色づいていき、ほぼ一日だけ、覚めるような真紅に染まる日があり、その美しさに目を奪われます。
紅葉の美しさは折り紙付きですが、私の着任当時、太い枝が市道に張り出していました。夏には木陰を提供し、美しい新緑や紅葉が心地良いので、できれば、そのままにしておきたかったのですが、台風などで折れて落下する危険を放置はできません。最終的には特殊伐採の事業者に依頼して、一昨年の紅葉が終わった後、剪定してもらいました。
ところが伐採後、散歩をしている方達から、毎年、このオオモミジの紅葉を楽しみにしていたことを聞かされました。何人もの方が紅葉のクライマックスに合わせて、写真を撮りにきているそうです。
伐採を避けて危険枝の除去のみに留めましたが樹形の美しさは失われてしまいました。突然のことにファンの方達はがっかりしたことと思います。
もし、事前にファンの存在を知っていれば、あらかじめ周知して理解を求めることもできたのにと悔やまれます。
剪定前の姿(一昨年) | 昨年の紅葉(庁舎から) |
ある会合で、別な庭木の枝が伸びすぎて道路の見通しを妨げていると近所の方から遠慮がちに伝えられ、慌てて剪定したこともありました。
これらは庁舎の庭木管理の話ですが、広大な国有林の管理経営についても言えることではないかと思うのです。時代の流れとはいえ地域との関係性が希薄になっていけば、知らず知らずのうちに思わぬところで暮らしと国有林の関わりを見落としていまい、地域の皆さんの思いとの間でズレが生じてしまうかもしれません。
また、渓流釣りや狩猟など、我々が専門としない分野の様々な活動が国有林をフィールドとして行われています。動物や魚類については、我々は必ずしも十分な知識を持っている訳ではありません。
山菜やきのこ、木の実などを採取する人、つるや樹皮を採取して加工する人、自然を楽しみたい人など多種多様な人たちが国有林を訪れます。また、国有林内から取水して農業や養魚を営んでいる方も多くいます。
行政官としての判断力を養い、また森林・林業技術者としての専門分野での研鑽を積む一方で、我々がよく解らないことが沢山あるという謙虚な姿勢で国有林の管理経営に臨み、様々な分野の方から助言や情報を得ていかねばなりません。そのためも、関係機関・団体、NPO、地域住民など多様な方との多層的なつながりを保っていくことが大切なのだと思います。
そして、地域の人々が歴史的に森林とどのように関わり利用してきたのか、そして今はどのような関わりがあるのかを理解するために、狭い意味での林業だけではなく、森林に関わる様々な営み、動植物のことを貪欲に学んでいきたいものです。
そのような意味で国有林は総合力が求められる職場であり、それこそが国有林で働くことの魅力・やりがいであると私は思っています。
大変長い文章になってしまいました。まだまだ話は尽きませんが、遠野支署長として日頃考えていることを徒然に書き連ねてみました。
今後も、遠野支署ホームページを通じて情報提供していきたいと思います。
支署職員一同 |
お問合せ先
林野庁 東北森林管理局岩手南部森林管理署遠野支署