T 新たな「木の時代」を目指して

1 木材に代わる製品の進出

○ 我が国の1人当たり木材消費量は、この20年間で15%減少した。1人当たりGDPが大きい国の多くが消費量が増加させている中で、我が国の消費量は減少した。国産材だけをみると、平成14年の1人当たり消費量はピーク時(昭和48年)の3分の1にまで低下した。

○ これには、経済発展に伴い鉄やコンクリート等の工業材料が大量に供給され、これらが木材に代わって材料の中心となったことが主な要因である。加えて、国産材については、戦中・戦後の過剰伐採による資源的な制約、価格や品質において工業材料や外材に対する競争力の低下も影響を与えている。また、工業材料を中心とした建築物の増大に伴い木造割合は下落した。これにより木材に対する建築士の理解の低下等も木材消費の減少に拍車をかけた。

2 健康と環境をまもる木材

○ 現在の社会では、ストレスを抱える人やシックハウス症候群に悩まされる人が増えるなど健康問題が顕在化している。また、化石資源への依存による地球温暖化、国産材利用の減少に伴い森林整備が進まないことによる森林の多面的機能の発揮への支障といった環境問題も深刻になっている。

○ 木材のもつ香り、温かみ等は人に心地よさを与え、調湿作用や防ダニ効果は快適な住空間を提供する。特に、国産材には、ヒバやヒノキ等の衛生面で効果の高い材料がある。また、木材は鉄等に比べ格段に少ないエネルギーで製造できることから、環境への負荷が小さい上、再生産できる材料である。木造住宅は鉄筋コンクリート住宅の4分の1の炭素放出量で建築できると試算されている。国産材利用の拡大は、林業生産活動を促し、適切な森林整備につながる。

○ 木材の材料としての特長を理解し、その利用の効果を認識した上で、木材とりわけ国産材を日用品や道具類から住宅等の建築物にまで使っていくことは、現在の社会における問題の解決に有効である。

図T−1 1人当たりGDPの大きい国の1人当たり用材消費量の変化

図T−2 建築物及び戸建住宅における木造割合の推移

○ 内閣府の世論調査によると、木材の魅力では、「夏は涼しく、冬は温かいと感じる」、「気持ちを落ち着かせる」と回答した割合が74%、63%と上位を占めている。また、医療施設や福祉施設、保育園の遊具等への木材利用が望ましいと答えた割合は前回調査から10ポイント以上増加した。

○ 近年、生物資源である木材に回帰する意識が現れている。一方、シックハウス問題を背景に、室内の化学物質濃度を重視するなど安心できる製品を求める消費者意識の高まりも顕著になっている。


3 木材の新たな利用の動き

○ 最近、消費者意識の変化をとらえ、無垢材の利用を売りにする住宅や長期間住み続けられる住宅が供給されている。耐久性の高い木材を利用して長く住み続けられる住宅を建築することは、長期的にみれば、住宅にかかる建て替えコストを縮減し環境への負荷を小さくする点で有効である。また、無垢材の色あいや木目の美しさ、重厚感が好まれ、店舗等の内装に利用される動きもみられる。

○ 一方、学校や役場といった公共施設での木材利用が徐々に進んでいる。3階建て商業施設の木造割合も10年間で4%から15%に増大した。最近では、木材のもつぬくもりが地域の景観に合っているという特長が評価され、木橋が建設されるようになった。こうした分野で一層、木材利用を拡大するため、木材利用の意義のほか、建築や施工に関する技術、品質管理の方法等の情報を積極的に提供する必要がある。

○ 農林水産省では、平成15年8月に木材利用拡大行動計画を策定した。さらに、関係省庁が連携して国自らが木材利用に取り組むことが重要である。

○ 最近では、体育館等の大規模建築に国産無垢材を利用する新たな動きが見られる一方、柱材における集成材利用や壁材料への木質ボードの利用が増加するなど建築資材は多様化している。また、飲料用の紙製缶や封筒に間伐材を利用する動きも活発になっている。

図T−3 木材の魅力についての国民の意識(回答割合)

資料:内閣府「森林と生活に関する調査(平成15年12月調査)

表T−1 無垢材を使用した体育館(事例)
 平成15年3月に完成した福島県須賀川市の西袋中学校体育館は、鉄筋コンクリート造の本体に、木造の屋根を組み合わせた混合建築物である。屋根の梁には、地元で生産された12角のスギ無垢材を縦に9段重ね、30p間隔にナラの太柄(3p)で接合した接着剤を使わない合成梁が用いられている。
 また、屋根以外にも壁にスギ板や珪藻土が使われ、自然素材の利用に心がけた建物である。

図T−4 木造軸組工法住宅における柱材の樹種別使用割合


    資料:住宅金融公庫「住宅・建築主要データ調査報告

○ また、木材の強度や耐久性を高めたり、不燃化する技術や木材と他材料の複合、木材成分の利用による新素材が開発されている。こうした技術によって、我が国で資源量の多いスギ材、間伐材の利用が期待されている。不燃材料の使用が義務づけられている箇所等のこれまで木材を使えなかった所への木材利用も期待できる。さらに、木質バイオマスをエネルギーとして利用するための液化、ガス化の技術開発も進んでいる。


4 新たな「木の時代」を目指して

○ 我が国の人工林蓄積は、3割が伐採可能な46年生以上の資源である。木材資源は利用段階に入り、潜在的な供給力は向上している。こうした資源の利用を支える大工等の建築技能者の育成に加え、子どもの頃から木材に親しむ環境づくりが重要である。

○ 木材は、健康や環境を守る上で様々な特長をもち、さらに、技術革新等により、利用範囲が着実に拡大している。このように木材は、
@ 環境への負荷の小さい「環境素材(エコ・マテリアル)」
A 人に健康で快適な癒しの空間を提供する「健康素材(ケア・マテリアル)」
B 意匠性の高い空間をつくり出す「優美素材(ファイン・マテリアル)」
C 風土や文化と深く関わり合い、特色ある地域社会づくりに貢献する「風土素材(スロー・マテリアル)」
D 我が国の国土の7割を占める森林から生産され、これを利用することにより森林の整備・保全に資する「自己素材(マイ・マテリアル)」
 であり、これらの特長は、現在の社会における様々な問題の解決につながる新たな意義である。

○ こうした意義を認識し、現代の木材利用へのニーズを踏まえた上で、我が国の風土に適した材料を利用していく新たな「木の時代」を創造していくべきである。今後、国民に木材に関する様々な情報を提供しながら、木材とりわけ国産材の利用を社会全体で進めることが重要である。

図T−5 木材利用技術の開発
図T−6 森林蓄積の推移
資料:林野庁業務資料
注:人工林の46年生以上の割合は森林計画の対象森林における数値であり、S50以前については把握されていない。
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