第3章 林業の持続的かつ健全な発展と課題

1 林業経営をめぐる動向と課題

(厳しい経営環境にある林業経営体)
○ 立木価格の低下は、森林所有者の林業経営に対する意欲を減退させる大きな要因である。平成14年のスギ立木価格は昭和55年の24%で、昭和31年の水準にある。林業経営体等が意欲を持ち、持続的に林業生産活動が維持されるような条件を整えることが重要である。

○ 林産物を販売した林家の割合は、昭和35年の49%から平成12年には7%となった。木材価格の低迷等による伐り控えから、民有林人工林の伐採実施率は9齢級では昭和62年の6%から平成12年には1%へと低下した。

○ 林家1戸あたりの林業所得は平均で21万3千円と、前年度に比べ17.9%減少した。

○ 植林や下刈等の森林施業を過去1年間に実施した林家の割合は、主伐面積の減少とともに低下傾向にあるが、間伐は10年前の水準を維持している。

○ 不在村者の森林施業の実施割合は、在村者より低水準にある。平成12年に私有林面積の25%まで増加した不在村者保有森林面積と、林業後継者の不在は森林施業の実施割合を低下させることが懸念される。

図V−1 民有林人工林の齢級毎の伐採実施率

資料:林野庁業務資料
注:1)15齢級には15齢級以上を含む。
  2)都道府県から報告を受ける伐採状況を基にした、齢級毎の民有林主伐面積の試算。

(林業事業体の現状)
○  森林組合は民有林の新植の9割、間伐の7割を担い、森林施業の委託先として重要な役割を果たしている。造林、保育を主とする林業事業体において、収入規模が大きくなるにつれ森林組合の受託割合が上昇する。林業従事日数が210日以上の従業者の7割は、森林組合が雇用しており、雇用の受け皿としても重要な位置付けにある。

○ しかし、多くの森林組合の経営基盤は概して脆弱であることから、全国森林組合連合会は、「森林組合改革プラン」を策定し、経営基盤の強化に向けた合併等を推進している。

○ 森林組合を除く民間事業体は、素材(丸太)生産量の6割を生産しており、林業の担い手として重要な役割を果たしている。素材生産規模別の労働生産性をみると、規模の大きい事業体ほど、高性能林業機械の利用率が高く、生産性も向上している。

図V−2 林業作業での受託料金収入規模別の組織形態別割合

資料:農林水産省「2000年世界農林業センサス」
注:林業サービス事業体のうち、造林・保育の請負事業収入割合が最も多い事業体である、育林サービス事業体について 集計した。

(林業の生産性の向上と施業や経営の集約化)
○ 集材方法は、林内作業車や高性能林業機械を主体としたものに変化している。素材生産コストを左右する集材距離を短縮し、生産性の向上やきめ細かな森林施業を行うため、工事コストを縮減しつつ、簡易な構造を有する林道や作業道等を効果的に組み合わせた路網の整備を進める必要がある。

○ 我が国は小規模分散な森林所有構造であり、経営意欲が減退している状況下にあっては、効率的かつ安定的な林業経営を行う林業事業体や林業経営体に、施業や経営を集約化する必要がある。

○ そのためには、所有権の移転による施業や経営の集約化を推進すると同時に、施業や経営の長期の受委託を推進していくことが重要である。

○ 長期の受委託についての意向を調査した結果では、委託者である林家は、「既に任せている」、「任せたい」、「条件によっては任せたい」と回答している合計が半数を超えている。
  一方、受託者である林業事業体は、8割が長期の施業受託を実施する意向を有している。

○ 委託者と受託者との信頼関係の下で、将来にわたって長期の受委託を継続していくには、それにより受託者が経営基盤を強化するだけではなく、委託者への利益の還元も重要である。

○ 林業経営を担う人材の育成・確保については、林業普及指導事業を通じ、地域のリーダーの育成、森林所有者及びその後継者に対する多様な林業技術の移転等を促進していく必要がある。

○ 我が国の林業就業者の6人に1人は女性であり、高性能林業機械のオペレーターのほか、特産品の加工等地場産業の担い手としても重要な役割を果たしている。

図V−3 素材生産規模別の生産性と高性能林業機械の利用率

資料:農林水産省「2000年世界農林業センサス」

図V−4 素材生産における集材方法の変化

資料:林野庁業務資料
注:1)高性能林業機械を使用した場合は高性能林業機械系、それ以外で集材機を使用した場合は集材機系、それ以外でトラクタ、バックホー、ブルドーザー等の林内作業車を使用した場合は林内作業車系、これらに該当しないものをその他とした。なお、その他は馬、人力木寄せ、ヘリコプター等。
注:2)スギの集材方法について、上記によりグループ分けし、調査件数の割合を算出した。

(採算性を確保するための経営の工夫)
○ 森林所有者の利益の確保と、再造林が可能となる立木価格の設定にも資する取組として、木材供給者や工務店等が森林所有者も含めて連携する、「顔の見える木材での家づくり」が各地で展開されている。

(特用林産物の生産等に係る構造改革)
○ 林家(20〜50haの山林を保有)の林業所得に占める特用林産物等の割合は、約3割で推移しており、間断的な木材販売収入を補っている。

○ 特用林産物の生産額の約4分の1を占める生しいたけについては、国際競争力を備えた生産・流通体制を確立するため、生産・流通・消費にわたる総合的な対策を実施し、構造改革を積極的に推進している。

表V−1 特用林産物の生産対策

生しいたけの生産対策(大分県九重町)


 大分県の九重町では、平成14年に原木へ種駒を自動的に打ち込む植菌機を生しいたけの生産者15名が共同で購入し、植菌作業に係る労力の軽減及び生産性の向上を図り、生産規模を2割程度拡大した。


2 林業労働をめぐる動向林業経営をめぐる動向と課題

○ 適切な森林整備、林業の持続的な発展を図っていくためには、これを支える担い手としての林業就業者の育成、確保が不可欠である。

(新規就業の動向森林の所有構造)
○ 林業就業者数は減少と高齢化が進行している。しかし、新規就業者は、平成11年から年間2千人を上回り増加する傾向にある。新規就業者の9割は何らかの支援を希望している。

図V−5 新規就業者の希望する支援の有無とその内訳

資料:農水産省「平成13年農林水産業新規就業者等調査」
注:右のグラフは支援を希望している新規就業者のうち、当該支援を希望している者の割合(複数回答)

(森林整備を支える新たな人材)
○ 緊急地域雇用創出特別交付金事業(緊急雇用対策)による森林作業員が円滑に従事できるよう、就業相談会、就業前研修を実施している。平成13年、14年で1万5千人が森林作業に従事した。

○ 新たな担い手対策「緑の雇用担い手育成対策事業」を創設し、緊急雇用対策で森林作業に従事した者を対象に、OJT研修等を通じて、本格就業と地域への定着を促進出来るような取組を推進している。

表V−2緊急地域雇用創出特別交付金事業における都道府県の取組事例

就業者の確保、定着への取組


○ 和歌山県では、都市から地方への人口流動をすすめる「緑の雇用」を展開しており、県外からのUIターン希望者125名を雇用し、このうち約100名が中山間地域での定住、専業的就業者として森林組合等に就業を希望。短期雇用された者の定着・就業を確保するため、県単独事業として定住住宅整備、新規就業者受入準備金、新規就業者所得補填等の補助を実施した。

○ 埼玉県では森林所有者と県が間伐についての協定を結び、主要道路や観光施設等の周辺における景観間伐や、列状間伐を実施した。


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