第2章 森林の整備、保全と山村の活性化

1 地球温暖化防止、生物多様性の保全に向けて

(地球温暖化防止に向けて)
○ 地球温暖化防止に向け、温室効果ガスである二酸化炭素等の排出削減が課題である。森林は、その吸収源として重要な役割を発揮している。

○ 平成9年の地球温暖化防止京都会議において、我が国は平成20年から平成24年までの温室効果ガス排出量を、平成2年の水準に比べ6%削減することを約束した。このうち、森林による吸収量の上限は、1,300万炭素トン(3.9%)とされた。

○ 森林による吸収量として算入できるものは、森林経営が行われた森林や新たに造成された森林である。
  森林・林業基本計画に定められた森林整備の目標が達成できれば、3.9%の確保は可能であるが、現状程度の水準で森林整備が推移した場合、これを大幅に下回るおそれがある。

○ 森林の吸収量については、科学的検証が可能な手法で算定する必要があり、森林簿情報の精度の向上、データ管理システムの構築等を図る必要がある。

○ 平成14年12月、森林による吸収量を確保することを目指し、平成24年までの各般の取組を盛り込んだ「地球温暖化防止森林吸収源10カ年対策」(農林水産省)を策定した。

○ 中央環境審議会地球温暖化対策税制専門委員会(平成14年6月)において、平成16年の温暖化対策の進捗状況の評価で必要とされた場合には、平成17年以降早期に温暖化対策税を導入すべきとされ、税収の使途として、二酸化炭素吸収源の保全、強化等も列挙された。
 

(生物多様性の保全に向けて)
○ 平成14年3月に生物多様性国家戦略が見直されたところであり、原生的な自然や希少動植物だけでなく、身近な自然の保全、針葉樹と広葉樹の混交林化、間伐等の適切な森林整備を推進することが重要である

                                   

表U−1 地球温暖化防止森林吸収源10カ年対策(農林水産省)

1.健全な森林整備

 各地域において地方公共団体、林業関係者、NPO等幅広い関係者が参画して、管理不十分な森林の整備を着実かつ効率的に実施するための行動計画を作成し、多様な森林整備や生物の生息・育成空間の適切な配置を確保し自然生態系の再生が図れるような取扱を推進する。

2.保安林等の適切な管理・保全等の推進

 森林の荒廃を防止するため、治山施設の効率かつ効果的な整備に取り組むとともに、保安林制度の適切な運用により保安林の保全対策の適切な実施等を進める。

3.木材及び木質バイオマス利用の促進

 木材利用に関する国民への普及啓発、木材産業の構造改革等を通じた住宅や公共部門への木材の利用拡大、木質資源の利用の多角化を進める。

4.国民参加の森林づくり等の推進

 国民的課題である森林吸収源対策に関する幅広い国民の理解と参画を促進するため、国、地方公共団体、事業者、NPO等の連携の下に、各地において植樹祭等のイベント等を通じた普及啓発、主体的かつ継続的な森林ボランティア活動、森林環境教育、森林の多様な利用等を促進する。

5.吸収量の報告・検証体制の強化

 2007年に予想される吸収量の算定・報告体制に係る条約事務局の審査に向けて、関係諸国との情報交換に努めつつ、必要な森林資源情報の収集システムの整備等を進め、報告・検証体制を強化する。


2 多面的機能の発揮に向けた森林の整備・保全の推進

(適切な森林整備の推進)
○ 平成14年度から、森林施業計画は、30haの団地的なまとまりを確保すること、森林所有者以外の林業事業体でも策定できること等の改正が行われ、適切な森林整備の促進が期待される。

○ 平成12年度から5年間に民有林において150万haの間伐を行うことを目標とした「緊急間伐5カ年対策」を推進している。平成13年度の実施面積は前年に引き続き30万haを確保した。

○ 森林のもつ多面的機能を高度に発揮させる必要のある森林を中心に、育成複層林施業、長伐期施業、広葉樹の導入等を推進し、多様な森林を造成する必要がある。
  また、花粉の少ないスギ品種を供給するなど花粉症対策を推進している。

○ 林道や作業道の林内路網の整備は、手入れの必要な森林へのアクセスや高性能林業機械の活用等を可能とし、適切な森林整備、効率的な林業経営を推進する上で重要である。

○ 森林の整備と保全とを総合的に推進するため、平成16年度から森林整備事業計画と治山事業計画を統合する必要がある。

図U−1 間伐等の作業と表層土壌の流去量の一例

資料:兵庫県立林業試験場研究報告第30号:古池 1986
注1:データは年当たりの流去量であり、3年間の平均値である。
注2:保育作業は枝打ち、間伐である。

(森林の保全)
○ 平成13年度末、保安林は我が国森林の4割に当たる905万ha(延べ969万ha)に達している。平成14年には、第5期保安林整備計画(平成6年度〜平成15年度)を一斉変更し、水源かん養、保健、魚つき保安林を主体に指定していくこととした。

○ 安全で安心できるくらしを実現するため、治山事業を計画的に推進している。また、トキの野生復帰に向けた生息環境としての松林を保全するため、的確な松くい虫被害対策を推進している。

○ また、シカ、カモシカ、イノシシ等の野生鳥獣による被害を防止するため、防護策の設置による防除の実施、生息環境となる広葉樹林の造成等の対策を総合的に推進することが必要である。

図U−2 保安林面積の推移

資料:林野庁業務資料
注:数値は延べ数字である。

(公的な関与による森林整備)
○ 公益的機能の発揮に対する要請が高く、森林所有者の自助努力では適切な森林整備が困難な森林については、治山事業、緑資源公団、森林整備法人等による公的機関による森林整備を推進している。

(多様な主体による森林づくりの推進)
○ 民有林、国有林を通じ、地域の実態に応じた森林整備、木材生産を関係者が自主的に行う「森林の流域管理システム」を推進している。近年、森林GISの利用等により、関係者の合意形成の環境が整備されつつある。

○ 森の恵みを活かし、持続的に森林資源を循環させていくことを訴える「もりのくに・にっぽん運動」が国民運動として展開されている。

○ 上下流の連携による植林や間伐等の森林整備が広範に展開されている。
近年では、漁業関係者による森林整備が活発になっており、平成13年度には、全国137か所で実施された。

○ ボランティア活動による森林づくりが活発化している。平成12年には、平成9年の2倍の581団体が全国で活動した。
今後、フィールドの提供、技術の指導等の条件整備が必要である。

表U-2 「もりのくに・にっぽん運動」の取組

”森の名手・名人100人”の選定


 「もりのくに・にっぽん運動」の最初の取組として、平成14年度には、「森の名手・名人100人」の選定が行われた。
 この取組は、樵、マタギ、炭焼き等森に関わる仕事をしている人達の中から、優れた技を極めて他の模範となっている達人を全国から 100人選定することにより、森林に関する技、知恵、文化に光を当てようとするものである。
 その後、全国の高校生100人が「森の名手・名人100人」からその技や人となりを聞き書きをし、その成果を発信する取組が引き続き行われている。

(森林環境教育の推進)
○ 平成14年度から実施されている完全学校週5日制や総合的な学習の時間の導入に対応し、森林環境教育を積極的に推進している。
文部科学省との連携による「森の子くらぶ」活動には、平成13年度、延べ24万人が参加した。

○ 子どもたちが、安全に森林の中で活動できる学校林の活用が重要である。
全国の学校数の8%にあたる3,312校が学校林を保有しているものの、学校からの距離が遠いことなどから、利用されていないものが7割を占めるなど低位な状況にある。このため、利用協定等を活用し、近接した森林での教育の場を提供していく必要がある。

表U−3 学校林の取組事例

市内の里山林を学校林として選定


 長野県飯田市では、市内の里山林のうち、学校に近く、林内の動植物が豊かなところなどを学校林として選定、整備し、市内17の小学校に設置する予定である。

学校林活動から広がる市民運動


 山形県酒田市十坂小学校では庄内砂丘のクロマツ林をフィールドに 植林、枝打ち、つる切りなどの作業を行っており、地域への愛情を育てる学習の場として活用している。さらに、県と市ではこのような活動を受けて、住民参加の森づくりの拠点を市内2地区に設定し、現在では毎回多くの市民が参加する市民運動へと発展している。

(里山林の保全、整備間伐の推進)
○ 身近な存在である里山林は、森林環境教育やレクリエーションの場として積極的に利用していくことが重要である。
近年では、高齢化社会の進展等を背景として、健康づくりや生涯学習の場としての利用に対する期待も増大している。

3 山村に期待される役割

(山村の現状)
○ 山村の人口は、我が国の人口の4%に過ぎず、若年層を中心に減少し、高齢化が進行している。

○ 多くの山村は、総戸数29戸以下の集落が全集落の半分以上を占めているなど少ない戸数で集落の機能を維持している。戸数の減少が、集落の機能の低下につながるおそれがある。

図U−3 全国と振興山村の総戸数規模別の農業集落の割合

資料:農林水産省「2000年世界農林業センサス」

(山村に対する新たな期待の高まり)
○ 近年、山村に対する国民の期待は、自然にふれあい心身をリフレッシュする場として利用することや、森林の二酸化炭素の吸収源・貯蔵庫としての機能を発揮させることなど多様化・高度化している。

○ 山村は、都市にはない様々な可能性をもっており、山村と都市とが連携し、共生していく意義は大きい。

4 山村の活性化に向けた取組

(地域資源を活用した多様な産業の育成山村の現状)
○ 農林業の振興を図り、生産された木材や農産物、しいたけ等の特用林産物に付加価値をつけて販売する取組が必要である。

表U−4地域資源を活用した多様な産業の育成の取組事例

「桐のゆりかご」で育む伝統産業育成への取組


 160haの桐の植林地を有する会津桐の主要な産地である福島県三島町は、平成9年、第3セクター「会津桐タンス(株)」を設立し、17名の地元採用者による桐タンスの製造、販売を行い、原木生産地から家具等の製品生産地への脱却を進めている。平成14年には、東京都在住のインテリア関係者の協力の下に、肌触りが暖かい、調湿性が高いといった桐の特徴を生かしたベビーベッドなどを開発、販売し、伝統的な桐製品だけでない「みしま桐」振興の取組を進めている。
 さらに、町では、桐を生産する農林家の所得向上と良質な桐材の安定的な供給を図るため、経験豊富な農林家を「桐ドクター」として委嘱し、桐の植林の拡大に取り組んでいる。

(多様な人々が活動できる地域づくり)
○ 近年、山村に対する国民の期待は、自然にふれあい心身をリフレッシュする場として利用することや、森林の二酸化炭素の吸収源・貯蔵庫としての機能を発揮させることなど多様化・高度化している。

(資源循環型の社会システムの構築)
○ 再生可能な資源である木質バイオマス等を利用した資源循環型の社会を目指した地域づくりが各地で展開されている。

(人と自然との共生に向けた取組)
○ 山村は、都市住民が滞在し農林業体験等を行うグリーン・ツーリズムや森林環境教育等の活動拠点としての役割が期待されている。

(持続可能な経済社会のモデルとしての山村)
○ 山村は、森林をはじめとする豊富な地域資源を有効に、かつ、多段階に利用する素地を持っていることから、持続可能な社会システムのモデルとなる可能性がある。


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