第1章 世界の森林の動向と我が国の森林整備の方向

1 森林の減少・劣化とその影響
(世界的に進行する森林の減少・劣化)

○ 世界の森林は、平成12年までの10年間で、我が国の国土面積の2.5倍に当たる94百万ha減少している。森林減少の96%がアフリカと南米の熱帯林である。
また、森林火災等による疎林化で森林の劣化も進行している。

○ 開発途上地域では、貧困、人口増加、食料不足等を背景に、薪炭材の過剰な採取、農地確保のための過剰な伐採、商業用木材の過剰、違法な伐採等が複合的に作用し、森林の減少・劣化の要因となっている。

○ 先進地域でも、大気汚染による樹木の立ち枯れ、大規模な森林火災等により森林の劣化が進んでいる地域も存在している。

○ 森林の消失により砂漠化に拍車がかかり、住民生活の維持が困難となる地域もみられ、都市への人口集中をまねき貧困が拡大している。

図T−1  世界の森林面積変化(2000年までの10年間計)

(増加傾向にある木材消費)
○ 各国の一人当たり木材消費量は、経済の発展度合いに応じて増加している。このため、世界の木材消費量は、人口の増加とも相まって長期的には増加傾向で推移している。

○ 特に、開発途上地域での木材消費量の伸びは顕著である。この結果、木材の消費量や輸入量に占める開発途上地域のシエアは、消費量では昭和40年(1965年)の51%から平成12年(2000年)の60%、輸入量では同じ期間で9%から21%へと増加している。

○ アフリカでは、人口の増加により昭和40年(1965年)に比べ、平成12年(2000年)の木材消費量が倍増した。中国では、経済発展により木材輸入量が昭和40年(1965年)の16倍に急増し、金額で我が国を抜いて世界第2位の木材輸入国に躍進した。

○ 将来の世界の木材消費量は、アフリカ等の人口増加や中国等での経済発展が見込まれていることから、FAOが行った見通しによると、平成22年(2010年)には、現在より15%増加するものと予想されている。

図T−2 世界の地域別輸入量の推移

資料:FAO「FAOSTAT」、「Year of Forest Products」

(森林の減少・劣化の影響)
○ 森林の減少・劣化は、世界で水不足の状態におかれる人口の割合が、平成37年(2025年)に3分の2となるとの国連の予測を一層深刻化させるおそれがある。

○ また、化石燃料の消費による二酸化炭素濃度の増加、世界の陸地の4分の1に達している砂漠化に拍車をかける要因となる。

○ 利便性や効率性を優先し、森林の持続的利用への配慮を怠った木材貿易は、過剰な伐採や違法な伐採を誘発し、森林の減少・劣化に拍車をかけるおそれがある。

○ 我が国は、WTOの非農産品市場アクセス交渉の中で、林産物については、地球規模の環境問題の解決への貢献、再生産可能な有限天然資源である森林の持続的利用の観点から、市場アクセスの検討に当たっての特別の配慮等を求めている。

○ 森林の減少・劣化により、タイやフィリピンのように、かつての木材輸出国が輸入国に転じるなど、世界の木材貿易が変化している。

○ また、1990年代、開発途上地域の単位面積当たりの森林蓄積は、約2割減少しており、木材供給力の減退が危惧される。

図T−3 砂漠化の現状

資料:UNEP1991

図T−4 木材の輸出入の推移(タイ、フィリピン)


 世界の「持続可能な森林経営」の推進

(「持続可能な森林経営」の推進の重要性)
○ 森林が減少している地域の住民は、森林の保全と利用の両立が安定的な生活につながることを理解できても、これを実践していくことは困難となっている。

○ 森林の利用は住民にとって不可欠であるが、森林のもつ機能や森林の減少・劣化の影響に対する関心の不足も森林の過剰な利用の一因である。

○ 資源循環型社会の構築に向け、「持続可能な森林経営」の推進に国際社会が一体となって取り組む必要がある。
  開発途上地域にあっても、木材の活用をはじめ森林からの様々な恩恵を持続的に受けられるような森林づくりを進めていく必要がある。

(地球サミットからヨハネスブルグ・サミットへ)
○ 平成14年(2002年)の夏に開催されたヨハネスブルグ・サミットで、持続可能な開発を進めるための「実施計画」が採択され、この中で、「持続可能な森林経営」を推進する重要性が再確認された。
また、このサミットの森林分野の成果として、アジア地域の「持続可能な森林経営」を推進するため、違法伐採対策等の活動を行う「アジア森林パートナーシップ」が発足した。

○ 「持続可能な森林経営」の推進を支援する森林認証・ラベリングの取組が進展しており、「世界森林白書2001」によると、認証された森林は約9千万haに達すると推測されている。我が国でも、森林所有者や木材流通加工業者、消費者等国民の関心は高く、森林の状況に応じた認証制度の確立に向けた準備が進められている。

○ 違法伐採は、「持続可能な森林経営」を推進する上での阻害要因となる。インドネシア産木材の過半が違法伐採木材であるとの報告もあり、解決しなければならない課題である。

○ 平成15年(2003年)3月に我が国で開催された「第3回世界水フォーラム」では、水と森林の関係についての共通認識の醸成を図るため、円卓会議や分科会が実施され、水に関する森林の役割について活発な議論が行われた。また、閣僚級国際会議でも、水問題の解決における「持続可能な森林経営」の重要性が取り上げられた。

       

表T−1 ヨハネスブルグ・サミットの実施文書<森林関係>


  

図T−5 森林所有者及び流通加工業者の認証・ラベリングへの参加意向

資料:農林水産省「平成14年度農林水産情報交流ネットワーク事業 全国アンケート結果」

 我が国の国際貢献と国内での適切な森林整備の推進

(世界の持続可能な森林経営に向けた我が国の国際協力)
○ 我が国は、先進国として、開発途上地域において薪炭材の持続的供給、水源のかん養等の森林の多面的機能が持続的に発揮されるよう、様々な活動を通じて国際協力を推進していく必要がある。

○ 熱帯林の保全や復旧のための植林協力と併せ、住民が自発的に森林の維持、造成に取り組む社会林業の確立、森林資源の調査、森林管理計画の作成等の支援を重点的に実施していく必要がある。

表T−2 社会林業の確立のための協力事例

ケニア半乾燥地社会林業普及モデル開発計画


 ケニアでは、人口の増加から、薪炭用材の過剰採取、過放牧等により森林の荒廃が進行した。
 我が国は、同国政府からの要請に応じ、1985年以来2002年度まで、半乾燥地における造林技術の開発、普及関係者への社会林業に関する訓練、農地林の造成を通じた住民による社会林業推進のための普及モデルの開発等について、専門家の派遣、研修員の受入等の協力を実施してきた。


 
 (我が国の森林整備の現状)

○ 国内においても、森林による二酸化炭素の吸収量の確保に向けて森林にきちんと手を入れることが必要である。また、水源かん養、木材の供給等の多面的機能が発揮されるような森林整備が重要である。そのため、持続可能な森林経営の推進が重要となっている。

○ 我が国の森林は国土面積の67%を維持し、その4割を占める人工林の蓄積は、毎年7千万立法メートルずつ増加するなど量的資源は充実しつつある。

○ しかしながら、長引く木材価格の低迷等から、平成13年(2001年)における国内で生産された木材の供給量は、ピークであった昭和42年(1967年)の3割の水準まで低下するなど、林業生産活動は停滞し、森林が十分に利用されない状況にある。この結果、管理水準の低下によって森林のもつ多面的機能の発揮にも支障をきたすおそれがある。

○ 世界の森林は、過剰な利用によって減少・劣化しているが、我が国の森林は、資源として利用されないことによって整備が行われず、世界の森林とは逆の形で、劣化するおそれがある。

図T−6 我が国の人工林の蓄積、46年生以上の森林面積割合の推移

資料:業務課資料
注:各年度とも3月31日現在の数値であり、H11は推計である。

(我が国の適切な森林整備に向けて)
○ 世界有数の木材輸入国である我が国は、世界の「持続可能な森林経営」を推進する観点から、国内の森林を資源として十分に利用していくことが国際社会の一員としての責務である。これは、資源循環型社会を構築していく上でも避けて通れない課題である。

○ このためには、林業生産活動や山村社会が長期的に継続できる状況をつくりながら、広範な国民の理解や参加を得て、社会全体で国内の森林の整備と保全、木材利用を支えていくことが重要である。


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