第5章 森林と人との新たな関係を発信する山村  

1 山村をめぐる現状と意識の変化

○ 山村の人口は、高度経済成長期以降、若年層を中心として大幅に減少し、過疎化・高齢化が進行した。昭和40年から平成7年までの間に、全国の人口が3割増加したのに対し、振興山村では3割減少した。

○ 地域社会の維持、形成に大きな役割を果たしている集落は、19戸以下の集落と100戸以上の集落が増加しており、小規模な集落の中には、集落の機能を維持できなくなっているものも増えていると考えられる。

○ 今後は、山村に魅力を感じ、価値を見出そうとする都市等の人々を受け入れ、このような人々の新たな視点や発想を取り入れつつ、山村の将来を考えるなど山村自身もその存続のためには努力が必要となっている。

2 山村の活性化への取組

(地域資源を活用した多様な産業の育成による就業機会の確保)
○ 山村にある豊富な森林資源をはじめとする様々な地域資源を最大限に活かした産業を育成していくことが重要である。

○ 地域の産業振興に当たっては、例えば、地域で生産された木材製品を地域で利用する取組(地産地消)を広げながら、地域の木材に対する都市の消費者の理解を得ていくことも重要である。

図5−1 世帯数別集落数の推移

                           

表5−1 山村の就業機会の確保に向けた取組例

森林を総合的に利用した循環型のまちづくり(北海道・下川町(しもかわちょう))

 下川町では、「町を再興させる基本財産は持続生産可能な町有林」という考えの下に、機会あるごとに森林を購入し、持続可能な循環型の林業経営を推進している。下川町森林組合は、カラマツ間伐材を使った木炭の生産、集成材加工品生産等の事業を展開し、88名を雇用する有数の事業所として発展している。さらに、平成10年に下川産業クラスター研究会が発足し、森林・林業・林産業を核にした取組を開始し、従来は間伐時に林内に放置されていたトドマツの葉から油を抽出し、芳香剤等として平成13年から商品化している。

「森の仕事まるごと販売計画」(高知県・馬路村(うまじむら))

 馬路村では、農業、林業、観光を柱とした村の活性化ビジョン「馬路村まるごと販売術」を作成した。この中で、特に林業については、村内の森林づくりから商品の生産販売までを一体的に整備した「森の仕事まるごと販売計画」を策定した。村では環境・循環型社会をキーワードに豊富な森林資源を売り出すため、第3セクター「株式会社エコアス馬路村」を設立したほか、村の情報発信拠点として、高知市に「森の情報館・ECOASU馬路村」を開設などを行った。第3セクターでは、森林づくり、丸太生産、間伐材のトレーやうちわ等の生産、営業、販売、情報発信等を展開しており、26名の雇用の場を確保している。
 

(魅力あふれる地域づくりの推進)
○ 山村の若者やUJIターン者の定住、都市の人々の第2の居住場所となるよう、林道の整備に加え、医療、文教関係施設や上下水道、集落排水施設等の整備を推進する必要がある。

○ また、UJIターンやボランティアの受け入れ体制を整備することが重要である。

○ グリーン・ツーリズム等の体験を伴う都市と山村の交流が各地で取り組まれている。また、子ども達の「生きる力」をはぐくむため、自然体験活動や森林環境教育等の体験活動の拠点として山村の役割が期待されている。

○ 山村には再生可能なエネルギー資源である木質バイオマスや風力、水力等の自然エネルギーが豊富に存在する。このような自然エネルギーを利用した地域づくりが各地で取り組まれている。

(21世紀における新しい地域のあり方を示す場としての山村)
○ 都市と山村はともに相手にはない魅力を持ち、都市と山村が共生・対流することにより、双方住民にとって有益となる新たな関係を構築することが必要となっている。

○ 山村は豊かな自然に恵まれており、自然との密接なかかわりから生産される 農林産物をはじめ地域資源を有効に多段階に活用し、最後には土に返していくような大きな循環型の社会を形成していく素地をもっている。

○ 自然共生型の生活様式を作り上げ、物質循環のメカニズムの中で生み出される再生産可能な資材を有効に利用する社会システムを創造していく上で、山村は将来、モデルとなる可能性をもっており、山村と都市が一体となって山村の活性化に取り組んでいくことが双方の利益につながるものと考えられる。

表5−2 多様な人々が活動できる地域づくりへの取組

Iターン者の住宅の確保(福井県・名田庄村(なたしょうむら))

 名田庄村では、平成4年に林業後継者の確保・育成と地域林業の活性化、国土の保全を図るため、「緑の山を守る基金条例」を制定し、新規就業者に対し同基金から給与等の助成を行っている。また、Iターン新規就業者の生活基盤となる住宅を確保するため、村が住宅建設を行い、森林組合が住宅手当を支給することなどより、16名の新規就業者の定着が図られている。

「緑のふるさと協力隊」(岡山県奥津町(おくつちょう)他16か所)

 山村でボランティア活動を希望する都市の若者と過疎化に悩む町村を結びつける取組として、特定非営利法人地球緑化センターでは、「緑のふるさと協力隊」を平成6年から実施している。若者達は、1年間、町村に滞在し、植林等の森林整備等様々な活動を行っている。このような活動を通じて、若者達が山村のすばらしさや自己の生き方を見出し、山村に定住するきっかけともなっている。平成12年度は23名の参加者のうち15名が定住した。
 
 

表5−3 都市と山村との交流に向けた取組

中川町森の学校(北海道・中川町(なかがわちょう))

 中川町では、平成9年度に化石の里づくり構想を立ち上げ、有形無形の資源を自然科学、環境教育の実践の場として活用する中川町森の学校を開設した。本学校は、「地球環境の変遷と自然と人との共生」をテーマに森と川の生態系や林業の今昔等を学んでいる。地元住民も講師となり、町外の目線で評価されることにより、中川町の魅力の再認識につながっている。
山村での暮らしを通じて森林環境教育活動を展開する「暮らしの学校:だいだらぼっち」

 特定非営利活動法人グリーンウッド自然体験教育センターでは、長野県泰阜村(やすおかむら)や、地域住民と一体となって自然体験による総合学習を展開している。その中でも「暮らしの学校:だいだらぼっち」は、都会の子供たちが親元を離れ、山村で1年間共同生活をしながら、食事作り、薪風呂焚き、米作り等を実施している。また、生活に必要な薪は、近くの里山林で間伐をして確保しており、地元林家とのつながり、人と自然環境とのかかわり等を実体験で学習している。
 
 

表5−4 自然エネルギーを活用した地域づくりへの取組

木質バイオマスエネルギー等を活用した地域づくり(岩手県・住田町(すみたちょう))
 住田町では、「森林エネルギーのまち」を基本理念とした「地域新エネルギービジョン」を平成13年2月に策定した。平成13年度には、新設した保育所の暖房機器にペレットボイラーを導入している。町内の原料による木質ペレット等の燃料製造施設の立地を視野に入れながら、公共施設等での木質燃料使用の拡大を進め、基本理念の実現を目指している。
 


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