第3章 林業の健全な発展を目指して

1 林業が担う役割  

○ 林業は、その適切な生産活動を通じて森林のもつ多面的機能の発揮に重要な役割を果たしている。

2 林業経営をめぐる動き

(森林の所有構造)
○ 私有林の所有構造は、小規模な森林を保有する多数の林家と1社当たりの保有森林面積の大きい会社が併存している点に特徴がある。

○ 林家1戸当たりの平均保有森林面積は、昭和35年の5.1haから平成12年の5.6haへとわずかながら拡大したものの、依然として、零細な林家が大半を占めるという所有構造は変わらない。

(林業をめぐる状況の変化)
○ 我が国の人工林資源は、これまでの造成を基軸とするものから、森林を健全な状態に保ちながらその持続的な利用を進めていく段階を迎えつつある。

○ スギ立木の実質価格は、昭和48年をピークにほぼ一貫して低下し続けている。平成13年のスギ立木価格は、ピーク時の31%にすぎない7,047円/m3となった。

○ 平成12年度、林家1戸当たりの年間平均林業所得は、前年度より10万円減少して26万円となった。

○ 近年、輸入が急増していた生しいたけに関して、政府は、平成13年4月から11月までセーフガード暫定措置を発動した。今後は、主要輸出国である中国との間で同年12月の合意に基づく農産物貿易協議会を通じ日中双方の秩序ある貿易を促進するとともに、国内の生産流通体制の確立を図ることとしている。

図3−1 スギ木材の実質価格の推移(昭和45年=100)

                               

図3−2 林業所得と全産業勤め先平均収入の推移


(林家の動向)
○ 過去40年間の林家の動向をみると、会社勤め等を主業とする林家の割合が 5.1%から43.0%へと小規模層を中心に増加した。このような就業形態の変化が、林業従事世帯員数の減少と不在村林家の増加をもたらしたと考えられる。

○ 小規模林家を中心に、林業経営を継続する上で基本となる主伐が控えられている状態となっている。

○ 不在村林家では、森林施業を委託して行う者も一部に見られるが、在村林家に比べて施業の実施割合が低い。

○ 林家の高齢化や不在村化の進展から、森林施業や経営を十分に行うことのできない林家の増加が予想され、施業や経営の放棄された森林の増加が危惧される状況にある。

○ このため、このような林家に代わって、造林、保育、素材生産を効率的に実施できる意欲のある林家や森林組合等の林業事業体の役割が重要となっている。

(林業事業体の現状)
○ 森林組合は、民有林の新植面積の8割、間伐の7割を実行する森林整備の中心的存在である。

○ 地域における森林の整備と管理を効率的に実施する担い手として森林組合に対する期待が高まる中、経営基盤の強化や組織運営体制の整備に取り組むことが一層重要となっている。

○ 民間事業体は零細なものが多く、その経営状況は厳しい一方、林業事業体間での協業化等、経営の効率化や安定化に取り組むものも存在している。

(林業生産コストの低減)
○ 路網整備や高性能林業機械の導入は、林業生産コスト低減のための重要な手段である。

     

図3−3 民有林における森林組合実行事業のシェア

図3−4 高性能林業機械導入システムと従来型システムとの労働生産性及び素材生産コストの比較(主伐)

(林業の構造改革)
○ 効率的・安定的に林業経営を担い得る林家、森林組合、民間事業体が、施業や経営を集約化して林業生産の相当部分を担う「望ましい林業構造」を確立することが課題となっている。

○ 森林法の改正に伴って、意欲的な担い手が、森林所有者に施業や経営の長期委託を働きかけて森林のまとまりをつくり、施業のスケールメリットによって生産性を向上させることが期待される。

○ 施業や経営の受託を円滑に進めるためには、森林所有者に木材市況等の各種情報を提供するなど、所有者が安心して施業や経営を任せられるような状況をつくる努力が必要である。

○ 森林・林業を担う人材の育成・確保に関しては、林業普及指導事業を通じ、地域のまとめ役となる林業者に対する高度な林業技術の移転、女性の林業経営への参画、青少年に対する森林・林業教育等を進めている。

3 林業労働をめぐる動き

(林業労働力の現状)
○ 林業就業者は、減少と高齢化が進む中で、10年前と比べて、20代での増加数が大きくなるなど、高齢化している就業構造に変化のきざしがみられる。

(新規就業者をめぐる動き)
○ 増加傾向にある新規就業者の4人に1人はUIターン者である。ライフスタイルの多様化にともない、林業就業者は、都市からの参入を含めた広範なものへと変化してきていると考えられる。

○ 近年の新規就業者は他産業からの転職者が多いため、林業作業の未経験者が多く、林業作業に関する知識、技術の習得等が重要となっている。

(森林の整備を通じた雇用対策)
○ 政府の総合雇用対策の一環として、森林整備を通じた雇用・就業機会の創出に向けた取組が実施されており、林野庁では、厚生労働省と連携し、労働安全を重視した就業事前研修等を実施している。

表3−1 森林・林業を担う人材の育成・確保の事例

○林業技術研修会の実施(千葉県・香取(かとり)支庁)
 千葉県香取(かとり)支庁では、現地での施業に役立つ技術の普及、向上と安全意識の啓蒙を図ることを目的に香取郡市森林組合との合同による「林業技術研修会」を開催している。本研修会では、森林施業に熱心に取り組んでいる者の参加のもと、間伐方法、病害虫対策、税制等林業に関する様々な課題についての専門家による講義、伐木造材や小型林業機械等の実演や実技を通して技術を身につける研修を実施している。
○小中学生を対象とした森林・林業教育(山口県)
 山口県では、平成14年度から本格実施される「総合的な学習の時間」の試行として、地元の小中学校が行う体験学習や環境をテーマとした学習の際、林業改良指導員や地域の林業関係者が植林、間伐、枝打ち、炭焼き等の林業体験やカブトムシのすみかづくり等を児童、生徒に教えている。
○女性による林業活動(大分県・直川村(なおかわそん))
 大分県の直川村(なおかわそん)婦人林研協議会(通称:あすなろ会)は、「仲間づくりと新たな林産物への取組」をテーマに、農林家を支える女性として知識の向上と活力ある村づくりを目指して、県内外の林業先進地研修を実施して自己研鑽に励んでいる。さらに、研修成果等を生かした苗木生産、村営キャンプ場の管理・運営、木工品の製作販売等多岐にわたる事業に取り組んでいる。

 

図3−5 同齢世代の林業就業者数の変化


資料:総務省「国勢調査」
注:1)値は、各年齢層の就業者数が5年後に1階層上がった就業者数となった場合にどれだけ増減したのかを示したもの。
2)横軸の値は、平成2年度及び平成12年度における就業者の年齢階層を示す。


もどる