第1章 森林と国民との新たな関係の創造に向けて
1 森林の歴史
(いのちのふるさとである森林)
○ 4億年前、原始の海から陸上に進出した植物は、その後進化しながら森林を形成し、陸地を覆っていった(木性シダ類→裸子植物→被子植物)。○ 人類登場(約500万年前)よりはるか以前から、森林により、陸地は湿潤になり、地表の温度変化も緩和されるなど、生物が棲みやすい環境が形成された。森林は、人類にとっていわば母なる存在といえる。
2 文明社会と森林
(文明の盛衰と森林)
○ 文明の盛衰には、戦乱等様々な要因が複雑に影響し、単純に資源不足や環境悪化と関係づけることは難しい。しかし、古代のシュメール(メソポタミア)文明、ギリシア文明のように、結果として森林が荒廃したり失われたりした事例は多い。
かつて森林に覆われていた黄河中流域の黄土高原では、国を挙げて緑の回復事業が行われている。(世界的な森林の減少・劣化)
○ 国連食糧農業機関(FAO)によれば、平成12年における世界の森林面積は38億7千万haで、南極を除く陸地面積の3割に相当する。
熱帯地域においては、造林等による増加分を差し引いても、年間に我が国の国土の3分の1に相当する1,230万haが減少しており、熱帯林を中心に森林の減少には歯止めがかかっていない。
3 我が国における森林と人間とのかかわり
○ 我が国では、長い歴史の中で人々の暮らしと森林や木材とが深くかかわってきた。
今日、国土の7割近くがなお森林であり、先進国の中でも森林率が高いのは、気候や地形といった自然条件に加え、先人たちが森林を守り再生させる努力を重ねた結果といえる。(我が国における森林の利用と保全)
○ 森林を保全しながら有効に利用する考え方とそのための知恵、技術、制度、生活のあり方(総体として「森林文化」ともいうべきもの)がはぐくまれてきた。(我が国における木を活かす文化)
○ 森林から得られた木材を、その特性を活かしつつ様々な用途に無駄なく利用する文化(「木の文化」ともいうべきもの)がはぐくまれてきた。
4 森林と国民との新たな関係(森林が遠くなった現代社会)
○ 高度経済成長以降、都市への人口集中が進み、森林は縁遠い存在という状況で育っている人たちも増えている。また、木材・木製品も、以前に比べ身近に接する機会が減り、身の回りから次第に遠ざかっている。(森林を支えてきた林業生産活動の停滞と山村の衰退)
○ 森林を守り育ててきた林業は、国産材需要の減退、木材価格の低迷、林業採算性の悪化等から、その生産活動が停滞している。○ 人口の減少と高齢化が進行する山村では、小規模な集落が増加しており、今後、機能を維持できなくなる集落の増加も懸念される。
・水に強く加工しやすいスギは丸木舟、きめの細かなトチノキは鉢や盆、ねばり強いユズリハは石斧の柄というように用途に応じて的確に樹種を選択。 |
(今後の社会における森林、木材の意義)
○ 森林は太陽エネルギーを基にした光合成により有機物を生産し、また、生態系として様々な物質の循環メカニズムを有している。○ 地球の温暖化防止が大きな課題となる中で、二酸化炭素を吸収し貯蔵する森林の機能は、大いに注目されている。また、固定された炭素を貯蔵する木材を積極的に利用することも、森林による吸収・貯蔵と並んでますます重要性を増している。
○ 森林浴や木の香りがもたらす心地よさや安らぎ等、これまで経験的に知られてきた森林や木材の感覚的、心理的な効用について、科学的な把握が進められている。現代社会が高度に発展していく中で、こうした森林や木材が人間にもたらす効用は、今後一層重視されていくと考えられる。
(森林と積極的に共生していく社会の構築に向けて)
○ 国産材の需要減退が林業生産の減退につながり、木材としての利用を想定して造成された人工林を中心に、森林が資源として利用されず放置されるようになり、ひいては森林の荒廃につながることが懸念される。○ 一方、森林や木材は、持続可能な社会の構築に向けて注目される様々な機能や各種の可能性をもつ。今後、快適な生活、人間の健康、精神的な安らぎが求められる中で、森林や木材の特性が改めて見直されるものと考えられる。
○ 我が国において持続可能な社会の構築を進める上では、森林や木材の特性を踏まえつつ、我が国ではぐくまれてきた「森林文化」、「木の文化」を今日的視点から見つめ直していく必要がある。
その上で、森林の適切な整備を通じて供給される木材(国産材)に対する需要を確保し、これを適切に利用していくことにより、伐採、植栽、保育等のサイクルを円滑に循環させ、「持続可能な森林経営」を確保していくことが極めて重要となっている。○ 森林と積極的に共生していく社会を構築し、森林のもたらす様々な恩恵を現在及び将来の国民が十分に享受できるよう、社会全体で森林を健全な形で引き継いでいくことが我々に課せられた大きな責務である。