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近畿中国森林管理局

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    大杉谷の自然

    大杉谷国有林は、伊勢平野の南部を東に流れ伊勢湾に注ぐ宮川の源流部にあたり、標高1,695mの大台ケ原山(日出ヶ岳)の北東側に位置しています。大台ケ原周辺は、日本有数の多雨地帯として知られており、激しい浸食作用により、地形はけわしく複雑で、谷は深いV字型となり大小さまざまな滝が見られます。

    豊富な雨と変化に富んだ地形により、この地域の森林は、カシ類を主体とした常緑広葉樹林、ブナ等に代表される落葉広葉樹林、トウヒやウラジロモミ、コメツガを主体とした常緑針葉樹林など多様な森林が成立しています。

    この豊かな森林を守り、末永く後世に伝えていくため、平成3年3月、大杉谷国有林を「大杉谷森林生態系保護地域」に設定しました。

    シロヤシオ オオイタヤメイゲツ シャクナゲ  

    気候

    「月に35日雨が降る」「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるように、大杉谷・大台ケ原山系は日本有数の多雨地帯として知られています。降水量は年間4,000~6,000mmに達します。この雨の大部分は4月~10月に集中しています。この一帯に限って降水量が多く、しかもそれが夏季に集中しているのは、熊野灘に発生する南東からの季節風が、湿った空気をともなって大台ケ原付近に雨雲を形成するためであると考えられています。植物の生長期間に多量の降雨があることによって、この地方独特の豊かな植物相が形成されているのです。

    地形・地質

    三重県と奈良県の県境を分ける台高山脈は、国見山、三津河落山、日出ヶ岳と南北に連なり、西の大峯山脈と並び紀伊半島を代表する山岳地帯を形成しています。

    三津河落山から日出ヶ岳を結ぶ尾根を境として、東側が大杉谷、西側が大台ケ原と呼ばれます。大台ケ原は標高1,500m前後の傾斜の緩やかな準平原です。

    大台ケ原は紀伊半島の主要な河川の水源地となっています。北西に流れる本沢川は吉野川となり、やがて紀ノ川と名を変え紀伊水道に注ぎます。南に流れる東ノ川は、北山川と合流し、熊野川となって熊野灘に注ぎます。東側は、堂倉沢や西谷川の水を集めた大杉谷より宮川となり伊勢湾へ注いでいます。

    深いV字谷を形成する大杉谷には、大小100に及ぶ滝があり、主なものに、千尋滝、七ツ釜滝、光滝、堂倉滝などがあります。

    大杉谷のこのように変化に富んだ特異な地形は、この地域の地質と気象条件に深いかかわりがあります。大杉谷一帯は、秩父古生層の砂岩、頁岩、チャート、石灰岩などの堆積岩と、火成岩より構成されています。これが、日本でも有数の多雨地帯である大台ケ原の水系による激しい浸食作用を受けますが、その地質の違いにより風化や浸食の度合いが異なることから、変化に富んだ断崖や滝、淵などの地形を形作っていくのです。

    千尋滝

    七ツ釜滝

    光滝 堂倉滝

    【千尋滝】

    【七ツ釜滝】

    滝が7段になっていることに由来します。

    写真では3段しかわかりませんが、全体では落差80mにもなります。

    【光滝】

    【堂倉滝】

    落差が20mもあり、水量が多く力強い印象を受けます。

    滝壺は深く、深緑色を呈し、神秘的です。

    嵓(くら)

    大日嵓、平等嵓、大蛇嵓など、大杉谷や大台ケ原には「嵓」がつく地名が多く見られます。「嵓」は「けわしく切り立った大きな岩」という意味があります。

    平等くら 大蛇嵓 嵓
    【平等嵓】 【大蛇嵓】 大台ヶ原南東に連なる切り立った岩

     大杉谷の森林~垂直分布~

    大杉谷の国有林は標高約320mの水越谷出合から標高1,695mの日出ヶ岳山頂まで、実に1,300mもの標高差があります。したがって、大杉谷では、暖温帯林から亜寒帯林までの多様な森林が連続して見られることになります。

    暖温帯の森林

    標高の低いところでは、常緑カシ類を主体とする森林が成立しています。標高約800mの七ツ釜滝付近まで、アラカシ、ウラジロガシ、アカガシなどの常緑のカシ類、タブノキを主体とした暖温帯の常緑広葉樹林がみられます。

    中間温帯の森林(モミ・ツガ林)

    標高約800~1,350mにかけて、モミ、ツガ、ヒノキを主体とする森林が見られます。

    暖温帯の常緑広葉樹林の上部から冷温帯の落葉広葉樹林の下部にかけて見られます。

    大杉谷では特にツガの優占する森林が多く見られるのが特徴です。

    冷温帯林(ブナ林)

    大杉谷では、標高約1,000mを超えるあたりから山頂近くにかけてブナ林が見られます。

    高木層は、ブナやミズナラ、ヒメシャラ、ミズメ、オオイタヤメイゲツなどの落葉広葉樹に、標高の低いところではモミやツガ、標高の高いところではウラジロモミ、コメツガなどの常緑針葉樹が混ざっています。

    亜寒帯林(トウヒ林)

    大台ケ原山の山頂に近づくにつれ、トウヒやコメツガ等の亜高山帯の針葉樹が優占した森林が見られるようになります。

    しかしここ数十年の間に、正木ヶ原から大台ヶ原山にかけて、樹木の立ち枯れが急速に広がっています。

    林床にコケ類が発達し、鬱蒼とした林は、現在ではほとんど見ることができなくなってしまいました。

    昭和34(1959)年に全国に多くの被害をもたらした伊勢湾台風は、大台ケ原にも大きな被害をあたえました。上層木がまばらになった林内は明るくなって乾燥し、林床にはコケにかわってミヤコザサが侵入してきました。ミヤコザサが優占する林床には、幼木がほとんど見られなくなり、倒木更新の仕組みがうまく機能しなくなってしまいました。

    さらに、ミヤコザサを餌とするニホンジカの頭数が増加しました。近年このシカが残った上層木の樹皮や幼木を食して枯死させる現象が顕著になり、森林のさらなる衰退に拍車をかけています。

    三重森林管理署では平成10年から食害に遇いやすいトウヒ、モミなどを守るため、樹木の幹の部分にネットを巻いたり、林内にシカが入れないように防護柵を設置しています。
    平成12年からは、ボランティアの方々にも参加していただき、現在もこの作業を継続しています。

    正木嶺 シカ食害 ニホンジカ 大台ヶ原ボランティア 
    正木ヶ原から正木嶺にかけて広がる立ち枯れの林。  ニホンジカによる樹皮の食害。  ニホンジカの親子。  樹木にネットを巻き付けるボランティア作業。

    動物

    哺乳類

    ツキノワグマやニホンカモシカ、ニホンジカ、イノシシ、ニホンザルなどが生息しています。ニホンカモシカは特別天然記念物に指定されています。ニホンジカは大杉谷から大台ケ原にかけて多く生息しており、頻繁に見かけますが、樹木の皮を食害することが問題となっています。

    鳥類

    大杉谷は地形が急峻で標高差もあることから、多様な環境に多くの種類の鳥類が生息しています。ルリビタキ、ヒガラ、ウグイス、シジュウカラなどの鳴き声を確認することができます。

    魚類

    アマゴ、アブラハヤ、カジカなどが生息しています。

    両生類・爬虫類

    両生類では、三重県の天然記念物に指定されているオオダイガハラサンショウウオが生息しています。オオダイガハラサンショウウオは、全長16cm~20cmになるサンショウウオ科最大のものです。

    爬虫類ではマムシが多く、ほかにヤマカガシ、ジムグリなどが見られます。

    ニホンカモシカ オオダイガハラサンショウウオ    
    ニホンカモシカ オオダイガハラサンショウウオ    

     

    大杉谷の自然と人間の歴史

    御杣山の時代

    かつて大杉谷からは、伊勢神宮の遷宮用の造営材が伐り出されていました。

    伊勢神宮の式年遷宮は、第1回の690年より約1300年にわたって行われてきている伝統的な神事で、20年ごとに神宮すべての建物を新しく造り替え、ご神体が移されます。

    この式年遷宮には多くの大径の木材が必要となります。この木材を供給する山を「御杣山」と呼び、古くは伊勢神宮に隣接する山より伐り出されていましたが、遷宮が重なるにつれ資源は枯渇し、より奥山へと資源をもとめるようになりました。

    大杉谷が御杣山に定められ、最初に材が伐出されたのは、第34回の1629年で、以降何度か伐採が行われた記録があります。しかし、資源の枯渇と急峻な地形による伐出の困難さから、1789年に第51回遷宮の御杣山と定められたのを最後に大杉谷が御杣山に定められることはなく、木曽を御杣山としてきました。

    以来、大杉谷は伊勢神宮と深い関係をもつ山林として特別の保護のもとにおかれ、長らくほとんど人手の入らない原生的な森林となって残されてきました。

    御料林から森林生態系保護地域へ

    明治維新以後、大杉谷は官有地となり、明治23年には皇室の財産を管理する宮内省御料局(大正13年以降帝室林野局)の管理の下に置かれました。明治27年には、奈良県川上村の篤林家土倉庄三郎に林木の一部が払い下げられ、これを機会に現在「土倉古道」として残る道や大台ケ原に至る登山道が開かれました。

    昭和6年、木材を運び出すための森林軌道などの大掛かりな工事が始まりました。

    昭和8年には不動谷製品事業所が開かれ、大杉谷の森林の積極的な管理経営が始まりました。昭和22年の林政統一により、大杉谷は宮内省所管の御料林から農林省所管の国有林となりました。これ以後大台林道が開通した昭和30年代をピークとして、不動谷や大和谷を中心に伐採と造林が行われましたが、一方、大台ケ原の北東側に位置する大杉谷国有林のうち約1,400haを原生的な天然林としてその保護を図ってきました。そして、平成3年には大杉谷森林生態系保護地域に指定し、現在に至っています。

    御料林の石標

    かつての御料林時代の名残。

    「宮」の字が入った石標。

    お問合せ先

     

    三重森林管理署
    ダイヤルイン:050-3160-6110