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関東森林管理局

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    利根沼田森林管理署長が語る

    1 はじめに

      利根沼田森林管理署(以下、「沼田署」という。)が管轄する群馬県沼田市及び利根郡の川場村、昭和村、片品村、みなかみ町は、日本を代表する観光地である尾瀬国立公園や上信越高原国立公園など自然豊かな環境に囲まれており、登山愛好家には垂涎の的であり日本百名山でもある谷川岳、上州武尊山(じょうしゅうほたかやま)、日光白根山、皇海山(すかいさん)、至仏山などの山々に囲まれています。

      また、りんご、ぶどう、ブルーベリーなどの果物、多くの野菜の産地でもあり、スキー場、温泉やゴルフ場も沢山あって飽きることがありません。

      本稿は、現在NHKの大河ドラマ「真田丸」が放映中で注目を集めているここ沼田で、約2年10ヶ月間署長として、そして私人として過ごした中で、感じたこと、行動したこと、地域の紹介などを「雑記」として思いつくまま書き綴ったものです。 

    2 豪雪、山火事、大雨

      平成26年1月1日付けで沼田署勤務の辞令をいただいき、1月7日に赴任しました。比較的暖かい東京から沼田駅に到着して列車から降りると、とにかく寒いのです。しかし、沼田署に向かって歩き出すと寒いと思ったのは一時で、いきなり急な凍り付いた斜面を革靴で登ることになりました。そうです、沼田市は河岸段丘の町として教科書にも紹介されるほど有名なのです。沼田署は上段にあるため約70mの標高差を登ることになり、急な坂で汗が吹き出しました。これが有名な「滝坂」だと後で知ることになりました。最近はこの坂を往復することにより、足腰の鍛錬をしています。

      着任早々の2月に記録的な大雪に見舞われました。市内は1mの大雪で車は雪だるま状態です。道路には動けなくなった車があちこちに放置されていました。車庫や農業用ハウスの被害も甚大で、国道17号線、県道など除雪が進まず通勤できない職員が続出しました。沼田署の駐車場が広かったため、市役所から除雪置き場として使わせて欲しいとの依頼があり快諾しました。これも小さな地域貢献でしょう。

      5月3日には山火事が発生しました。ゴールデンウィークの休みで、まさに、実家に到着した時に連絡が届き、とんぼ帰りで沼田署に戻ることになりました。

      平成27年7月には、みなかみ町が局地的なゲリラ豪雨に襲われました。谷川岳に向かう国道291号線が一部土砂崩壊により寸断され、車数台が土砂に飲み込まれるなど、マスコミでも大きく取り上げられました。被害状況を空から確認するためヘリコプターによる現地調査を県、町の担当者と行いました。これが私にとってヘリコプターに乗る初めての経験となりました。被害を受けた箇所は、今年度の治山事業等として復旧工事を行っています。

    3 署長としての対外的な業務

    左端が筆者(職員と登頂)
    左端が筆者(職員と登頂)

      沼田署は1市1町3村の国有林約10万haを管轄しており、管内面積の55%、森林面積の64%が国有林のため、国有林の利活用や様々な案件が発生します。

      そのため、様々な地域の行事に誘われるなど、地域との繋がりが深く、土日が潰れるのは嬉しい悲鳴です。

      寒い利根沼田地方に待ち遠しい春が訪れると、各種総会などがあり、その後、多くの夏山開きに参加の要請があります。

      谷川岳の山開き式は早朝4時から行われます。この日はJRの夜行列車が上野駅から土合駅まで出るため、大勢の登山者が訪れます。これに併せて、5時からロープウェイが運行します。私も登山にチャレンジし、天候にも恵まれ何とか登頂しましたが、かなりハードでした。

      また、利根沼田地域の中央に位置する武尊山(ほたかやま2,158m)は所管する3町村でそれぞれ山開き式が行われるので3回出席します。その他、日光白根山、大峰山、雨乞山、吹割の滝などの安全祈願祭に参加します。

      レンゲツツジとジンギスカン。ラベンダーとニッコウキスゲそしてユリ園。シラネアオイの保存などそれぞれの場所で、各スキー場が工夫を凝らして夏山への集客に努力されています。

    玉原ラベンダーパーク(妻と娘と)
    玉原ラベンダーパーク(妻と娘と)

      8月3、4、5日の沼田天狗祭りで沼田の短い夏が終わります。市街地は標高430mほどですが意外と涼しいのです。夏3回とうとうエアコンなしで過ごすことができました。

      9月になると沼田市の花火大会があり目の前で打ち上がる創作花火を見ることができました。もう、夜は寒いのです。

      みなかみ町と新潟県を結ぶ国道291号線(清水街道)の視察に参加したのは9月下旬です。町長、町議、県関係者、エコツーリズムG、他総勢30名が参加しましたが、私が一番遅くて皆に迷惑を掛けました。8時間くらいひたすら歩いた、と言うより皆についていきました。私がいなければ1時間以上は早く到着できたと思います。

      秋になり、新潟県境に位置する平標山(たいらっぴょうやま1,984m)に登ろうと考えました。実は、この山の山開き式(安全祈願祭)は、中越森林管理署の署長と隔年で挨拶することが慣例です。平成27年度は沼田署が当番でした。式典は山上で行われるので、一度下見のため登ってみようと思いました。結果については後述します。

      冬が近づくと、いよいよ各スキー場の安全祈願祭への出席です。国有林を活用したスキー場がおよそ10箇所あるので、出席するのも大変です。 

    4 山登り

    平標山山頂
    平標山山頂

      沼田の周辺は山ばかりです。これまで全国を転勤してきて、私的に登山をしようと思ったことはありません。登山の魅力が分からなかったことに加え、苦行にも等しい登山を自ら進んでやることなど思いもよらなかったのです。

      しかし、沼田署勤務となり、登山は業務上必要に迫られることになりました。前述した平標山の山開き式がきっかけとなり、体力作りに励まざるを得なくなりました。小手調べに三国山(1,636m)に登ることにしました。学生時代は野球部で鍛えたものの、あれから35年以上が経過し、体重も20kg以上増えていました。非常に苦しい山登りでしたが、その苦しさを忘れさせるほどの紅葉の美しさと山で出会う登山者との触れあい、加えて多くの年長者が登山を楽しんでいる姿に対して、登山の良さを見直しました。

      1週間後、いよいよ覚悟を決めて平標山にアタックしました。厳しい松手山コースを選択したので足はパンパンでした。登頂した瞬間に、涙が出そうになるほど感動した自分がそこにいることを今でも良く覚えています。平成26年10月26日のことでした。

      そして、沼田署で勤務している間に一度は登る決意をしていた武尊山に登る前のトレーニングとして、今年5月に再度三国山に登ってみました。2年前の苦しさを覚えていましたが、意外と楽に山頂に到達し「あれ?もう着いたのか。」と感じました。体力が残っていたので大源太山(1,764m)まで足を伸ばすことができたのです。

      武尊山には6月4日早朝からチャレンジし、10時間15分で制覇しました。マイペースでゆっくり登り、下りは岐阜県から来たという人と一緒に話をしながら下りました。彼は、百名山の全てを制覇すると言っており、武尊山が78座目とのことでした。すごい人がいるものですね。 

      ここで情報を一つお知らせします。それは今年度第3回目の上州武尊山スカイビュー・ウルトラトレイルです。武尊山を中心として、3町村にまたがる約120km、累積標高差8000m以上を走るというものです。優勝者はなんと15時間余で走りきるのです。120kmを、しかもきつい登り下りがある山道です。人間離れした超人と言っても良いでしょう。

      超人のことはさておき、凡人以下の私の次の狙いは、関東以北最高峰の日光白根山と尾瀬の至仏山です。本稿が掲載される頃には、登頂していることを願っています。

    武尊山山頂
    武尊山山頂
    最近登った鹿俣山(少し痩せたかも)
    最近登った鹿俣山(少し痩せたかも)

    5 沼田署の主な業務内容

      沼田署が管轄する10万haの国有林の約30%が人工林です。その多くが本格的な利用時期を迎えており、年間約2万m3の丸太の生産とおよそ5万m3の立木の販売を行い、地域に供給するとともに、地域の安全、安心の確保のために治山事業を行っています。

    高性能機械による木材生産
    高性能機械による木材の生産
    治山事業
    治山事業

      また、沼田署の特徴として首都圏から高速道路や新幹線でのアクセスが良いので、多くの団体等との間で「ふれあいの森」、「社会貢献の森」などの協定を締結しており、随時多くの方が国有林を活用して、森作りや教育の場としての活動を行っています。 

      当署独自または関係機関と連携した取組も行っています。(1)夏休み森の工作、(2)夏休み水のふるさと体験、(3)玉原東急親子自然観察会などです。これらのイベントには職員も積極的に参加して、山と森林の恵みや木の温もりなどを参加者に伝えています。本年度から国民の祝日となった「山の日」の8月11日には、地域の関係団体とともに「環境と森と木のまつり」に参加しました。

    「夏休み森の工作」の風景
    「夏休み森の工作」の風景
    力作が完成
    力作が完成

    6 ニホンジカ等獣害対策

      沼田署管轄区域は、ニホンジカ、クマ等による農林業被害が深刻な地域であり、民有地、国有林問わず大きな被害を受けています。当地域面積の55%が国有林であるため、国有林の中での対策が重要であることは当然です。

      着任早々の平成26年2月、地元の猟友会長、県環境森林事務所長が沼田署に来訪され、狩猟期における国有林の協力依頼がありました。

      当時、沼田署管内では、狩猟期に署の専用林道をゲートで閉めており、狩猟者は、車で国有林内に入ることができなかったことから、カギを貸して欲しいとの御要望でした。

    ニホンジカによる食害
    ニホンジカによる食害

      猟友会にとっては豊かな猟場が得られる、沼田署にとっては森林被害が減少する、地域住民にとっても農林業被害の軽減が図られるという非常に良い話だと思いました。検討の結果、平成26年11月6日に一般社団法人群馬県猟友会沼田支部との間で協定を締結し、安全に十分配慮した中で地元猟友会にゲートのカギを貸し出すことにしました。

      地域の要望に対して、どうしたらできるのか、組織のトップがやる気になることが重要だと感じました。もちろん、やる気のある優秀な部下に恵まれたことも幸いしました。

    平成26年11月6日の調印式

    7 結びに

      これまでの36年に及ぶ勤務を振り返ると、以前は「国有林」だけを見て、事業の遂行に職員が全力を上げていれば良い時代であったかもしれませんが、近年、「地域の中での国有林の役割」を考えながら仕事をすることが重要になっていると感じています。

      個人的にも、10年ほど前に森林管理署長となって、地域の関係団体等との間で「遊々(ゆうゆう)の森」、「森林共同施業団地」の設定、「静岡大学との研究協定」の締結などを行いました。どれも、トップがやらないと言えばそれで終わったかもしれない事案ですが、やってみることが大切であり、それが地域のための国有林として貢献していくことになると感じています。

      今、沼田署管内でも、国有林、民有林ともに木材資源をいかに有効利用していけるかが大きな課題となっています。木材の販売単価の上昇がなかなか見込めない中で、高性能の林業機械を導入した伐採・搬出経費の削減や植林・保育コストの削減が重要なキーであり、国有林として率先してコストの削減に努めているところです。

      一方で、ニホンジカ等による獣害対策が林業経営にとって大きな足かせになっており、より一層、官民の枠を超えて地域全体で取り組んでいくことも課題です。

      国有林としても関係機関との連携のもと、これまでにも増した協力や対策を行う考えでありますので、皆様のご理解、ご協力をよろしくお願い申し上げます。  

    お問合せ先

    総務企画部 総務課
    担当者:広報
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