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林野庁

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第1部 第 V 章 第2節 国有林野事業の具体的取組(2)

(2)林業の成長産業化への貢献

現在、施業の集約化等による低コスト化や担い手の育成をはじめ、林業の成長産業化に向けた取組の推進が課題となっている。

このため、国有林野事業では、その組織、技術力及び資源を活用し、多様な森林整備を積極的に推進する中で、森林施業の低コスト化を進めるとともに、民有林関係者等と連携した施業の推進、施業集約化への支援、林業事業体や森林・林業技術者等の育成及び林産物の安定供給等に取り組んでいる(事例 V -8)。

事例 V -8 民有林と連携した境界の明確化




境界標の復元作業の様子

中部森林管理局では、国有林に隣接する民有林との境界明確化を図ることで、民有林における施業集約化を支援している。

岐阜森林管理署(岐阜県下呂市(げろし))では、森林経営計画の作成のため国有林との境界明確化が必要であるとの要望を踏まえ、平成28(2016)年10月に国有林と民有林の境界5.5kmにおいて、木製境界杭の腐朽等により民有林との境界が不明瞭になっている箇所の境界標の復元及び永久標(注)への改設を行った。

注:永続性のある境界標。コンクリート、プラスチック、石、金属等を用いて作成する。


(低コスト化等に向けた技術の開発・普及と民有林との連携)

国有林野事業では、事業発注を通じた施策の推進や全国における多数の事業実績の統一的な分析等が可能であることから、その特性を活かし、植栽本数や下刈り回数・方法の見直し、シカ防護対策の効率化等による林業の低コスト化等に向け、先駆的な技術等について各森林管理局が中心となり、地域の研究機関等と連携しつつ事業レベルでの試行を進めている。さらに、現地検討会等の開催による地域の林業関係者との情報交換や、地域ごとの地形条件や資源状況の違いに応じた低コストで効率的な作業システムの提案及び検証を行うなど、民有林における普及と定着に努めている(資料 V -9、事例 V -9)。

特に近年は、施工性に優れたコンテナ苗の活用による効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等を進めるとともに、植栽適期の長さ等のコンテナ苗の優位性を活かして伐採から造林までを一体的に行う「伐採と造林の一貫作業システム(*10)」の実証・普及に取り組んでいる。この結果、国有林野事業では、平成27(2015)年度には664haでコンテナ苗等を植栽し、294haで伐採と造林の一貫作業を実施した(資料 V -10)。なお、コンテナ苗の活用に当たっては、実証を通じた技術的課題の把握等を行い、我が国でのコンテナ苗の普及に向け、生産方法や使用方法の改善を支援することとしている。

また、国有林野事業では、地域における施業集約化の取組を支援し、森林施業の低コスト化に資するため、民有林と連携することで事業の効率化や低コスト化等を図ることのできる地域においては、「森林共同施業団地」を設定し、国有林と民有林を接続する路網の整備や相互利用、連携した施業の実施、国有林材と民有林材の協調出荷等に取り組んでいる。平成27(2015)年度末現在、森林共同施業団地の設定箇所数は164か所、設定面積は約38万ha(うち国有林野は約21万ha)となっている(資料 V -11、事例 V -10)。

また、近年、森林・林業分野でも活用が期待されている、操作が容易かつ安価なドローン等の小型無人航空機について、山地災害の被害状況及び事業予定の森林概況の調査等への活用・実証に取り組んでいる(事例 V -11)。


コンテナ苗の植栽面積の推移
データ(エクセル:33KB)
          森林共同施業団地の設定状況
データ(エクセル:49KB)

事例 V -9 林業の低コスト化に向けた現地検討会の展開

現地検討会の様子
現地検討会の様子

近畿中国森林管理局では、低コストで効率的な一貫作業システムの実施上重要となるコンテナ苗の、民有林における普及・定着に取り組んでいる。

平成28(2016)年10月に、同森林管理局が岡山県において、「コンテナ苗の普及に向けた現地検討会」を開催し、管内府県担当者、森林組合、種苗生産組合、研究機関等約70名が参加した。検討会では、種苗生産組合からコンテナ苗生産についての情報提供や実務的な説明があり、コンテナ苗生産の苗畑(勝田郡(かつたぐん)奈義町(なぎちょう))を視察し意見交換を行った。さらに、国立研究開発法人森林総合研究所と連携してコンテナ苗の植栽時期や下刈り作業の成長への影響等の比較調査を実施している、三光山(さんこうやま)国有林(新見市(にいみし))を視察し、同森林管理局森林技術・支援センターの職員と同研究所関西支所の研究員が、植栽したコンテナ苗の活着状況や生長量等について説明を行った。

事例 V -10 森林管理局の管轄を越えた森林共同施業団地の設定

協定調印式の様子
協定調印式の様子

三重森林管理署(三重県亀山市(かめやまし))では、所管する悟入谷(ごにゅうだに)・古野裏山(このうらやま)国有林(三重県いなべ市)と隣接する国立研究開発法人森林総合研究所森林整備センター津水源林整備事務所(三重県)、岐阜県森林公社(岐阜県)及び海津市(かいづし)大田(おおた)自治会(岐阜県)の3者と、平成28(2016)年7月に、「悟入谷・古野裏山地域森林共同施業団地」の協定を締結し、連携して路網整備や森林整備に取り組んでいくこととした。

この協定に基づき、近畿中国森林管理局の管轄である三重県の国有林から中部森林管理局の管轄である岐阜県側の民有林へ路網を整備することで、これまで架線系作業システムにより集材していた岐阜県の民有林において車両系作業システムの導入が可能となるなど、より効率的な森林整備が期待されている。

これまでも県の行政界を越えた事例はあったが、本団地設定は、三重県と岐阜県の行政界のみならず、森林管理局の管轄界を越えた初めての事例であり、今後の団地設定の可能性を広げる取組となった。

事例 V -11 国有林野事業における小型無人航空機の活用

操作の様子
操作の様子

従来、台風等による山地災害発生時においては、人による地上での被害の踏査が大半であったが、林道の損壊等により災害現場へ到達することができないことや、地上からでは被害の概況を迅速に把握することが困難であること等が課題となっていた。

そこで、九州森林管理局大隅(おおすみ)森林管理署(鹿児島県鹿屋市(かのやし))では、平成28(2016)年9月に鹿児島県南大隅町(みなみおおすみちょう)付近に上陸した台風第16号による山地災害の被害調査において、小型無人航空機を活用した。これにより、安全な場所から遠隔操作で空中撮影を行うことができ、調査を機動的かつ効率的に行うことが可能となった。

地上撮影
地上撮影
 

  空中撮影
空中撮影

(*10)伐採と造林の一貫作業システムとは、伐採から植栽までを一体的に行う作業システムのこと。詳細については、第 I 章(12-14ページ)を参照。



(林業事業体及び森林・林業技術者等の育成)

国有林野事業は、国内最大の森林を所有する事業発注者であるという特性を活かし、林業事業体への事業の発注を通じてその経営能力の向上等を促すこととしている。

具体的には、総合評価落札方式や3か年の複数年契約及び事業成績評定制度の活用等により、林業事業体の創意工夫を促進している。このほか、作業システムや路網の作設に関する現地検討会の開催により、林業事業体の能力向上や技術者の育成を支援するとともに、市町村単位での今後5年間の伐採量の公表や森林整備及び素材生産の発注情報を都道府県等と連携して公表することにより、効果的な情報発信に取り組んでいる。

また、近年、都道府県や市町村の林務担当職員数が減少傾向にある中、国有林野事業の職員は森林・林業の専門家として、地域において指導的な役割を果たすことが期待されている。このため、国有林野事業では、専門的かつ高度な知識や技術と現場経験を有する「森林総合監理士(フォレスター)」等を系統的に育成し、市町村行政に対し「市町村森林整備計画」の策定とその達成に向けた支援等を行っている。

さらに、事業の発注や研修フィールドの提供、森林管理署等と都道府県の森林総合監理士等との連携による「技術的支援等チーム」の設置等を通じた民有林の人材育成を支援するとともに、大学など林業従事者等の育成機関と連携して、森林・林業に関する技術指導に取り組んでいる(事例 V -12)。

事例 V -12 フォレスターの育成

会議で質問する参加者
会議で質問する参加者

平成25(2013)年度に制度化された森林総合監理士(フォレスター)については、地域に密着した積極的な活動が期待されている。

九州森林管理局では、平成28(2016)年11月に市町村林業担当者を交えた「フォレスター等活動推進会議」を開催した。同会議では、市町村森林整備計画策定に当たっての課題に関する情報提供及び意見交換を行うとともに、継続的専門教育の観点からフォレスター活動に必要な新しい知識や見識に関する特別講演を行った。


(林産物の安定供給)

国有林野事業では、公益重視の管理経営の下で行われる施業によって得られる木材について、持続的かつ計画的な供給に努めることとしている。国有林野事業から供給される木材は、国産材供給量の約2割を占めており、平成27(2015)年度の木材供給量は、立木によるものが前年度より46万m3増の154万m3(丸太換算)、素材(丸太)によるものが前年度より8万m3増の255万m3の計409万m3となっている。

国有林野事業からの木材の供給に当たっては、集成材・合板工場や製材工場等と協定を締結し、林業事業体の計画的な実行体制の構築に資する国有林材を安定的に供給する「システム販売(*11)」を進めている。システム販売による丸太の販売量は増加傾向で推移しており、平成27(2015)年度には丸太による販売量の62%に当たる157万m3となった(資料 V -12)。また、システム販売の実施に当たっては、民有林所有者等との連携による協調出荷に取り組むとともに、新規需要の開拓に向けて、燃料用チップ、薪等を用途とする未利用間伐材等の安定供給にも取り組んでいる。

さらに、国有林野事業については、全国的なネットワークを持ち、国産材供給量の約2割を供給し得るという特性を活かし、地域の木材需要が急激に変動した場合に、地域の需要に応える供給調整機能を発揮することが重要となっている。このため、平成25(2013)年度から、林野庁及び全国7つの森林管理局において、学識経験者のほか川上、川中及び川下関係者等から成る「国有林材供給調整検討委員会」を設置することにより、地域の木材需給を迅速かつ適確に把握し、需給に応じた国有林材の供給に取り組むこととしている。また、平成27(2015)年度からは、全国7ブロックで開催されている「需給情報連絡協議会(*12)」に各森林管理局も参画するなど、地域の木材価格や需要動向の適確な把握に努めている。

このほか、ヒバや木曽ヒノキなど民有林からの供給が期待しにくい樹種を、多様な森林を有しているという国有林野の特性を活かし、計画的に供給している。


(*11)「国有林材の安定供給システムによる販売」の略称。森林整備に伴い生産された間伐材等について、国産材需要拡大や加工・流通の合理化等に取り組む集成材・合板工場や製材工場等との協定に基づいて安定的に供給すること。

(*12)需給情報連絡協議会については、第 IV 章(149-150ページ)を参照。


お問合せ先

林政部企画課

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代表:03-3502-8111(内線6061)
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