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林野庁

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第1部 第 V 章 第2節 国有林野事業の具体的取組(1)

平成28(2016)年度の国有林野事業については、国有林野事業の一般会計化等を踏まえ平成25(2013)年12月に策定された管理経営基本計画に基づき取り組まれた。

以下では、国有林野事業の管理経営の取組を、「公益重視の管理経営の一層の推進」、「林業の成長産業化への貢献」及び「「国民の森林(もり)」としての管理経営等」の3つに分けて記述する。


(1)公益重視の管理経営の一層の推進

森林に対する国民の期待は、国土の保全や水源の涵(かん)養に加え、地球温暖化の防止、生物多様性の保全等、公益的機能の発揮を中心として多岐にわたっている(資料 V -2)。

このため、国有林野事業では、公益重視の管理経営を一層推進するとの方針の下、重視される機能に応じた管理経営を推進するとともに、民有林との一体的な整備・保全を実施し、民有林を含めた面的な機能発揮に積極的に取り組んでいる。



(ア)重視すべき機能に応じた管理経営の推進

(重視すべき機能に応じた森林の区分と整備・保全)

国有林野の管理経営に当たっては、個々の国有林野を重視すべき機能に応じて「山地災害防止タイプ」、「自然維持タイプ」、「森林空間利用タイプ」、「快適環境形成タイプ」及び「水源涵(かん)養タイプ」の5つに区分した上で、それぞれの流域の自然的特性等を勘案しつつ、これらの区分に応じて森林の整備・保全を推進することとしている(資料 V -3)。また、木材等生産機能については、これらの区分に応じた適切な施業の結果として得られる木材を、木材安定供給体制の整備等の施策の推進に寄与するよう計画的に供給することにより、その機能を発揮するものと位置付けている。

国有林野においては、伐採適期を迎えた高齢級の人工林が年々増加し、人工林の約半分が10齢級以上の森林になることから、将来的に均衡が取れた齢級構成を目指すとともに、森林生態系全般に着目し、公益的機能の向上に配慮した施業を行っていく必要があるため、長伐期化、複層林化、小面積・モザイク的配置に留意した施業、針広混交林化を促進する施業等に取り組んでいる。



(治山事業の推進)

国有林野には、公益的機能を発揮する上で重要な森林が多く存在し、平成27(2015)年度末現在で国有林野面積の90%に当たる685万haが水源かん養保安林や土砂流出防備保安林等の保安林に指定されている。国有林野事業では、国民の安心・安全を確保するため、自然環境保全への配慮やコストの縮減を図りながら、治山事業による荒廃地の整備や災害からの復旧、保安林の整備等を計画的に進めている。

国有林内では、集中豪雨や台風等により被災した山地の復旧整備、機能の低下した森林の整備等を推進する「国有林直轄治山事業」を行っている。

民有林内でも、大規模な山腹崩壊や地すべり等の復旧に高度な技術が必要となる箇所等では、地方公共団体からの要請を受けて、「民有林直轄治山事業」と「直轄地すべり防止事業」を行っており、平成28(2016)年度においては、15県21地区の民有林でこれらの事業を実施した。

また、国有林と民有林との間での事業の調整や情報の共有を図るため、各都道府県を単位とした「治山事業連絡調整会議」を定期的に開催するとともに、国有林と民有林の治山事業実施箇所が近接している地域においては、流域保全の観点から一体的な全体計画を作成し、国有林と民有林が連携して荒廃地の復旧整備を行っている。

さらに、大規模な山地災害が発生した際には、国有林野内の被害状況を速やかに調査する一方で、被災した地方公共団体に対する調査職員の派遣や、ヘリコプターによる広域的な被害状況の調査等、早期復旧に向けた迅速な対応に加え、地域住民の安全・安心の確保のための取組を通して、地域への協力・支援に取り組んでいる(事例 V -1)。

事例 V -1 国有林林道を緊急避難路として活用

平成28(2016)年8月30日に東北地方太平洋側から上陸した台風第10号は、その通過に伴い北海道地方に豪雨をもたらした。

この大雨により31日午前2時頃に日高(ひだか)地方を流れる沙流川(さるがわ)が増水し、日高町(ひだかちょう)中心部につながる国道274号線の橋梁(りょう)(千呂露橋(ちろろばし))が崩落し、同町千栄(ちさか)集落が孤立する事態となった。

この事態を受け、北海道森林管理局日高北部森林管理署(北海道沙流郡日高町)は同日未明から同町と調整し、地区住民等の安全を確保するため、国道274号線の迂回路として国有林野内のホロナイ林道及び作業道ホロナイ線を、一般車両でも通行できるよう緊急に整備した。この結果、31日午前6時半頃には緊急避難路が開通し、同日午後3時までに住民46世帯75人の避難が完了した。その後9月13日の仮設橋梁(りょう)の開通まで、これらの林道及び作業道は、生活道路等として地域に活用された。

コラム 火山噴火など山地災害への対策

御嶽山のふもとに設置された監視カメラと気象観測装置
御嶽山のふもとに設置された
監視カメラと気象観測装置
梨子沢に新たに設置された治山ダム
梨子沢に新たに設置された治山ダム

平成26(2014)年7月に台風第8号及び梅雨前線の影響により発生した長野県木曽郡(きそぐん)南木曽町(なぎそまち)梨子沢(なしざわ)等の土石流等の山地災害と、同9月に発生した御嶽山(おんたけさん)の噴火による火山災害は、木曽谷(きそだに)地域に甚大な被害をもたらした。

中部森林管理局では、速やかに被災状況を把握し、地元の地方公共団体に情報提供したほか、二次災害を防止するため、土石流発生のおそれの高い現場付近に監視カメラ、雨量計、サイレン等を設置するとともに、新たな治山ダムの設置及び破損した治山ダムの補修を行うなど、様々な災害対策を実施した。

これらの取組が二次災害の防止や地域住民の安全・安心の確保に大きく貢献したとして評価され、中部森林管理局計画保全部治山課、木曽森林管理署、同署南木曽支署は、平成29(2017)年2月に平成28年度人事院総裁賞(注)を受賞した。

注:多年にわたる不断の努力や国民生活の向上への顕著な功績等により、公務の信頼を高めることに寄与したと認められる国家公務員に対し贈られる賞。


(路網整備の推進)

国有林野事業では、機能類型に応じた適切な森林の整備・保全や林産物の供給等を効率的に行うため、林道(林業専用道を含む。以下同じ。)及び森林作業道を、それぞれの役割や自然条件、作業システム等に応じて組み合わせた路網整備を進めている。このうち、基幹的な役割を果たす林道については、平成27(2015)年度末における路線数は13,227路線、総延長は45,402kmとなっている。

路網の整備に当たっては、地形に沿った路線線形にすることで切土・盛土等の土工量や構造物の設置数を必要最小限に抑えるとともに、現地で発生する木材や土石を土木資材として活用することにより、コスト縮減に努めている。また、橋梁(りょう)等の施設について、長寿命化を図るため、点検、補修等に関する計画の策定を進めている。

さらに、国有林と民有林が近接する地域においては、民有林と連携して計画的かつ効率的な路網整備を行っている(事例 V -2)。

事例 V -2 民有林と連携した路網の整備

森林整備推進協定の区域における路網の整備状況
森林整備推進協定の区域における
路網の整備状況

九州森林管理局長崎森林管理署(長崎県諫早市(いさはやし))では、五島(ごとう)森林組合及び五島市との間で「森林整備推進協定」(区域面積941ha)を平成27(2015)年3月に締結し、国有林と民有林が連携した間伐等の施業の実施や効率的な路網整備を推進している。

この協定に基づき、国有林と民有林を一体とした延長8.1kmの林業専用道を整備することとなり、民有林に係る部分については、平成27(2015)年度に着工した。国有林に係る部分については、平成29(2017)年度の着工に向けて、平成28(2016)年度に測量設計に着手した。

また、同協定に参画する組織と定期的に運営会議を開催し、情報の交換及び共有を図っており、このような取組により、効率的な森林施業が推進され、五島地域の森林・林業の活性化が期待される。

民有林施工の林業専用道
民有林施工の林業専用道
          運営会議の様子
運営会議の様子

(イ)地球温暖化対策の推進

(森林吸収源対策と木材利用の推進)

国有林野事業では、森林吸収源対策を推進する観点から、引き続き間伐の実施に取り組むとともに、保安林等に指定されている天然生林の適切な保全・管理に取り組んでいる。平成27(2015)年度には、全国の国有林野で約11万haの間伐を実施した(資料 V -4)。

また、今後、人工林の高齢級化に伴う二酸化炭素の吸収能力の低下や、資源の充実に伴う伐採面積の増加が見込まれる中、将来にわたる二酸化炭素の吸収作用の保全及び強化を図る必要があることから、効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等に努めながら、主伐後の確実な再造林に率先して取り組むこととしている。平成27(2015)年度の人工造林面積は、全国の国有林野で約0.6万haとなっている。

さらに、間伐材等の木材利用の促進は、間伐等の森林整備の推進に加え、木材による炭素の貯蔵にも貢献することから、森林管理署等の庁舎の建替えについては、原則として木造建築物として整備するとともに、林道施設や治山施設の森林土木工事等においても、間伐材等を資材として積極的に利用している。平成27(2015)年度には、林道施設で約0.7万m3、治山施設で約9.0万m3の木材・木製品を使用した(事例 V -3)。

事例 V -3 治山施設における木材利用の推進

谷止工
谷止工
谷止工
三面挽き加工した丸太材

中部森林管理局では、森林土木工事における木材・木製品の積極的な利用を推進している。

岐阜森林管理署(岐阜県下呂市(げろし))管内では、荒廃渓流において堆積した不安定土砂の流出を防止し復旧を図る谷止工(たにどめこう)の施工において、残存型枠(かたわく)に国産材33m3 を使用した。残存型枠(かたわく)には、三面挽き加工した丸太材を使用することにより、型枠(かたわく)組立時に部材同士の隙間がなくなり施工性が向上するとともに、周辺景観との調和が図られた。


(ウ)生物多様性の保全

(国有林野における生物多様性の保全に向けた取組)

国有林野事業では、森林における生物多様性の保全を図るため、「保護林」や「緑の回廊」の設定、モニタリング調査の実施、渓流等と一体となった森林の連続性の確保による森林生態系ネットワークの形成に努めている。これらの取組は、平成24(2012)年9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」にも生物多様性の保全と持続的な利用を実現するための具体的施策として位置付けられている。

また、国有林野事業における生物多様性の保全と持続的な利用を推進するため、生物多様性を定量的に評価する仕組みの検討を進めている(事例 V -4)。

各森林管理局の森林生態系保全センターや森林ふれあい推進センター等では、地域の関係者等との協働・連携による森林生態系の保全・管理や自然再生、希少な野生生物の保護等の取組を進めている。また、世界自然遺産(*2)等のように、来訪者の集中により植生の荒廃等が懸念される国有林野においては、「グリーン・サポート・スタッフ(森林保護員)」による巡視やマナーの啓発活動を行い、貴重な森林生態系の保全・管理に取り組んでいる。

事例 V -4 国有林野事業における生物多様性を定量的に評価する手法の検証・開発

生物多様性保全に対する関心や期待の高まりの中、国有林では、国有林野における生物多様性の状況を定量的に評価する仕組みを構築するため、定量化手法の検証・開発に取り組んできた。

平成27(2015)年度には、国有林の森林調査簿や森林生態系多様性基礎調査データ等から生物多様性指標(y)を算出し、過去の異なる2つの時点の数値を比較して変化傾向をみることで、継続して生物多様性の状況を把握することが可能となり、次期森林計画での検討に活用できるよう整備を行った。このため、今後は、森林施業の影響を把握し、データを蓄積していくことで、各森林計画区での生物多様性の変化傾向を捉えて、国有林野における生物多様性保全の取組の推進に活用することとしている。


(*2)現在、我が国の世界自然遺産は、「知床」(北海道)、「白神山地」(青森県及び秋田県)、「小笠原諸島」(東京都)及び「屋久島」(鹿児島県)の4地域となっている。



(保護林の設定)

国有林野事業では、世界自然遺産をはじめとする原生的な森林生態系や、希少な野生生物の生育・生息の場となっている生物多様性保全の核となる森林等を「保護林」に設定している(資料 V -5)。平成27(2015)年4月現在、約96万8千haが設定されている保護林では、森林の厳格な保護・管理を行うとともに、森林や野生生物等の状況変化に関する定期的なモニタリング調査を実施して、森林生態系の保護・管理や区域の見直し等に役立てている。

「保護林」と「緑の回廊」の位置図

(保護林制度の見直し)

国有林野における保護林制度は、大正4(1915)年に学術研究等を目的に発足し、平成27(2015)年に創設から100年を迎えた。創設以来、原生的な天然林や希少な野生生物の保護等において重要な役割を担ってきた同制度は、時代に合わせて制度の見直しを行いながら成果を上げてきたが、近年の森林の生物多様性保全に対する国民の認識の高まりや学術的な知見の蓄積を踏まえ、平成27(2015)年9月にその改正を行った(*3)(資料 V -6)。

この改正では、森林生態系や個体群の持続性に着目した分かりやすく効果的な保護林区分を導入し、これまで7種類であった保護林を3種類に再編したほか、自立的復元力を失った森林を潜在的自然植生を基本とした生物群集へ誘導する「復元」の考え方を導入するとともに、保護林管理委員会への管理の一元化による簡素で効率的な管理体制の構築等を行った。

見直しに伴い、平成27(2015)年度に「木曽生物群集保護林」を長野県及び岐阜県の木曽地方に新たに設定するなど、保護林の設定・変更等を行った。

保護林区分の見直し

(*3)保護林制度の改正の概要については、「平成27年度森林及び林業の動向」の174ページを参照。



(緑の回廊の設定)

国有林野事業では、野生生物の生育・生息地を結ぶ移動経路を確保することにより、個体群の交流を促進し、種の保全や遺伝子多様性を確保することを目的として、民有林関係者とも連携しつつ、保護林を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」を設定している。平成27(2015)年度末現在、国有林野内における緑の回廊の設定箇所数は24か所、設定面積は58.3万haであり、国有林野面積の8%を占めている(資料 V -5)。

緑の回廊では、猛禽(きん)類の採餌環境や生息環境の改善を図るためのうっ閉した林分の伐開、人工林の中に芽生えた広葉樹の積極的な保残など、野生生物の生育・生息環境に配慮した施業を行っている。また、森林の状態と野生生物の生育・生息実態に関するモニタリング調査を実施し、保全・管理に反映している。


(世界遺産等における森林の保護・管理)

世界遺産一覧表に記載された我が国の世界自然遺産は、その陸域のほぼ全域(95%)が国有林野である(資料 V -7)。国有林野事業では、遺産区域内の国有林野のほとんどを世界自然遺産の保護担保措置となっている「森林生態系保護地域」(保護林の一種)に設定し、厳格な保護・管理に努めている。また、地元の関係者と連携しながら、希少な野生生物の保護や外来種等の駆除による固有の森林生態系の修復、利用ルールの導入や普及啓発等の保全対策に取り組んでいる。世界自然遺産の国内候補地である「奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島(おきなわじま)北部及び西表島(いりおもてじま)」(鹿児島県及び沖縄県)の国有林野については、平成27(2015)年度に西表島森林生態系保護地域を拡充し、世界自然遺産登録に向けた保護担保措置の強化を行うなど、貴重な森林生態系の保護・管理対策に取り組んでいる。

世界自然遺産の「小笠原(おがさわら)諸島」(東京都)が、世界遺産一覧表への記載が決定されてから平成28(2016)年で5周年を迎えたことを踏まえ、関東森林管理局では、関係機関と連携して記念シンポジウムの開催に取り組んだ(*4)。

一方、世界文化遺産についても、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」(山梨県及び静岡県)など、その構成資産等に国有林野が含まれるものが少なくない。国有林野事業では、これらの国有林野についても厳格な保護・管理や森林景観等に配慮した管理経営を行っている。

また、「世界文化遺産貢献の森林(もり)」として、京都市内や奈良盆地、紀伊(きい)山地及び広島の宮島(みやじま)における約4,600haの国有林野を設定し、文化財修復資材の供給、景観の保全、檜皮(ひわだ)採取技術者養成フィールドの提供、森林と木造文化財の関わりに関する学習の場の提供等に取り組んでいる。

また、「ユネスコエコパーク(*5)」については、「綾(あや)」(宮崎県)、「只見(ただみ)」(福島県)及び「南アルプス」(山梨県、長野県及び静岡県)では、その核心地域(*6)及び緩衝地域(*7)に所在する国有林野を「森林生態系保護地域」等に設定しており、厳格な保護・管理を行っている。その他のユネスコエコパーク、同推薦地域である「祖母(そぼ)・傾(かたむき)・大崩(おおくえ)」(大分県及び宮崎県)、「みなかみ」(群馬県及び新潟県)に所在する国有林野でも保護林や緑の回廊を設定するなどしており、厳格な保護・管理や野生生物の生育・生息環境に配慮した施業等を行っている。


(*4)シンポジウムについて詳しくは、第 II 章(65ページ)を参照。

(*5)ユネスコの「生物圏保存地域」の国内呼称で、1976年に、ユネスコの自然科学セクターの「ユネスコ人間と生物圏計画」における一事業として開始された。生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的としている。

(*6)厳格に保護され、長期的に保存されている地域。

(*7)核心地域を保護するための緩衝的な地域。



(希少な野生生物の保護と鳥獣被害対策)

国有林野事業では、国有林野内を生育・生息の場とする希少な野生生物の保護を図るため、野生生物の生育・生息状況の把握、生育・生息環境の維持及び改善等に取り組んでいる(事例 V -5)。一方、近年、シカによる森林植生への食害やクマによる樹木の剥皮(はくひ)等の、野生鳥獣による森林被害が深刻化しており、希少な高山植物など、他の生物や生態系への脅威ともなっている。

このため、国有林野事業では、野生鳥獣との共生を可能とする地域づくりに向け、関係者等と連携しながら効果的な手法の実証に取り組んでいる。また、併せて防護柵の設置等による被害の防除、生息又は生息環境の保全・管理、被害箇所の回復措置、捕獲による個体数管理に積極的に取り組んでいる(事例 V -6)。

事例 V -5 レブンアツモリソウの保護増殖

レブンアツモリソウ
レブンアツモリソウ

北海道の礼文島(れぶんとう)のみに生育するレブンアツモリソウは、絶滅が危惧されていることから、平成8(1996)年から農林水産省と環境省が共同で保護増殖事業(注)を実施している。礼文島最大の群生地である鉄府(てっぷ)地区30haにおいては、個体数を把握するため、無人航空機等を用いた写真判読による生育個体数推定の調査を、平成24(2012)年度から平成27(2015)年度まで実施し、生育株数を約4,300株と推定し、その結果を公表した。

また、保護増殖事業の実施に当たっては、レブンアツモリソウが自然状態で安定的に存続できる状態を長期的な目標とした上で、北海道森林管理局では、環境省北海道地方環境事務所及び礼文町(れぶんちょう)と共同で、平成28(2016)年11月に「レブンアツモリソウ保護増殖ロードマップ」を策定し、10年間の中期目標と管理計画を定め、より効果的に事業を展開することとした。

注:「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成4年法律第75号)第46条の規定に基づく国内希少野生動植物種の保存のための事業。

事例 V -6 市民団体や研究機関と連携したシカ被害対策の取組

レブンアツモリソウ
首用くくりわなによる捕獲

箕面(みのお)国有林(大阪府箕面市)では、市民団体が植生保護柵の設置を、研究機関と京都大阪森林管理事務所(京都府京都市)がモニタリングを、箕面森林ふれあい推進センター(大阪府大阪市)が捕獲を担当するなど、地域で連携したシカ被害対策を推進している。

また、同国有林では、捕獲効率を高めるために静岡県の研究機関が新たに開発した「首用くくりわな」によるシカの捕獲を実施している。この「首用くくりわな」は、個体数増加への寄与の大きいメスジカをより捕獲しやすいとともに、専門的な技術を必要とせず、初心者でも簡単に設置ができるため、今後の捕獲への貢献が期待されている。

さらに、これらの取組について、市民団体が開催するフォーラムにおいて取組内容を報告するなど、情報共有にも努めている。


(自然再生の取組)

国有林野事業では、シカやクマ等の野生鳥獣、松くい虫等の病害虫や、強風や雷等の自然現象によって被害を受けた森林について、その再生及び復元に努めている。

また、地域の特性を活かした効果的な森林管理が可能となる地区においては、地域、ボランティア、NPO等と連携し、生物多様性についての現地調査や荒廃した植生回復等の森林生態系の保全等の取組を実施している(事例 V -7)。

さらに、国有林野内の優れた自然環境を保全し、希少な野生生物の保護を行うため、環境省や都道府県の環境行政関係者との連絡調整や意見交換を行うなど、関係機関と連携しながら「自然再生事業(*8)」の実施や「生態系維持回復事業計画(*9)」の策定等の自然再生に向けた取組を進めている。

事例 V -7 木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)における自然再生の取組

木曽駒ヶ岳登山道
木曽駒ヶ岳登山道
ボランティアによる植生復元作業
ボランティアによる植生復元作業

中央アルプスの木曽駒ヶ岳頂上の周辺においては、登山者による踏み荒らしや、大量の降雨、降雪等による砂礫の移動等により高山植物の植生地が荒廃していた。このため、中部森林管理局では、平成17(2005)年からボランティア等と連携しつつ植生復元作業を実施している。

植生復元作業は頂上近くの山荘付近等の登山道周辺の植生荒廃地において重点的に実施しており、これまでに植生を復元した面積は延べ2,223m2となっている。

平成28(2016)年9月にも同作業を行い、従来の植生マット敷設作業に加え、表土流出を防ぐための石組みの設置や、植生を誘導するための地表面の耕起作業を新たに実施した。


(*8)「自然再生推進法」(平成14年法律第148号)に基づき、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて、生態系の健全性を回復することを直接の目的として行う事業。

(*9)「自然公園法」(昭和32年法律第161号)に基づき、国立公園又は国定公園における生態系の維持又は回復を図るため、国又は都道府県が策定する計画。



(エ)民有林との一体的な整備・保全

(公益的機能維持増進協定の推進)

国有林野に隣接・介在する民有林の中には、森林所有者等による間伐等の施業が十分に行われず、国土の保全等の国有林野の公益的機能の発揮に悪影響を及ぼす場合や、民有林における外来樹種の繁茂が国有林野で実施する駆除の効果の確保に支障となる場合もみられる。このような民有林の整備・保全については、森林管理局長が森林所有者等と協定を締結して、国有林野事業により一体的に整備及び保全を行う「公益的機能維持増進協定制度」が、平成23(2011)年の森林法等の改正により創設され、平成25(2013)年度に開始された。

国有林野事業では、同制度の活用により、隣接・介在する民有林と一体となった間伐等の施業の実施や、世界自然遺産地域における生物多様性保全に向けた外来樹種の駆除等に向け、民有林所有者等との合意形成を進めており、平成27(2015)年度末現在で10件(240ha)の協定が締結されている(資料 V -8)。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219