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ホーム > 森林・林業白書 > 平成27年度 森林・林業白書(平成28年5月17日公表) > 平成27年度 森林・林業白書 全文(HTML版) > 第1部 第 V 章 第2節 国有林野事業の具体的取組(1)


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第1部 第 V 章 第2節 国有林野事業の具体的取組(1)


平成27(2015)年度における国有林野事業については、国有林野事業の一般会計化等を踏まえ平成25(2013)年12月に策定された「管理経営基本計画」に基づき取り組まれた。

以下では、国有林野事業の管理経営の取組を、「公益重視の管理経営の一層の推進」、「森林・林業の再生への貢献」及び「「国民の森林(もり)」としての管理経営等」の3つに分けて記述する。

(1)公益重視の管理経営の一層の推進

森林に対する国民の要請は、国土の保全や水源の涵(かん)養に加え、地球温暖化の防止、生物多様性の保全等の面で期待が高まるなど、公益的機能の発揮に重点を置きつつ更に多様化している。

このため、国有林野事業では、公益重視の管理経営を一層推進するとの方針の下、重視される機能に応じた管理経営を推進するとともに、民有林との一体的な整備・保全を実施し、民有林を含めた面的な機能発揮に積極的に取り組んでいる。

(ア)重視すべき機能に応じた管理経営の推進

(重視すべき機能に応じた森林の区分と整備・保全)

国有林野の管理経営に当たっては、個々の国有林野を重視すべき機能に応じて、「山地災害防止タイプ」、「自然維持タイプ」、「森林空間利用タイプ」、「快適環境形成タイプ」及び「水源涵(かん)養タイプ」の5つに区分した上で、それぞれの流域の自然的特性等を勘案しつつ、これらの区分に応じて森林の整備・保全を推進することとしている(資料 V -3)。また、木材等生産機能については、これらの区分に応じた適切な施業の結果として得られる木材を、木材安定供給体制の整備等の施策の推進に寄与するよう計画的に供給することにより、発揮するものと位置付けている。

国有林野においては、人工林の多くがいまだ間伐が必要な育成段階にある一方、伐採適期を迎えた高齢級の人工林が年々増加していることから、将来的に均衡が取れた齢級構成としていくとともに、森林生態系全般に着目し、公益的機能の向上に配慮した施業を行っていく必要がある。このため、長伐期化、複層林化、小面積・モザイク的配置に留意した施業、針広混交林化を促進する施業等に取り組んでいる。


(治山事業の推進)

国有林野には、公益的機能を発揮する上で重要な森林が多く存在し、平成26(2014)年度末現在で国有林野面積の90%に当たる685万haが水源かん養保安林や土砂流出防備保安林等の保安林に指定されている。国有林野事業では、国民の安心・安全を確保するため、自然環境保全への配慮やコストの縮減を図りながら、治山事業による荒廃地の復旧整備や保安林の整備を計画的に進めている。

国有林内では、集中豪雨や台風等により被災した山地の復旧整備、機能の低下した森林の整備等を推進する「国有林直轄治山事業」を行っている。

民有林内でも、大規模な山腹崩壊や地すべり等の復旧に高度な技術が必要となる箇所等では、地方公共団体からの要請を受けて、「民有林直轄治山事業」と「直轄地すべり防止事業」を行っており、平成27(2015)年度においては、15県23地区の民有林でこれらの事業を実施した。

また、民有林と国有林の間での事業の調整や情報の共有を図るため、各都道府県を単位とした「治山事業連絡調整会議」を定期的に開催している。民有林と国有林の治山事業実施箇所が近接している地域においては、流域保全の観点から一体的な全体計画を作成し、民有林と国有林が連携して荒廃地の復旧整備を行っている。

さらに、大規模な山地災害が発生した際には、国有林内の被害状況調査を実施するとともに、民有林への職員派遣やヘリコプターによる広域的な被害状況調査を実施するなど迅速な対応に取り組んでいる(事例 V -1)。

事例V-1 「平成27年9月関東・東北豪雨」被災地における関係機関と連携した被害調査

被害箇所の様子
被害箇所の様子

平成27(2015)年9月に、台風第18号等の影響で西日本から北日本にかけて広い範囲で大雨となり、特に関東地方と東北地方では記録的な大雨となったため、各地で山地災害が発生した。

このため、関東森林管理局では、災害発生直後にヘリコプターによる広域的な被害状況調査を栃木県や福島県の災害担当者と合同で実施するとともに、国立研究開発法人森林総合研究所の専門家の派遣を要請し現地調査を実施した。


(路網整備の推進)

国有林野事業では、機能類型に応じた適切な森林の整備・保全や林産物の供給等を効率的に行うため、林道(林業専用道を含む。以下同じ。)及び森林作業道について、それぞれの役割や自然条件、作業システム等に応じて組み合わせた整備を進めている。このうち、林道については、平成26(2014)年度末における路線数は13,206路線、総延長は45,265kmとなっている。

路網の整備に当たっては、地形に沿った路線線形にすることで切土盛土等の土工量や構造物の設置数を必要最小限に抑えるとともに、現地で発生する木材や土石を土木資材として活用することにより、コスト縮減に努めている。また、橋梁(りょう)等の施設について、長寿命化を図るため、点検、補修等に関する計画の策定を進めている。

国有林と民有林が近接する地域においては、民有林林道等の開設計画と調整を図り、計画的かつ効率的な路網整備を行っている(事例 V -2)。

事例V-2 民有林と連携した路網の整備

協定区域内の国有林における森林作業道の線形等の検討の様子
協定区域内の国有林における
森林作業道の線形等の検討の様子

広島北部森林管理署(広島県三次市(みよしし))では、酒造会社A社(東京都墨田区)及び国立研究開発法人森林総合研究所との間で、森林整備等を協力して進めるための基本的な事項を盛り込んだ「森林整備推進協定」(区域面積908ha)を平成27(2015)年3月に締結し、民有林と国有林の連携した間伐等の施業や効率的な路網整備を推進している。

平成27(2015)年度には、協定区域において林業専用道を2.3km開設するための調査設計や森林作業道開設の検討に着手した。これらの路網は、民有林における施業の集約化を推進しつつ効率的な森林施業に資することが期待される。また、協定区域は地域における路網整備技術の研修や普及活動の場としても活用することとしている。


(イ)地球温暖化対策の推進

(森林吸収源対策と木材利用の推進)

国有林野事業では、森林吸収源対策を推進する観点から、引き続き間伐の実施に取り組むとともに、保安林等に指定されている天然生林の適切な保全・管理に取り組んでいる。平成26(2014)年度には、全国の国有林野で約13万haの間伐を実施した(資料 V -4)。

また、今後、人工林の高齢級化に伴う二酸化炭素の吸収能力の低下や、資源の成熟に伴う伐採面積の増加が見込まれる中、将来にわたる二酸化炭素の吸収作用の保全及び強化を図る必要があることから、効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等に努めながら、主伐後の確実な再造林を推進することとしている。平成26(2014)年度の人工造林面積は、全国の国有林野で約0.4万haとなっている。

さらに、間伐材等の木材利用の促進は、間伐等の森林整備の推進のみならず、木材による炭素の貯蔵にも貢献することから、森林管理署等の庁舎の建替えに当たっては、木造建築物として整備するとともに、林道事業や治山事業の森林土木工事においても、間伐材等を資材として積極的に利用している。平成26(2014)年度には、林道事業で約0.9万m3、治山事業で約5.3万m3の木材・木製品を使用した(事例 V -3)。

事例V-3 治山事業における木材利用の推進

設置された国産材型枠用合板
設置された国産材型枠用合板

北海道森林管理局では、林道事業や治山事業において間伐材を使用したコンクリート型枠用合板の利用に積極的に取り組むこととし、平成25(2013)年度から平成26(2014)年度にかけて、道内各地6か所で、国産トドマツの間伐材を活用したコンクリート型枠用合板約210枚による試験施工を実施した。この結果、コンクリート構造物の性能に問題ないことが確認された。

このことを受け、平成27(2015)年度からは北海道森林管理局の森林土木工事(林道事業、治山事業)において間伐材を使用した型枠用合板を採用することとし、宗谷(そうや)森林管理署(北海道稚内市(わっかないし))では治山事業(コンクリート谷止工2基)においてトドマツ間伐材のコンクリート型枠用合板を268枚使用した。

今後も、間伐材を活用したコンクリート型枠用合板を積極的に使用することにより、国産材の利用及び木材需要の拡大につなげていくこととしている。


(ウ)生物多様性の保全

(国有林野における生物多様性の保全に向けた取組)

国有林野事業では、森林における生物多様性の保全を図るため、「保護林」や「緑の回廊」の設定、モニタリング調査の実施、渓流等と一体となった森林の連続性の確保による森林生態系ネットワークの形成に努めている。これらの取組は、平成24(2012)年9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」にも生物多様性の保全と持続的な利用を実現するための具体的施策として位置付けられている。各森林管理局の森林生態系保全センターや森林ふれあい推進センター等では、地域の関係者の協働・連携による森林生態系の保全・管理や自然再生、希少な野生生物の保護等の取組を進めている。また、来訪者の集中により植生の荒廃等が懸念される国有林野においては、「グリーン・サポート・スタッフ(森林保護員)」による巡視やマナーの啓発活動を行い、貴重な森林生態系の保全・管理に取り組んでいる。

(「保護林」の設定)

国有林野事業では、世界自然遺産をはじめとする原生的な森林生態系や希少な野生生物の生育・生息の場となっている森林など、生物多様性の核となる森林生態系を「保護林」に設定している。保護林では、森林の厳格な保護・管理を行うとともに、森林や野生生物等の状況変化に関するモニタリング調査を実施して、森林生態系の保護・管理や区域の見直し等に役立てている。

平成26(2014)年度には、「地峯(ぢみね)水生生物生息地保護林」を奈良県吉野郡(よしのぐん)天川村(てんかわむら)に新たに設定するなど、保護林の設定・変更等を行った。この結果、平成27(2015)年4月現在における保護林の設定面積(箇所数)は、前年から約300ha増加して96.8万ha(855か所)となり、国有林野全体の面積の13%を占めている。

(保護林制度の見直し)

国有林における保護林制度は、大正4(1915)年に学術研究等を目的に発足して以来、原生的な天然林や貴重な動植物の保護等に重要な役割を担ってきた。このような中、近年の森林の生物多様性に対する国民の認識の高まりや、学術的な知見が蓄積されてきたことを踏まえ、現在の保護林の設定状況や保全・管理状況における課題等の点検・整理を行うため、学識経験者等を構成員とする「保護林制度等に関する有識者会議」を平成26(2014)年6月から平成27(2015)年2月にかけて5回開催した。林野庁では、同会議で取りまとめられた報告を基に、平成27(2015)年9月に保護林制度の改正を行った。

この改正では、森林生態系や個体群の持続性に着目した分かりやすく効果的な保護林区分を導入し、これまで7種類であった保護林を「森林生態系保護地域」、「生物群集保護林」、「希少個体群保護林」の3種類に再編したほか、自律的復元力を失った森林を、潜在的自然植生を基本とした生物群集へ誘導する「復元」の考え方の導入、専門的な知見を活用した簡素で効率的な管理体制の構築等を行った(*3)。



(*3)174ページのコラム「保護林制度の改正の概要」を参照。



コラム 保護林制度の改正の概要

保護林区分の再構築
保護林区分の再構築

平成27(2015)年9月の保護林制度の改正では、新たな保護林区分の導入や、「復元」等の生物多様性保全手法の導入、簡素で効率的な管理体制の構築等が行われた。

保護林区分については、森林生態系や個体群の持続性に着目した分かりやすく効果的な区分とするため、これまでの7種類から、我が国の気候帯又は森林帯を代表する原生的な天然林を対象とした「森林生態系保護地域」、地域固有の生物群集を有する森林を対象とした「生物群集保護林」及び希少な野生生物の生育・生息に必要な森林を対象とした「希少個体群保護林」の3種類に整理した。

保護林の取扱いについては、生物多様性保全に関する科学的知見の進歩を踏まえ、新たな手法を導入した。「生物群集保護林」においては、自律的復元力を失った森林を対象に、長期にわたる森林施業等を専門家の科学的知見に基づく意見を踏まえ実施することを通じて、潜在的自然植生を基本とした生物群集へ誘導する「復元」を行うことができるようにした。また、「希少個体群保護林」においては、対象個体群の存続に必要な個体群の集合体(メタ個体群)を保護することを目的に、核となる森林の周辺に飛び地として存在する、遺伝的な関連のある個体群の生育・生息地等も保護林に含めて一体的に保護・管理できるようにしたほか、一時的な裸地の出現等、遷移過程における攪(かく)乱が個体群の持続に不可欠な場合には、森林施業による人為的な環境創出を行うことができるようにした。

保護林の管理体制については、既存の各種委員会を整理し、森林管理局ごとの保護林管理委員会(必要に応じて部会等を置く。)により一元化することとして効率化を図った。また、保護林のモニタリングについてもより効果的・効率的なものとするため、各保護林の状況に応じて、実施する間隔を設定できるようにした。

「特定地理等保護林」や「郷土の森」といった改正前の制度により設定されていた7種類の保護林については、今後数年間かけて有識者の意見を踏まえつつ再編を行うこととしている。

注:保護林の箇所数及び面積は、平成27(2015)年4月1日現在のデータである。


(緑の回廊の設定)

国有林野事業では、野生生物の生育・生息地を結ぶ移動経路を確保することにより、個体群の交流を促進し、種や遺伝子の多様性を保全することを目的として、必要に応じて民有林とも連携しつつ、保護林を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」を設定している。平成27(2015)年4月現在における緑の回廊の設定箇所数は24か所、設定面積は58.3万haとなり、国有林野全体の面積の8%を占めている(資料 V -5)。

緑の回廊では、猛禽(きん)類の採餌環境や生息環境の改善を図るためにうっ閉した林分を伐開したり、人工林の中に芽生えた広葉樹を積極的に保残するなど、野生生物の生育・生息環境に配慮した施業を行っている。また、森林の状態と野生生物の生育・生息実態に関するモニタリング調査を実施して、保全・管理に反映している。


(世界遺産等における森林の保全)

国有林野事業では、我が国の世界自然遺産区域内の陸域のほぼ全域(95%)を占める国有林野について、そのほとんどを世界自然遺産の保護担保措置となっている「森林生態系保護地域」(保護林の一種)に設定しており、厳格な保護・管理に努めている(資料 V -6)。また、地元関係者と連携しながら、希少な野生生物の保護や外来種等の駆除による固有の森林生態系の修復、利用ルールの導入や普及啓発等の保全対策に取り組んでいる。世界自然遺産の国内候補地である「奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島(おきなわじま)北部及び西表島(いりおもてじま)」(鹿児島県、沖縄県)の国有林野については、「森林生態系保護地域」の設定等を行っており、貴重な森林生態系の保護対策に取り組んでいる。

世界自然遺産の「知床(しれとこ)」については、世界遺産一覧表への記載が決定されてから平成27(2015)年で10周年を迎えたことから、北海道森林管理局では、関係機関と連携して記念行事の開催等に取り組んだ(事例 V -4)。

一方、世界文化遺産についても、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」(山梨県、静岡県)、「古都京都の文化財」(滋賀県、京都府)、「古都奈良の文化財」(奈良県)、「法隆寺地域の仏教建造物」(奈良県)、「紀伊山地の霊場と参詣道」(三重県、奈良県、和歌山県)及び「厳島(いつくしま)神社」(広島県)など、その構成資産や緩衝地帯に国有林野が含まれるものが少なくない。国有林野事業では、これらの国有林野についても、厳格な保護・管理や森林景観等に配慮した管理経営を行っている。

また、「世界文化遺産貢献の森林(もり)」として、京都市内や奈良盆地、紀伊山地及び広島の宮島(みやじま)における約4,600haの国有林野を設定し、文化財修復資材の供給、景観の保全、檜皮(ひわだ)採取技術者養成フィールドの提供、森林と木造文化財の関わりに関する学習の場の提供等に取り組んでいる。さらに、世界文化遺産として、平成27(2015)年7月に世界遺産一覧表に記載することが決定した「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」についても、その構成資産の一つである「橋野(はしの)鉄鉱山・高炉跡」(岩手県)内の国有林野について、地域と連携しながら自然景観の保全等に取り組んでいる。

また、「ユネスコエコパーク(*4)」については、平成24(2012)年に登録された「綾(あや)」(宮崎県)、平成26(2014)年6月に登録された「只見(ただみ)」(福島県)と「南アルプス」(山梨県、長野県、静岡県)では、その核心地域及び緩衝地域に所在する国有林野を「森林生態系保護地域」等に設定しており、厳格な保護・管理を行っている。その他のユネスコエコパークに所在する国有林野でも保護林や緑の回廊を設定するなどしており、厳格な保護・管理や野生生物の生育・生息環境に配慮した施業等を行っている(*5)。

事例 V-4 「知床(しれとこ)」が世界遺産登録から10周年

10周年記念式典の様子
10周年記念式典の様子
「エゾシカ食害防止体験」におけるエゾシカ防護ネット巻き作業体験の様子
「エゾシカ食害防止体験」における
エゾシカ防護ネット巻き作業体験の様子

「知床」は、流氷が接岸する北半球で最も低緯度の地域であり、海氷の影響による特異な生態系が見られることや、陸上の生態系においてもシマフクロウ、シレトコスミレ等多くの希少種が含まれていることが高く評価され、平成17(2005)年にユネスコ(UNESCO(注))の第29回世界遺産委員会において、世界自然遺産として世界遺産一覧表への記載が決定した。 登録から10周年となる平成27(2015)年に、北海道森林管理局は、関係機関と連携して記念式典を共催するとともに、関連行事として「エゾシカ食害防止体験」や「羅臼湖(らうすこ)自然観察会」といった取組を行った。

「知床」の世界自然遺産地域の陸域のうち94%を国有林野が占めており、全域を保護林の一種である「森林生態系保護地域」として設定し、同森林管理局が厳格に保護・管理を行っている。

注:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization(国際連合教育科学文化機関)の略。



(*4)ユネスコの「生物圏保存地域」の国内呼称で、1976年に、ユネスコの自然科学セクターの「ユネスコ人間と生物圏計画」における一事業として開始された。生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的としている。

(*5)「只見」では、雪食地形の上にブナをはじめとする落葉広葉樹林や針葉樹林等により構成されるモザイク植生が原生的な状態で広がっており、「奥会津森林生態系保護地域」や「会津山地緑の回廊」等を設定している。また、「南アルプス」では、本州中部の太平洋側における山地帯から高山帯に至る典型的な植生の垂直分布が残されており、「南アルプス南部光岳森林生態系保護地域」等を設定している。



(希少な野生生物の保護と鳥獣被害対策)

国有林野事業では、国有林野内を生育・生息の場とする希少な野生生物の保護を図るため、野生生物の生育・生息状況の把握、生育・生息環境の維持及び整備等に取り組んでいる。

一方、近年、シカによる森林植生への食害やクマによる樹木の剥皮等の、野生鳥獣による森林被害が深刻化しており、希少な高山植物など、他の生物や生態系への脅威ともなっている。

このため、各森林管理局では、野生鳥獣との共生を目指して、関係者と連携しながら、効果的な手法の実証を進めつつ、防護柵の設置等による被害の防除、生育・生息環境の保全・管理、被害箇所の回復措置等とあわせて、捕獲による個体数管理に積極的に取り組んでいる(事例 V -5、6、7)。

事例V-5 希少植物キレンゲショウマの保全

国有林内に自生するキレンゲショウマ
国有林内に自生するキレンゲショウマ

主に渓谷沿いの岩場に生育するユキノシタ科植物であるキレンゲショウマは、九州では熊本県、大分県、宮崎県でしか自生が確認されておらず、環境省版レッドリストで絶滅危惧 II 類(VU)に指定されており、絶滅の危機が増大している種とされている。

宮崎県西臼杵郡(にしうすきぐん)五ヶ瀬町(ごかせちょう)の国有林内にあるキレンゲショウマの自生地がシカの食害を受け、保全が必要な状態となったことから、宮崎北部森林管理署(宮崎県日向市(ひゅうがし))では平成27(2015)年8月に、シカの侵入を防ぐためにシカ侵入防止柵(フェンス)を設置し、キレンゲショウマの保全及び林内下層植生の回復に努めている。

事例V-6 囲いわなによるエゾシカ捕獲の取組

エゾシカを活用したジビエ料理
エゾシカを活用したジビエ料理
囲いわな内での追い込みの様子
囲いわな内での追い込みの様子

北海道根室(ねむろ)地域では、多数生息するエゾシカが農林業に深刻な被害をもたらしている。根釧(こんせん)東部森林管理署(北海道標津郡(しべつぐん)標津町(しべつちょう))では、この被害を減少させるため、根室市長節(ちょうぶし)の国有林においてエゾシカの捕獲を実施した。

捕獲に当たっては、シマフクロウ等の希少な動物の生息環境に配慮し、銃器ではなく囲いわなを使用した。実施に当たっては、エゾシカの移動経路を考慮して最も捕獲に効果的と思われる場所に囲いわなを設置するとともに、餌による誘引を行い、徐々にエゾシカの警戒心を和らげる等の工夫をしている。実施前には、地域住民の理解と協力を得るため住民説明会も行った。

平成26(2014)年度には、平成27(2015)年1月から3月までの間に合計106頭のエゾシカを捕獲した。平成27(2015)年度には、平成28(2016)年1月25日から31日までに50頭以上を捕獲しており、その後も引き続き捕獲を実施した。捕獲されたエゾシカについては、地域の資源として生体のまま地元企業に搬送し、食肉等として有効活用が図られている。

事例V-7 国有林野及び隣接する自衛隊演習場における一体的なシカ捕獲の取組

くくりわなによるシカ捕獲の様子
くくりわなによるシカ捕獲の様子
自衛隊演習場内での事前打ち合わせの様子
自衛隊演習場内での
事前打ち合わせの様子

静岡県の富士山周辺ではシカによる被害が深刻となっている。シカは行動範囲が広いことから、個体数管理を効率的に行うためには、国有林野内における対策だけでなく、地域の関係者が一体となって広域的な対策を講ずることが重要である。

このような中、平成27(2015)年度には、静岡森林管理署(静岡県静岡市)、陸上自衛隊富士学校、静岡県の3者が連携を図り、地元の御殿場市(ごてんばし)、小山町(おやまちょう)や猟友会の協力を得ながら、富士山東部地域において、国有林野及び隣接する陸上自衛隊東富士(ひがしふじ)演習場の一部を一体的に捉え、くくりわなによる試験的捕獲を実施した。自衛隊演習場内における初の試みとなる今回の取組は平成27(2015)年10月から12月にかけて実施され、シカ95頭(うち演習場内は11月から12月の間で21日間実施し、捕獲頭数は18頭)を捕獲した。

今後も、関係機関が広域的に連携しつつ、効果的なシカ個体数管理に努めていくこととしている。


(自然再生の取組)

国有林野事業では、シカやクマ等の野生鳥獣、松くい虫等の病害虫や、強風や雷等の自然現象によって被害を受けた森林について、その再生及び復元に努めている。また、地域の特性を活かした効果的な森林管理が可能となる地区においては、地域、ボランティア、NPO等と連携し、生物多様性についての現地調査や荒廃した植生回復等の森林生態系の保全等の取組を実施している。

さらに、国有林野の優れた自然環境を保全・管理するため、環境省や都道府県の環境行政関係者との連絡調整や意見交換を行い、関係機関と連携して「自然再生事業(*6)」の実施や「生態系維持回復事業計画(*7)」の策定等の自然再生に向けた取組を進めている。



(*6)「自然再生推進法」(平成14年法律第148号)に基づき、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて、生態系の健全性を回復することを直接の目的として行う事業。

(*7)「自然公園法」(昭和32年法律第161号)に基づき、国立公園又は国定公園における生態系の維持又は回復を図るため、国又は都道府県が策定する計画。



(エ)民有林との一体的な整備・保全

(公益的機能維持増進協定の推進)

国有林に隣接・介在する民有林の中には、森林所有者等による間伐等の施業が十分に行われず、国有林の発揮している公益的機能に悪影響を及ぼす場合や、民有林における外来樹種の繁茂が国有林で実施する駆除の効果の確保に支障となる場合もみられる。このような民有林の整備・保全については、平成25(2013)年度より、「森林法」に基づき森林管理局長が森林所有者等と協定を締結して、国有林野事業により国有林と一体的に行う制度(公益的機能維持増進協定制度)が開始された。

国有林野事業では、同制度の活用により、隣接・介在する民有林と一体となった間伐等の施業の実施、世界自然遺産地域における生物多様性保全に向けた外来樹種の駆除等に向け民有林所有者等との合意形成を進めており、平成26(2014)年度末現在で7件(172ha)の協定が締結されている(資料 V -7)。


お問い合わせ先

林政部企画課年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219
FAX:03-3593-9564

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