インド国ウッタラカンド州治山ワークショップに参加~治山工事実施上の留意点について講演~
【上川北部森林管理署】
平成31年2月22日(金曜日)~3月2日(土曜日)にかけて、インド国ウッタラカンド州において「治山技術のインド・ヒマラヤ地域への着実な導入」をテーマとした治山ワークショップが開催され、州職員含め約70名の方々が参加しました。
日本からは森林総合研究所森林防災研究領域治山研究室長 浅野 志穂氏、林野庁国有林野部経営企画課国有林野生態系保全室長 五関 一博氏が同じく講師として参加しました。
ワークショップでの五関氏のスピーチ
ワークショップの会場
1.ワークショップの背景と目的
インドのウッタラカンド州では、2013年3月の豪雨により大規模な洪水と土砂崩れが発生し、4,200の村落が被災、6,000人もの死者と行方不明者を出すという同国では未曾有の山地災害となりました。
ウッタラカンド州位置図(クリックすると拡大します)
そのため、国際協力機構(JICA)は、2014年4月にインド政府との間で113億9,000万円を限度とする円借款契約「ウッタラカンド州森林資源管理プロジェクト」に調印しました。本円借款では、森林伐採が急速に進むウッタラカンド州において、森林資源に生活の糧を依存する住民の生計向上を図りつつ、植林等の森林環境回復活動を支援するほか、災害からの復興および再発防止のために、被災地における治山(崩壊斜面上の土留め等)や林道等の再建・修繕を支援することを目的とされました。
しかし、災害が発生した場所を管理するウッタラカンド州森林局(UKFD)には治山技術を用いた森林復旧、防災、減災対策が求められたものの、そのための技術体系や組織体制が整備されていませんでした。そこで、インド政府から日本政府に技術協力の要請があり、ウッタラカンド州に適合した治山技術の開発、UKFD等関係機関職員の知識・能力向上等を目的とした「ウッタラカンド州山地災害対策プロジェクト」が2017年3月から2022年3月の期間でスタートすることとなりました。
本プロジェクトがスタートして約2年が経過し、プロジェクトによる治山工事の着手も間近になったことから、現状や今後想定される課題を洗い出し、その対策について共有することにより、ウッタラカンド州における治山事業が円滑に普及・推進することを目的として今回、治山ワークショップが開催される運びとなりました。
2.ワークショップの内容
本プロジェクトでは崩壊地の復旧工事を実施するモデルサイトが3箇所(ニルガード・ジャワディ・パドリ)設定されており、今回はワークショップの前段にニルガード・ジャワディの現場視察に同行し、現場の状況や施工予定の工法等について説明を受けました。
ウッタラカンド州詳細位置図(クリックすると拡大します)
「ニルガード」はリシュケシュからルドラプラヤグをつなぐ国道に面しており、乾季は涸れ沢ですが、雨季になると土砂が流出し、その都度国道が通行止になる場所のため、対策としてコンクリート床固工や鋼製谷止工、流路工等を組み合わせた工事が予定されています。
ニルガード(国道から撮影)
「ジャワディ」はルドラプラヤグの村道を巻き込んで発生した山腹崩壊地で、村道はその先にある村々と国道を接続する道路のため、対策としてのり枠工や土留工、流路工等による対策が予定されています。
ジャワディ(対岸から撮影)
インドのヒマラヤ地域は日本に近い地形・地質(インドからの研修生も日本を見て同じことを感じたらしい)で、日本の治山技術が普及すれば防災・減災対策に大いに貢献できると感じました。
今回の工事はインドで初めての治山工事ということもあり、工事関係者や監督職員(州職員)も工事に関する知識や経験がほとんどありません。ワークショップでは治山工事を実施する上で何に留意しなければいけないかを中心に講演を行ってきました。
講演をする筆者
通訳を介した講演でしたが、皆さん真剣に聞いていただき、本プロジェクトディレクターのアヌプ・マリック氏からは「非常に重要なことであり、改めて州職員やエンジニアと共有を図っていきたい」と話がありました。今後は日本の治山技術を参考に、ウッタラカンド州全体でも治山の知識や技術が普及していってほしいと思います。
「ウッタラカンド州山地災害対策プロジェクト」の詳細はこちら
https://www.jica.go.jp/project/india/005/index.html
(治山技術官 三浦)
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