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北海道森林管理局

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    日高南部地域の搬出間伐の普及に向けた取組

    日高南部地域の現状

    日高南部森林管理署は、北海道の中央南西部に位置する日高流域の新冠町、新ひだか町、浦河町、えりも町に広がる約13万ヘクタールの国有林を管理経営しています。
    日高振興局管内の民有林は約17万ヘクタールで、うち約24パーセントの約4万1千ヘクタールを人工林が占めており、その多くが利用期を迎えています。
    当署では、この豊かな森林資源を有効に活用し地域の森林・林業の振興に繋げていくために、日高振興局林務課及び森林室と連携して搬出間伐の普及推進等の様々な課題解決に取り組んでいます。

    民有林への列状間伐の普及を目指して

    当署は地域での搬出間伐の普及推進のために、より効率的な伐採搬出が可能となる列状間伐の普及を目指しており、民有林で間伐事業を実施する際の考え方などについて現状を把握するためのアンケート調査や、浦河町有林における列状間伐実施箇所の現地調査、現地検討会の実施等に取り組んでいます。

    アンケート調査による間伐等の実施状況の把握

    日高管内には、表-1のとおり4つの森林組合が約12万1千ヘクタールの森林を取り扱っており、うち約31パーセントの3万7千ヘクタールの人工林を中心に各種の施業を実施しています。


    日高管内の搬出間伐の普及に向けて、多くの民有林の事業を実施している4つの森林組合を対象に、森林の所有形態や施業に対する考え方、施業の実施状況、搬出間伐(列状間伐)を進めるうえでの施業提案書の作成や内容について現状を把握するためのアンケート調査を行いました。

    施業等を進めるにあたっては、表-2のとおり各森林組合が間伐等の施業時期についてほぼ共通した目安を設け、森林所有者に施業を提案したうえで実施していることがわかりました。


    具体的には、植栽後20年生まで各種保育作業、林齢35年生までに除伐や保育を目的とした保育間伐、35年生以上でヘクタール当たりの蓄積が30立方メートル以上を目安に搬出間伐、林齢50年生以降に主伐を実施することとなっています。
    また、収益の得られない除伐や保育間伐については、森林所有者に意向を確認して施業を実施しており、収益のある搬出間伐を提案する際には、間伐による収支等を施業提案書により具体的に示し同意を得て実施しているとのことです。
    搬出間伐は多くの場合では収益を得られるかが実施の目安であり、集約化した効率的な事業の実施は可能か、木材の販路は確保出来るのか、搬出のための路網はあるかなどの条件を満たすことが重要です。各森林組合からはこの条件を調整するのに苦労しているとの回答がそれぞれありました。

    搬出間伐を進めるにあたっての課題等についての質問では、「木材の搬出を行う路網の確保」という回答が最も多く、「搬出間伐を行う森林を中心として隣接所有者に事業の実施を呼びかけ合意形成を図ることで搬出路線の確保に努めているが、日高地域は軽種馬等の牧場が多く搬出路線が牧場に係っていると対応が難しい。」など地域性のある問題点や、「古い林道等は侵入木の処理があるためそのまま使えず苦労している。」等の路網の維持に関わる問題点が挙られており、搬出間伐のための基盤である路網の確保が大きな課題となっています。

    これまでは森林所有者が列状間伐と聞いて、「風倒被害が心配」、「良木を伐採することへの抵抗感」等の不安の払拭や森林所有者に対する列状間伐への理解促進等が必要だと考えていました。今回のアンケート調査では、「木材を搬出するための路網の確保」、「施業の集約化に向けた近隣の森林所有者との合意形成」等も重要であることがわかりました。
    これらの課題に対して、国有林の路網を活用して搬出することや、民国連携システム販売、森林整備推進協定、協調出荷・共同土場による販路の拡大など、国有林として出来ることを検討するとともに、施業を実施する事業体等との情報交換が必要と考えています。

    浦河町有林の列状間伐実施事例を調査

    民有林の現状や森林所有者が持つ列状間伐への不安を払拭するメリットを把握するため、民有林の列状間伐実施箇所の調査を行い取りまとめることとしました。
    調査地を探したところ浦河町有林に事例があり、林務担当者に相談した結果、快く承諾していただいたので林分の現状等について調査を行いました。
    調査は列状間伐の実施前後のヘクタール当たりの蓄積や平均直径、平均樹高などの林分状況や、伐採や搬出、過去の除伐時に発生した立木への損傷などについて、標準地を設定して調査を行いました。
    現地は昭和53年に植栽された41年生のトドマツ人工林で、これまでに除伐を2回実施しており、列状間伐の実施前の林分状況は、表-3のとおりヘクタール当たりの蓄積が647立方メートル、ヘクタール当たりの立木本数が1075本と下層植生もほとんど無く混み合っている状況でした。



    今回の間伐は列状の伐採と抜き伐りを組み合わせた間伐方法で実施されており、1列を列状に伐採して3列を残し、その中を抜き伐りしています。
    列状に伐採した立木は、図-1のとおり直径22センチメートルから32センチメートルの間で伐採され、伐採前後の径級がほぼ均一な結果となっています。



    伐採後の林分状況は、ヘクタール当たりの蓄積が459立方メートル、ヘクタール当たりの立木本数が775本となりました。
    樹幹長率(※1)は37パーセントで混みすぎと言えますが、間伐直後でもあるので今後の樹幹の成長により40パーセントを超えると考えられます。
    相対幹距比(※2)は20パーセントと適切な混み具合になり、形状比は70パーセントと気象害への影響も少ない状況となっていました。
    また、立木が損傷すると腐朽等による材質の劣化につながるため、損傷木調査を行い今回の伐採や集材作業による損傷と過去の除伐で発生した損傷について調査しています。
    立木への損傷は、過去に定性で実施した除伐によるものが31パーセント、今回の間伐等に係る損傷は19パーセントとなっています。
    そのうち今回の間伐における損傷は13パーセントとなっており、うち約9割が抜き切りした箇所に見られ、列状の伐採箇所での損傷は約1割とほとんど発生していない結果となりました。
    また、木材の搬出による損傷が6パーセント発生しており、その大半が搬出の際に使用する林業機械によるもので、搬出の際に立木が傷つかないよう工夫を行えばほとんど発生しないと考えられます。(図-2、写真1、写真2)




    写真1 浦河町有林31-3林小班(1伐3残)


    写真2 浦河町有林31-3林小班(残置木被害状況) 

    調査の結果、今回の箇所のように林況が均一な場合は、列状間伐でも定性間伐の伐採木と径級等が類似する結果であり、民有林関係者が列状間伐に対するイメージとして持っている「立木の良し悪しに関係なく機械的に伐採するため、主伐時には良木が少なくなっているのではないか。」といった心配はないと考えられます。

    このことは、今回調査した浦河町有林のように、2回の除伐を行っている均一な林分が多い日高管内の民有林への列状間伐の普及に役立つと考えています。
    また、過去に定性で行った除伐時の損傷31パーセントと比べ、列状間伐による立木への損傷は13パーセントと少なくなっています。
    その他にも、浦河町の林務担当者からは、伐採木の調査が比較的簡単であることや伐倒作業の時にかかり木が少ないので安全に作業できる等の前向きなご意見をいただいています。
    これらの調査結果からも、列状間伐は定性間伐より効率的に実施でき安全性や作業コスト等で有利であり、損傷による立木の材質劣化を抑えられる間伐方法であると言えます。

    ※1:樹冠長率とは、樹高に対する樹冠長の割合。(樹幹長は、樹高から枝下高を引いて求める)樹冠長率が40%以下の林木が多くなる
    と、混みすぎとみなされる。
    ※2:相対幹距比(Sr)とは、上層平均樹高(上層木の平均樹高)に対する平均個体間距離の割合。相対幹距比が17%を下回ると混みすぎとみなされる。

    列状間伐の普及に向けた現地検討会の開催

    日高振興局森林室と連携して日高南部森林管理署三石国有林及び新ひだか町三石町有林を会場に、列状間伐の普及に向けた現地検討会を開催し、自治体(新ひだか町、浦河町、様似町、えりも町)や管内の指導林家、森林組合、林業事業体などの森林・林業関係者計77名にご参加いただきました。
    この現地検討会では、浦河町有林の列状間伐実施箇所を当署職員が調査した結果、「日高地域の民有林によく見られる林況が均一な森林の場合、列状間伐と定性間伐で伐採する立木の径級は変わらない」、「列状間伐は損傷木が少なくすることができる」、「伐採作業時の安全性が高い」ことなどを紹介しました。
    また、国有林で実施したトドマツの列状間伐箇所では、作業システムと森林作業道の組み合わせなどによる効率的な伐採・搬出方法で実施した結果、「列状間伐箇所の残存木の損傷は11パーセントと低いこと」、「生産経費は立方メートル当たり5,351円だったこと」等を情報しました。(図-3、写真-3)




    写真3 国有林の列状間伐3150た林小班

    意見交換では、「列状間伐を行う場合、広葉樹をどのように取り扱うのか」、「傾斜地での作業システムはどのように考えたらよいか」等、列状間伐の実施に前向きな意見や質問が寄せられ、列状間伐への理解が深まったのではないかと思います。
    今後は作業システムや路網、風害等について現地検討会で取り上げ、引き続き列状間伐の普及に向けて取り組んでいきたいと思います。

    新ひだか町ストローブマツの取り扱いへの助言

    新ひだか町の町有林には伐期を迎えるストローブマツ人工林が約21ヘクタールあり、林務担当者から「売れないのではないか」、「主伐しても問題がないのか」など今後の施業についての相談を受けました。
    そこで、当署の職員が現地調査を実施して施業方針等の検討を行いました。
    新ひだか町有林のストローブマツ人工林は御園地区に約7ヘクタール、清瀬地区に約14ヘクタール所在しており、それぞれの地区で樹木の種類、直径、樹高、蓄積について標準地を設けて調査を行いました。
    御園地区のヘクタール当りの蓄積は521立方メートルで、標準的なストローブマツ人工林と比較して径級6.4センチメートル、樹高0.4メートル上回っており、ストローブマツの他にカンバ類やハンノキなど広葉樹小径木とカラマツの混在箇所があるものの、全体として良好に成林していました。(写真4、図-4、図-5)


    写真4 御園地区のストローブマツ林分(林齢51年)

    一方、清瀬地区はヘクタール当たりの蓄積が76立方メートルと少ない上にヘクタール当たり本数も163本と少なく、標準的なストローブマツ人工林と比較して径級0.4センチメートル、樹高4.4メートル下回っているものの、ストローブマツの他にヘクタール当たり48立方メートルのカツラやハルニレなどの広葉樹の大径材が混在している状況でした。
    新ひだか町の林務担当者は、清瀬地区のストローブマツ人工林の生立木が標準的な造林地と比較して少ない状況にあり、伐採しても販売が困難ではないかと考えているとのことでした。(写真5、図-4、図-5)


    写真5 清瀬地区のストローブマツ林分(林齢55年)





    調査の結果を踏まえたうえで、新ひだか町の林務担当者と現地において意見交換を行いました。
    当署からは、御園地区はストローブマツが平均32センチメートルと大径材が中心で林分全体の蓄積が約3540立方メートルの蓄積があること、清瀬地区はストローブマツの蓄積こそ低いものの広葉樹の大径材が点在し、林分全体の蓄積が約1712立方メートルあり販売が可能であること、また両地区とも主伐(皆伐)であるので伐採、搬出、運材等の作業が効率的に行えることなどを説明しました。
    新ひだか町の担当者からは、「日高管内にストローブマツ材の販路が少ないことなどに苦慮している。」との意見があり、当署のストローブマツ人工林の面積(約195ヘクタール)と平成6年度から平成28年度までのストローブマツに関する立木販売や素材販売の実積約113ヘクタール、9物件について情報提供を行った結果、町はこれらの情報を参考に主伐を進めて行くこととなりました。

    フォレスターとして

    日高地域の森林・林業の課題は、地域林政連絡会議や森林整備計画実行管理推進チーム会議等で地域全体で議論しながら解決に向けて取り組んでおり、当署もこれらの会議に参画して国有林の技術情報の発信や検討会の開催などの取り組みを行っています。
    これらの取り組みを行うにあたり、「民有林への技術的支援」や「低コスト作業システム普及」など署内対策チームを立ち上げて進めており、私が中心となって継続的に取り組んで行かなければならないと考えています。
    管内の民有林約4万1千ヘクタールのカラマツやトドマツは主に昭和40年代以降に造林されています。
    トドマツが7齢級から9齢級が51パーセント、カラマツが10齢級から12齢級が47パーセントと収穫期を迎えようとしていることから、主伐と再造林や間伐の大幅な増加が見込まれています。(図-6)

    (PDF : 19KB)

    地域では搬出間伐が進まない状況であり、伐採搬出コストの縮減、木材の搬出路の確保、集約化した事業によるコスト縮減などの課題に、日高振興局森林室と連携しての取り組みを進めて来ました。
    その結果、地域の皆様の理解と協力もあり、図-7のとおり徐々に列状間伐が増加してきています。



    また、取り組みを進める中で、林業従事者の後継者不足や高性能林業機械導入のための投資、安定した事業量の確保が必要など、林業事業体から様々な意見や要望が聞かれています。
    これらの声について、国有林としてできることが何かをしっかりと考え進めていきたいと思います。

    今後も、主伐期を迎え増加する伐採再造林への対応を考え、地域の効率的で低コストな森林整備の進め方と林業の機械化や低コスト作業システムの普及、安定した事業量の確保に向けた集約化などの課題への取り組みも必要と考えており、様々な情報の整理や発信はもとより、地域の皆様との情報交換や話し合いなどを通じて様々な課題の取り組みを少しでも前進させ、地域の森林・林業の振興に貢献していきたいと考えています。


    森林技術指導官 中原 朝一

    お問合せ先

    日高南部森林管理署

    ダイヤルイン:0146-42-1615

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