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北海道森林管理局

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    石狩・後志地域における適切な森林整備の推進及び低コスト化に向けた取組

    石狩・後志地域の現状

    石狩森林管理署の管轄区域は、石狩振興局及び後志総合振興局の14市町村(札幌市・江別市・千歳市・恵庭市・北広島市・石狩市・当別町・新篠津村・小樽市・積丹町・古平町・仁木町・余市町・赤井川村)と広域にわたっており、そこに所在する約21万ヘクタールの国有林を管理経営しています。
    国有林の中には、管内市町村の水源林や藻岩・円山原始林などの貴重な自然環境、野幌自然休養林や支笏湖風景林等のレクリエ-ションエリア、防風保安林など多様な森林があり、森林の持つ公益的機能の発揮が期待される地域です。
    民有林は約9万8千ヘクタールあり、その内人工林は3万7千ヘクタールで、成熟期を迎えた林分が多い現状にあり、主伐再造林を円滑に進めるため、路網の整備や伐採・造林作業の低コスト化などが課題となっています。




    民有林と国有林が一体となった効率的な森林経営の推進

    当署は地域の課題解決に向けた様々な取組の1つとして、管内における森林整備を推進するため、積丹地域森林整備推進協定と石狩市森林整備推進協定の2つの森林整備推進協定(森林共同施業団地)を締結しています。
    協定では、森林整備の方法や事業に必要な作業路網の設置など森林の維持運営に関する事項などを定めており、民有林と国有林が一体となって効率的な森林整備を推進することなどを目的として取り組みを進めています。
    今回はその中から「積丹地域森林整備推進協定」について紹介します。


    積丹地域森林整備推進協定

    協定の概要

    積丹地域森林整備推進協定は、平成20年11月に積丹町、現国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林整備センター札幌水源林整備事務所、石狩森林管理署の三者によって、北海道で初めて締結された森林整備推進協定です。
    積丹町余別地区、婦美地区及び丸山地区周辺の国有林964ヘクタールと町有林434ヘクタールが対象区域となっています。
    この協定では、協調した効率的な路網整備により国有林及び町有林の間伐等森林整備を推進することで、余別川の自然環境を守り、水源涵養機能等森林の持つ多面的機能の高度発揮を目指しています。
    年に2回、協定を締結した三者で積丹地域森林整備推進協定運営会議を実施し、意見情報交換を行いながら路網整備、間伐等の事業を進めています。


    積丹地域森林整備推進協定運営会議


    積丹岳中腹が共同施業団地(丸山地区)


    路網整備による森林施業の効率化

    協定締結以前は、森林所有者ごとに路網を作設し森林整備を行っていました。
    協定締結後は、国有林の既設路網を活用して、今まではアクセスできなかった町有林に接続する町有基幹作業道を作設し、より効率的に路網を作設することができました。
    平成20年度から平成29年度までの路網整備の実積は民有林・国有林合わせて約31,000メートルとなり、路網の相互利用などを行うことで効率的な森林整備が促進され、地域の林業活性化につながっています。


    奥の国有林作業道から町有林へ町有基幹作業道を連結


    路網を活用した間伐等の実施

    共同施業団地の設定により、平成20年度から平成29年度までに民有林・国有林合わせて面積約250ヘクタール、利用材積約9,500立方メートルの森林整備が実行されました。
    民有林及び国有林内の各土場の相互利用を行い、平成28年度に国有林で間伐した素材約2,600立方メートルを民有林の土場を活用して集積・販売するなど、これらにおける取組の協定意義を実感したところです。


    国有林における間伐実施


    地域住民の森林整備に対する理解醸成を図る取組

    町民及び道民の皆様に森林整備に関する理解を深めていただくため、毎年1回、国有林自然散策会を開催しています。
    国有林自然散策会では高性能林業機械による間伐作業の見学も行い、「初めて林業機械を見た」「林業を知っていただくため、若い人にもっと普及すべき」などのコメントをいただいています。
    林業が一般的には知られていないということを実感しているところであり、引き続き地域住民の森林整備に対する理解醸成を図る取り組みを進める必要があると考えています。
    また、本協定とは直接関係しておりませんが、共同施業団地内には積丹町とJT(日本たばこ産業株式会社)が森林整備協定を締結し、森林保全活動「JTの森積丹」区域が設定されており、JT職員・家族、町民による植樹等の森林整備活動が行われています。
    このような地域住民の森林整備に対する理解醸成を図る取組にも協力しています。


    JTの森積丹 春植樹


    伐採現場の見学(国有林自然散策会)


    森林共同施業団地のさらなる活用に向けて

    森林整備の推進については「現場が林業事業体の所在地から遠く、機械運搬経費などがかかり増しになる」、「木材工場が現場から遠く、運材経費がかかり増しになる」、「機械運送費等や運材にかかる経費の縮減のためには、ある程度の出材量が必要」、「民国共同で地域の間伐が出来ないか」など意見があり、今後は森林整備事業の共同発注や素材の協調出荷等の対策が必要ではないかと考えています。
    その他、森林の持つ多面的機能の高度発揮として、積丹地域では国有林を活用した観光事業が計画されていることから、それに向けた活用方策等の検討も行っています。
    また、本協定をきっかけとして、協定以外でも様々なところでさらなる連携に向けた動きが始まっています。
    例えば、昨今のゲリラ豪雨等の自然災害発生時には、幹線道路が寸断され積丹町の一部住民が孤立する可能性があることから、国有林の積丹林道と町道を整備して有事に備えることを議論しています。
    今後は、引き続き森林整備推進協定に基づいて森林整備を推進し森林の持つ機能の高度発揮を図りつつ、協定以外での連携もさらに深めていく必要があると感じています。




    省力化・低コスト・高効率作業システムに関する取組

    造林コストを抑制し森林経営全体のコストダウンに繋げることを目的として進めている、コンテナ苗の夏期植栽の検証等に関する取り組みを紹介します。


    コンテナ苗の夏期植栽の検証

    高性能林業機械を活用して伐採から植栽までを一貫して行う低コスト・高効率な作業システムである「一貫作業システム」をより効果的に行うため、コンテナ苗のメリットである「植栽時期を選ばない」ことを検証しました。
    具体的には、夏期の植栽について検証するため、平成27年7月にクリーンラーチ、カラマツ、アカエゾマツ、平成28年7~9月の各月にカラマツとアカエゾマツを植え付けしたところ、活着率は94~100%となり、コンテナ苗は「植栽時期を選ばない」ことが確認できました。
    一方、苗木生産者から、「生長途中の夏出荷は、苗木の規格を揃えることが難しい」、「6月は新芽が落ちやすく、新芽が落ちると当年の成長が期待できなくなることから、新芽に配慮した苗木の輸送が必要となるため6月の出荷は難しい」との意見が出ており、課題も残されています。




    地拵・下刈りの省力化・低コスト化に向けた取組

    概要

    当署では一貫作業システムによる低コスト化に加えて、地拵え・下刈りの省力化に向けた様々な取り組みを行っています。
    地拵えについては、伐採・搬出時に末木枝条の集積を行うことで地拵時の工程を省略するとともに、集積した末木枝条を木質バイオマス資源として販売して資源の有効活用に繋げています。
    下刈りについては、集積した末木枝条をチップ化して地表被覆(マルチング)を行い、植生の繁茂を抑制して下刈りを削減する効果の検証や、クリーンラーチと呼ばれる成長の早い品種のコンテナ苗の大苗(樹高の高い苗木)の植栽により、下刈りの省力化と低コスト化につなげる取組を行っています。


    集積した末木枝条


     末木枝条の集め方の改善による作業工程の向上

    立木の伐採に伴い発生する末木枝条等は、植栽前の地拵えに支障となったり、販売する際集積に要するコストがかかるため、伐採時に末木枝条を効率的に集積する方法について検討しました。
    今まで当署では、下図のとおり森林作業道を伐採帯の端に作設していましたが、伐採箇所の森林作業道の位置を中央に変えて短い距離で集積を行うことで、より効率的な末木枝条の集積が可能となりました。
    末木枝条に土が付きにくいこの方法は良質なバイオマス資材の確保に有効だと感じています。
    今後は、民有林にこの末木枝条の集積方法を普及するとともに、バイオマス発電等に関する情報についても共有していく必要があると考えています。




    マルチングの実施

    下刈り削減の取組として、伐採時に発生した末木枝条をチップ化して植生の繁茂抑制のためのマルチングを実施しています。
    平成27年に実施した箇所では、伐採により発生した末木枝条をチップ化して約20センチメートルの敷厚でマルチングしたところ、面積の約4割に実施することができました。
    約2年経過した平成29年現在でもマルチングの効果が継続しており、今後は効果が継続する期間の調査や下刈りした場合のコストとの比較検討などを行いたいと考えています。


    末木枝条のチップによるマルチング施行地と非施行地


    クリーンラーチの検証

    クリーンラーチは、カラマツとグイマツを掛け合わせて作られたグイマツ雑種F1の中でも特に成長が早く、近年注目されている優良な品種です。
    当署では、クリーンラーチのコンテナ苗の大苗(苗長:70~80センチメートル、根本径:約7.0ミリメートル)の植栽と、前述した伐採時の末木枝条の集積を合わせて行うことで、地拵えと下刈りを行わず人工林を成林させることができないか試行しました。
    平成28年10月、伐採時に末木枝条を集積した箇所にクリーンラーチコンテナ苗の大苗を植栽し、生長量等を継続調査しています。
    植付後、強風による風倒や記録的な大雪による曲がりや幹折れ等が発生しており、根付きが不十分で風や雪の被害を受けやすいことから、コンテナ苗の大苗は植栽時期を早めた方が良いことが判明したところです。


    クリーンラーチコンテナ苗の大苗


    降雪により折れたクリーンラーチ

    一方、クリーンラーチコンテナ苗の一般的な規格である1号苗(苗長25センチメートル以上、根本径4ミリメートル以上)を平成27年7月に夏期植栽した箇所は、約2年経過した平成29年10月現在で樹高が約120センチメートルに達し、下層植生をほぼ上回っていました。
    このことから、大型機械地拵えによってササ等の植生を根茎から剥ぎ取った箇所であれば、クリーンラーチの成長の早さを活かすことで、一般的な規格のコンテナ苗でも下刈りをしないで成林させることが可能であると考えられます。
    今後は、引き続きクリーンラーチの植栽箇所で生長量等の調査を行い、地拵えや下刈りのコストを縮減できる造林方法として確立したいと考えています。


    植生より生長している植栽木


    森林保護(エゾシカ対策)の推進に向けた取組

    管内では、エゾシカによる森林被害を軽減する有害鳥獣駆除を関係市町村及び地元猟友会と連携して実施するため、役割分担の協定を関係市町村と締結しており、林道の除雪とエゾシカ誘引のための餌まきを当署が行い、捕獲等を関係市町村と地元猟友会が担当しています。


    誘引により餌場に来たエゾシカ

    また、協定以外でも当署はエゾシカ対策に取り組んでおり、平成26年度からモバイルカリングの手法を用いたエゾシカの直接捕獲事業を実施しています。
    モバイルカリング実施期間の後半は、エゾシカが学習することで日中の出没が少なくなり捕獲効率が下がるため、平成28年度からは囲い罠による夜間の捕獲も併せて行っています。
    使用した囲い罠は、2時間程度で設置でき、エゾシカが餌場に来なくなった場合に移動が容易な小型囲い罠を使用しました。
    餌の置き方など多少の工夫は必要ですが、小型囲い罠内での止め刺しを行っても同じ箇所で複数回の捕獲が成功するなど一定の効果を得られたことから、小型囲い罠による夜間捕獲は有効な手法と思われ、今年度もモバイルカリングの実施に加え、小型囲い罠を使用し捕獲効率を上げようと思います。


    夜間、囲い罠内の餌を食べに来た状況


    囲い罠に捕獲されたエゾシカと捕獲されていても更に近寄るエゾシカ


    国有林フォレスターとして

    積丹地域森林整備推進協定や地拵え・下刈りの省力化・低コスト化に関するこれまでの取組を紹介させていただきましたが、この記事の投稿にあたって、間伐等森林整備の継続的推進や運送コストの問題、川下への安定供給等の課題を再認識したところです。
    積丹森林整備推進協定などの取組の中で課題があるように、市町村ごとに連携した取り組みが必要な課題があるのではないかと考えています。
    各振興局、森林室との林政連絡会議や、市町村森林整備計画実行管理チームなどを通じて皆様と手を取り合い、課題解決に向けて進めていくことが重要と考えております。
    また、コンテナ苗の夏期植栽をはじめとした低コスト・高効率作業システムに関する取組についても、試行錯誤を繰り返しながら進めてきました。
    林業が安定した持続的な生業ととして成り立つことにより、地域の雇用の創出・安定等にもつながるため、国有林フォレスターとしての活動の中で培われた経験や知識を、各市町村に還元する取組を引き続き進めて行きたいと考えております。
    その活動は地域の皆様のご理解が必要であり、一緒に考え、悩み、一歩でも前進するよう取り組んで行きたいと考えています。


    石狩森林管理署 地域林政調整官 中出 正人


    石狩森林管理署 森林技術指導官 久慈 正志

    お問合せ先

    石狩森林管理署

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