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国有林発・フォレスター活動だより

地域課題に取り組む国有林フォレスター 

北海道森林管理局では「民有林と連携した地域の課題解決に向けた取組」を推進しています。

各森林管理署・支署では民有林との連携強化や技術的支援を具体化させるため、北海道の振興局、森林室との打合せを通して地域林業の現状把握と課題の共有を行っています。

そして、その中から各森林管理署・支署ごとに地域に貢献できる課題を絞り込み、テーマを設定しています。

「国有林フォレスター」は各地域において、これらの課題解決に向けた方策の検討を中心となって進め、具体的な施策の実施に結びつくよう取り組んでいます。 

地域と連携したエゾシカ被害対策の取組

【根釧東部森林管理署

根釧東部森林管理署では、根室地域に多数生息するエゾシカによる農林業被害が増加していることから、関係機関と連携してエゾシカ被害対策に取り組んでいるのでご紹介します。

根室地域の現状

根釧東部森林管理署(以下「根釧東部署」という。)は我が国最東端に位置する森林管理署で、1市4町(根室市、別海町、中標津町、標津町、羅臼町)を管轄しています。

管轄面積は34万4千ヘクタールで、このうち約半分の16万7千ヘクタールが森林となっています。

国有林は10万6千ヘクタールと管轄面積の約3割、森林面積の約6割を占めています。

根釧東部署管内の国有林の特徴として、

  1. 知床世界自然遺産(羅臼側)
  2. 広大な格子状防風林
  3. 希少な動植物の生息地

が存在します。

 

根釧東部森林管理署の位置図

  根釧東部森林管理署位置図(緑色の箇所が国有林)

 

知床世界自然遺産に関しては、その区域のほとんどが国有林であり「知床森林生態系保護地域」という原生的な天然林の保存を目的とした保護林として保護・管理を行っています。

また、この区域は「知床国立公園」にも指定されていることから、環境省をはじめ様々な機関と連携して、登山道等の保全や動植物の保護管理などの検討を行い、地域全体で取り組んでいます。

 

格子状防風林に関しては、防風機能を損なわないよう間伐を行うなど、適切な維持管理を行っています。

また、別海町、中標津町及び標津町管内の防風林及び河畔林を合わせて、平成24年5月に3町と「別海町・中標津町・標津町の森林整備と保全にかかる協定」を締結しています。

この協定により、各町とそれぞれ共同施業団地を設定し、効率的な森林整備を目指しています。

このほか、防風林の施業方法について、根室振興局森林室と連携して市町村担当者や森林組合職員を対象とした現地検討会を実施するなど、民有林への技術的な支援に取り組んでいます。

 

希少な動植物の生息地等に関しては、知床森林生態系保護地域と同様に、保護林として設定し保護管理しています。

また、イチイが高密度に存在し成林過程や今後の植生の推移等が解明されていないイチイ純林保護林など、学術的に貴重な森林も保護林に設定されています。

しかし、根室地域の農林業に深刻な被害をもたらしているエゾシカによって、イチイ純林保護林をはじめ多くの森林被害が発生しているため、地域課題として「地域と連携したエゾシカ被害対策」に取り組んでいます。

 

羅臼岳の写真

                 森林生態系保護地域(羅臼岳)

 

根室地域におけるエゾシカの現状 

北海道で開催しているエゾシカ保護管理検討会において、道東地域におけるエゾシカの生息数は平成22年度をピークに減少傾向だと推定されていますが、根室地域におけるエゾシカ捕獲頭数は増加傾向にあり、根室地域の関係者からは、「生息数が減少しているという実感はない」、「増えているような気がする」等の意見が多く上がっています。

 

根室地域におけるエゾシカ捕獲頭数のグラフ

  根室地域におけるエゾシカの捕獲頭数(根室市提供)

 

根室地域には、野生鳥獣の捕獲が禁止されている国指定鳥獣保護区のほか、ラムサール条約湿地、北海道立自然公園、希少猛禽類の生息地保護林などが設定されており、これらのエリアでは猟銃による捕獲が困難となっています。

このため、「当該設定区域を安全地帯と判断したエゾシカが、越冬のため根室地域に移動してきている可能性がある」と推察されています。

 

エゾシカの群れの写真

          野付風連道立自然公園におけるエゾシカの群れ

 

エゾシカによる地域の被害状況

国有林の被害

イチイ純林保護林において、エゾシカの嗜好植物であるイチイの食害が、年々顕著になっていました。

樹木は写真のように樹皮の下にある形成層を大きく剥がされてしまうと枯死してしまうため、放置するとイチイが全滅する恐れがあったことから、平成18年度、平成19年度、平成23年度にイチイの幹にネットを巻き保護しました。

この作業によりイチイは保護されましたが、イチイ以外の広葉樹の食害が顕著となり、平成27年度のイチイ純林保護林内の被害調査では被害本数200本、被害材積約26.6m3の被害が確認されているため、広葉樹についても対策が必要であると考えています。

 

食害を受けて樹皮が無くなったイチイの写真

保護ネットがクマに破壊されたためエゾシカの食害を受けたイチイ

食害を受け1メートル程度の高さまで樹皮が無くなった広葉樹の写真

エゾシカに食害を受けた広葉樹(アオダモ)

 

また、森林生態系保護区域として設定している羅臼地域(知床半島)ではエゾシカの食害により本来の林床植生が大きく損なわれエゾシカが好まない植物ばかりが一面に繁茂するなど、その他の地域でも被害を受けており、環境保全のためにもエゾシカの個体数を管理していくことが必要とされています。

 

国有林以外の被害

根室地域は道内有数の酪農地帯で国有林の周辺には牧草地が広がっており、エゾシカが夜に牧草を食害しています。

被害額は以下のとおりです。

 

エゾシカによる農業被害額の棒グラフ

           エゾシカによる農業被害の推移(根室市提供)

 

根室地域ではグラフのとおり農業被害額が増加している状況です。

また、平成23年度以降に被害が急増していることから、平成22年度に始まった北海道内での大規模な捕獲事業によって他の地区から追われたエゾシカが、平成23年度以降は国立公園等の安全な越冬箇所を求めて根室地域に集中した可能性があります。

 

ラップサイレージ:刈り取った牧草を乾燥させてロール状にした後、ラッピングして発酵させたもの

 

エゾシカ対策にかかる取組内容

根室市国有林内エゾシカ対策協議会の開催

エゾシカによる牧草の食害が深刻化しているため、平成25年度に根室市から当署へ農業被害軽減のためエゾシカ対策への協力要請がありました。

この要請を受け、JA道東あさひ根室支所、北海道、根室市、猟友会のほか、環境省、猛禽類の専門家を加え、根室市国有林内エゾシカ対策協議会(以下「協議会」という。)を組織し具体的な取組について検討することとしました。

平成26年度に第1回の協議会を開催し、猟銃による捕獲が制限される地域におけるエゾシカの具体的な捕獲方法として、既に地元で実施し成果がでている囲いワナによる捕獲が提案されるとともに、囲いワナによる捕獲の効果を検証するため生息密度を把握することが必要とされました。

平成27年度においては、各機関からの取組状況報告のほか、北海道立総合研究機構から講師を招いて、エゾシカの生息密度が把握可能なライントランセクト法及び前年度からの増減が確認できるカメラトラップ法の2つの方法について紹介いただき検討していくこととしました。

 

エゾシカ対策協議会の写真

          エゾシカ対策協議会の様子

 

囲いワナによるエゾシカ捕獲

囲いワナによる捕獲が有効という協議会での検討結果に基づき、根室地域で平成18年度から囲いワナによるエゾシカ捕獲に取り組んでいる捕獲事業者を根室市から紹介いただき、囲いワナの構造や捕獲に適した場所等についてアドバイスをいただきました。

捕獲事業者が設置している囲いワナは大型で、電磁石を用いて遠隔操作により捕獲するため一定量の電源を常時確保する必要があることから、山林では設置が困難であり、設置費用も高額ですが、エゾシカを群れごと捕獲できるため捕獲効率や搬出効率が非常に高くなります。

平成26年度、捕獲事業者からのアドバイスを元に、エゾシカの搬出及び電源の確保が容易な道路脇で、大型の囲いワナが設置可能な平地があり、冬期間エゾシカが群れる場所である長節地区に、囲いワナを設置しエゾシカ捕獲を実施しました。

平成27年度は平成26年度の捕獲作業の反省を踏まえ、エゾシカの捕獲作業の効率化及びストレスを軽減するため囲いワナの囲込部の全周を50.4メートルから81メートルに広げるとともに、直接追込部等に人が入って効率的に仕分作業を実施するため、追込部及び仕分部の幅を0.9メートルから1.8メートルに拡大し、作業効率を向上させました。

 

囲いワナの模式図

      囲いワナ模式図(PDF:51KB)(クリックすると(PDF:51KB)が別ウィンドウで開きます)

 

設置した囲いワナは、電磁石でエゾシカの侵入口上部に落とし扉を吊り下げ、エゾシカの群れが全て入った時点で落とし扉を遠隔操作で落下させる仕組みのため、状況をリアルタイムで把握できるカメラが必要になります。

カメラは囲いワナの周辺にいるエゾシカも確認できる物となっており、効率的な捕獲に役立っています。

囲いワナにエゾシカを誘因するための餌としてラップサイレージを使用しており、香りを残して誘因効果を高めるため、完全に乾燥せず「一夜干し」でラッピングしたものを使用しています。

なお、地域によっては鉄分を含んだ誘引剤を用いているところもあるようですが、根室地域では使用していません。

囲いワナは捕獲を始める前の12月中旬に設置して警戒心の高いエゾシカのワナに対する警戒を解き、雪が降り積もる1月中旬頃にエゾシカの誘引状況を見計らいながら捕獲を開始し、2月末まで実施しています。

 

囲いワナ内部の写真

    囲いワナ内部の写真(誘因用のえさとなるラップサイレージとエゾシカ)

 

捕獲の成果及び課題

この囲いワナによって平成26年度は106頭、平成27年度は104頭を捕獲しました。

平成27年度は、囲いワナの改良などを行い平成26年度以上の捕獲を目標としていましたが、暖冬によって2月中旬以降は周辺の牧草地の雪解けが進み、牧草が見え始めたことから囲いワナへの誘引が困難となり、前年度とほぼ同数の捕獲結果となりました。

根室地域は積雪の少ない地域であり、積雪のある短い期間の中でいかに効率よく捕獲するかが課題と考えています。

エゾシカの移動経路については、長節湖周辺の森林から移動してくることが多く、平成26年度は鉄道(JR花咲線)側からも移動していたようです。

国道に防鹿柵ができる等の環境の変化によりエゾシカの移動経路が変わるので、エゾシカの群れの動向を常に把握しておくことが重要です。

 

エゾシカの移動の流れの図面

           エゾシカの移動の流れ

 

根室市内では当署が設置している長節地区のほかに、捕獲事業者が2箇所に囲いワナを設置しており、合計3箇所で捕獲が行われています。

捕獲事業者が、囲いワナのうち1箇所のカメラを根室市の支援により赤外線カメラに変更して夜間も捕獲を実施したところ、夜間(日没後~夜明け前)において148頭(全体の72%)を捕獲し、暖冬による悪条件の中でも平成26年度の捕獲頭数を大きく上回る結果を出しています。

当署が囲いワナに入ったエゾシカを捕獲した時間帯は夕暮れ時か明け方が多いのですが、日中エゾシカが囲いワナに全く入っておらず、捕獲できなかった日でも囲いワナ内部の餌に食跡があり夜間に侵入した形跡があることから、平成28年度以降は更なる効率的な捕獲に向けて当署も夜間捕獲の検討が必要と考えています。

 

                    エゾシカ捕獲頭数表

 

銃猟による捕獲が制限される地域における捕獲の検討

国有林内における銃猟によるエゾシカの捕獲については、希少動植物の保護林及びその周辺や、森林整備作業の都合等により制限されている区域があり、エゾシカが安全な場所として認識してたまり場となってしまうこともあることから、協議会において「制限地域においても必要があれば猟銃による有害鳥獣駆除を実施できないか。」との要望がありました。

過去に根室市落石岬で越冬地一斉捕獲を実施し、平成24年度には200頭を超える成果も得られていることから、希少動植物への影響を考慮しつつ、実施箇所、実施時期及び捕獲方法などについて関係者と調整を図ることとして検討を進めているところです。

 

平成28年度以降の取組

これまで、根釧東部署では市からの要請をふまえ協議会を組織し平成26年より囲いワナによるエゾシカの捕獲を実施して参りました。

平成28年度においても、前年度に引き続き囲いワナによるエゾシカの捕獲を実施することとしており、捕獲効率が高いとされる夜間捕獲を実施するためワナ内部の状態の確認に必要な夜間のライトアップを行い、エゾシカの誘引状況を確認する予定です。

また、囲いワナの効果を検証するため、平成28年度から北海道立総合研究機構指導のもと、これからの本格的なエゾシカの捕獲時期を前に、長節湖周辺の森林でカメラトラップ法による個体数の調査を9月から1カ月間実施しました。

※カメラトラップ法とは森林内の数カ所にセンサーカメラを設置しエゾシカが写っている画像をカウントするもので、翌年度の個体数増減を把握し保護管理に活用することを目的として実施するものです。

このほか、根室市が実施する有害鳥獣駆除に対して、必要に応じて一時的に銃猟規制を解除することなども検討したいと考えています。

今後はこれらの取組を継続しその効果を検証することで囲いワナの捕獲方法に改良を加え、その知見を囲いワナ等によるエゾシカの捕獲を実施する関係者に広げていくことで、連携して効率的に捕獲を行えたらと考えています。

また、各関係者と協力し、囲いワナを実施していない場所や実施できない場所では他の捕獲方法を実施するなど、根室地域全体で効果的に捕獲を実施できればと考えています。

 

センサーカメラの写真

センサーカメラ

センサーカメラの位置図

エゾシカ生息調査(カメラ設置箇所位置図)

 

捕獲したエゾシカの行方【参考】

捕獲したエゾシカは食肉加工施設へ運んでおり、当日処理しきれないエゾシカが出た場合は残りを養鹿場に運んでいます。

なお、仕分け時の事故及び養鹿場に移送後病気に罹患するなどで1割弱は死亡してしまうそうです。

 

捕獲したエゾシカを搬送している写真

                 搬送の様子

 

地元のエゾシカ食肉加工施設は1日18頭程度まで処理ができ、運び込まれたエゾシカは、その場ですぐ枝肉に加工して冷蔵庫に1日程度保管され、翌日各部位に切り分けパック詰めして卸売り業者に出荷されます。

囲いワナは生体捕獲なので、屠殺後すぐに解体できることから臭みが無く、商品価値が高いとされています。

ロースやモモなど加工された食肉の多くが本州の卸売業者に納入され、ジビエ料理として一流ホテルやレストランで扱われるほかインターネットによる一般者向けの販売も行われています。

このほか、犬のおもちゃ用としてエゾシカの角及び骨の活用にも取り組み始めたそうです。

なお、毛皮の活用も検討されているようですが、現状は難しいようです。

シカ肉の写真1

シカ肉の写真2

加工された鹿肉(写真提供:有限会社ユック)

 

国有林フォレスターとして

根釧東部森林管理署管内の国有林ほど地域の住民の生活に密着している森林もめずらしいのではないかと考えています。

別海町、中標津町及び標津町の3町にまたがる格子状防風林については「別海町・中標津町・標津町の森林整備と保全にかかる協定」を締結し、民有林の防風林や河畔林も含め関係者が一体となって森林を守っていくこととしました。

この協定の中で、路網の相互乗り入れを目的とした共同施業団地を設定し事業を実施してきましたが、予算上の問題で当初の計画どおりに進まないという課題が浮上し、解決する方法を検討しています。

この協定については本年度をもって終了しますが、システム販売や協調して木材を出荷するなど新たな団地化の可能性も視野に入れて各町と検討を行い、協定を更新していきたいと考えています。

また、格子状防風林で実施している森林施業は、戦後に植林してこれから更新が必要となる防風林を所有している市町村にとっての参考事例となるため、現地検討会の実施などを検討していきたいと考えています。

エゾシカ被害対策について制限地域での捕獲や個体数密度の把握等の課題を検討しつつ引き続き対応していくことはもちろんですが、地域には森林・林業に関する課題がたくさんあります。

課題解決に向けて、地域の方々と一緒に取り組んでいかなければならないと考えており、関係者間での情報共有や現地検討会の開催による新たな知識の習得等が重要だと考えておりますので、引き続きご理解とご協力をお願い致します。

 

国有林フォレスターの写真

 

国有林フォレスター    

 根釧東部森林管理署

  森林技術指導官 阿地 克美

 

 


 

根釧東部森林管理署

北海道標津郡標津町南2条西2丁目1番16号

電話:050-3160-6675

管轄区域:根室市、標津町、中標津町、別海町、羅臼町

 


 

 

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お問い合わせ先

森林整備部技術普及課
ダイヤルイン:050-3160-6285
FAX:011-622-5235

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