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国有林発・フォレスター活動だより

地域課題に取り組む国有林フォレスター 

北海道森林管理局では「民有林と連携した地域の課題解決に向けた取組」を推進しています。

各森林管理署・支署では民有林との連携強化や技術的支援を具体化させるため、北海道の振興局、森林室との打合せを通して地域林業の現状把握と課題の共有を行っています。

そして、その中から各森林管理署・支署ごとに地域に貢献できる課題を絞り込み、テーマを設定しています。

「国有林フォレスター」は各地域において、これらの課題解決に向けた方策の検討を中心となって進め、具体的な施策の実施に結びつくよう取り組んでいます。  

 

コンテナ苗による造林コストの縮減に向けた取り組み

【網走南部森林管理署】

網走南部森林管理署では、人工林の主伐や再造林の増加に伴い発生する経費の縮減を図るため、コンテナ苗を活用した造林コストの縮減に向けた取り組みを行っています。

管内の概要について

網走南部森林管理署は、北海道北東部のオホーツク海に面したオホーツク総合振興局管内の南側に位置し、東側は知床半島、南側は阿寒に接するまでの斜里町、清里町、小清水町、網走市、大空町、美幌町、津別町の1市6町にまたがる地域の国有林を管轄しています。

管内の国有林には、知床国立公園、阿寒国立公園、網走国定公園、斜里岳道立自然公園に指定されている地域があり、小清水原生花園、神の子池、小清水高原、美幌峠、知床峠、斜里岳、羅臼岳などの風光明媚な観光地も数多くあります。また、知床半島地域には、世界自然遺産にも登録されている森林も含まれており、原生的な天然林の保全など森林の公益的機能の維持増進を図るための、森林の適切な管理・経営にも努めています。

管内の森林面積は民有林を含めて約22万ヘクタールに及び、その64パーセントの約14万ヘクタールが国有林です。

多くの面積を占める森林に関係する林業や木材産業は、地域経済において重要な役割を果たしています。

 

 雪化粧した知床連山とその様子が水面に映っている写真

               知床五湖から知床連山を望む(ウトロ地区)

 

網走東部流域の現状と課題について

網走東部流域の国有林における森林資源の状況は山型の齢級構成となっており、このうち8~10齢級(林齢36年生以上50年生未満)の人工林が約5割を占め今後主伐期を迎ることから、主伐の増加に伴う再造林箇所の増加が予想されていますが、急増した場合に現状の事業体等だけで森林整備を担うことは困難ではないかとの懸念があります。                  

民有林については、市町村森林整備計画実行管理推進チーム等により造林未済地の解消に向けた対策に取り組んでいますが、主伐に伴う再造林箇所の増加等に対して、植栽等の伐採跡地の更新が確実に行われない箇所が散見され、造林未済地が減少していない状況です。 

このことから、造林の作業工程や育林コストを縮減し、森林所有者の造林意欲の向上を図ることで再造林を進めることが重要となっており、民有林、国有林ともに再造林や育林に係る作業工程やコストの縮減が課題となっています。    

 

国有林齢級別グラフ

                 8~10齢級を中心とした山型構成

 

 育林コストの縮減及び労働強度の低減に向けた取り組み

コスト縮減の必要性

苗木の植付や育林における初期段階の経費は、人工林整備におけるトータルコストの約6割を占め大きな負担となっており、再造林を進める際の課題となっています。

そこで、コスト縮減の方法としてヨーロッパ等では既に実用化されているコンテナ苗が期待され、北海道では使用量が急激に増加しているところです。 

 

北海道におけるコンテナ苗グラフ

コンテナ苗の写真

コンテナ苗

 

コンテナ苗の導入によって期待されるメリット
  • これまでの苗木と異なり根が培土に覆われている
  • コンテナパレットに乗せたまま持ち運びが可能
  • 形状が均一で活着が良い
  • 初期成長が良好なことにより下刈年数の短縮が期待できる
  • 積雪期以外であれば植栽が可能
  • 機械化された工場生産による育苗が可能

マルチキャビティコンテナに入ったコンテナ苗

コンテナパレットに入ったコンテナ苗

 

これらのメリットから、コンテナ苗を使用した作業工程の縮減や、それに伴うコストの縮減等が期待されています。

コンテナ苗には専用の植付器具があり、従来の植栽に使用されている鍬に代わる特殊なもので外国製のものが数種類販売されていますが、笹の根や石礫の有無などの状況により使用できない器具があること等の問題がありました。

そこで、コンテナ苗用植付器具の改良がこれらの問題解決に向けて必要だと考え、取り組んできました。

 

植付器具の改良

当署は、現地検討会の実施や関係者へのアンケート調査の結果を参考に、関係機関等と連携して、植付器具をどんな場所でも使用できるなどの汎用性に富んだものを、軽量かつ安価に改良することに取り組み、改良した植付器具の有効性等を検証するため植付試験を実施しました。

 

20150226_改良器具での植付(うえつけ)作業写真

     試験地における植付作業の様子

 

この結果は下表のとおりで、当署が関係機関と連携して改良した植付器具は、

  • 価格面では、従来使われていたクワと比較して5000円高かったものの、既存のコンテナ苗用植付器具のうち最安値の「スペード」と比較しても5000円安かった。
  • 作業強度に影響する器具の重量は、クワと比較すると400グラム増したものの、従来のコンテナ苗用植付用器具のうち最軽量の「スペード」と比較して800グラム軽くなった。
  • 1日に植え付けられる本数は、立ったままで植え穴を作れることなど作業姿勢の改善もあり、クワと比較して約1.5倍となり、すべての植付器具と比較しても最多となった。

という結果となり、同じ面積を植え付ける際の作業時間を大幅に短縮することができました。

今後は様々な条件下において試験を行い、植付功程における作業時間縮減効果や汎用性の検証に取り組み、その普及を図っていきたいと考えています。 

 

コンテナ苗用植付器具比較表

改良した植付器具の写真

改良器具(武田式二号)

 

普及に向けた情報発信と道有林での試験

人工林の植付やその後の保育におけるトータルコストの縮減に向けた取り組みは地域の課題であり、これを進めるためには地域に対して改良器具の縮減効果を情報発信することが重要となることから、平成26年度の北の国・森林づくり技術交流発表会や北海道森づくり研究成果発表会において報告したほか、オホーツク地域林政連絡会議や網走南部地域市町村林政連絡会議等の機会をとらえ、林業関係者の方々へ情報提供をさせていただいているところです。

 

市町村輪生連絡会議における情報提供の写真

      市町村林政連絡会議における情報提供

 

また、津別町に所在する道有林のコンテナ苗植栽事業地において、当地域を管轄する国有林や道有林の森林整備担当者やフォレスターが集まり、国有林の担当者が傾斜や土質などの現場条件に極力左右されないよう熟慮のうえ改良したことや、その結果得られた改良器具の汎用性等について道有林の担当者へ説明し、実際に植栽を行っていただきました。

道有林担当者からは、「既存の器具に比べて軽量化され持ち運びが容易」「当該地は低密度植栽地で苗間等が広いこともあり、通常の植栽地と同様に比べるのは難しい」「作業員が改良器具の使用に慣れる必要がある」などの意見をいただきました。

今後も双方の事業地で得られた情報等を共有していくこととしています。

こうした情報を元にして、民有林と国有林が連携して改良器具の普及、低コスト化に取り組んでいければよいと考えています。

 

 道職員が既存の器具と改良器具を比較している写真

     様々な植付器具と当署の改良器具を比較している様子

 

新たな課題と今後の対応について

 

国有林での取り組み

コンテナ苗を活用した造林保育作業の低コスト化を実現する方法として、植栽密度を従来より減らすことで造林コストを縮減する低密度植栽や、立木を伐採・搬出する作業と苗木の植栽作業を同時期に実施することで間接経費等を縮減できる一貫作業システムによる低コスト化の検証に取り組んでいます。

しかし、民有林への導入にあたって、低密度植栽は将来的な生産目標を高く設定することが難しいイメージがあること、一貫作業システムは作業地の傾斜等の地形的な要因、使用可能な林業機械や作業システムなどの制約を受ける等の課題があります。

そこで、地域の現状に合った最適な方法を検証し、施業コストの更なる縮減や、その結果を民有林へ普及していくことが、国有林の使命のひとつだと考えています。

 

 

コンテナ苗の生産コスト縮減

コンテナ苗の生産コストは従来の苗と比較して高価であることから、コンテナ苗の生産経費を縮減する取り組みが必要だと考え、平成27年度はコンテナ苗の生産を一部機械化した種苗生産者と意見交換を行っており、来年度以降は生産コスト縮減に向けた具体的な検証を苗木生産業者の協力のもと実施していきたいと考えています。

 

コンテナ苗用培土圧入機械の写真

コンテナ苗用培土圧入機械

種苗生産現場での意見交換の写真

種苗生産現場での意見交換

  

国有林フォレスターとして

当署は造林や育林にかかるコストの縮減の取り組みのほか、オホーツク管内の振興局や森林室、国有林で構成されているオホーツク地域林政連絡会議において策定された、「木質バイオマスの安定供給」「認証材の需要拡大」「エゾシカ被害対策」の大きく3つの議題からなる「オホーツク地域林政アクションプログラム」に基づき関係者が連携し具体的な行動へ繋げていく取り組みを行っています。

 

オホーツク地域林政連絡会議の写真

         オホーツク地域林政連絡会議

 

また、東部森林室と連携し、市町に対する森林計画策定段階での支援や様々な相談に対応するといった活動にも取り組んでいます。

フォレスターは、地域林業の諸課題を解決していくためのコーディネートやマネージメントなど、あらゆる場面において幅広い視点での活動が求められています。

オホーツク地域では、森林資源の状況や造林未済地の解消対策、木質バイオマス資源の安定供給などの課題が山積していますが、フォレスターとしての目線を忘れず長期的かつ広域的に考ることを基本に、国有林だからこそできる様々な事業の実施やこれまでの事業実績を活かしていくことが重要ではないかと再認識しているところです。

今後もオホーツク総合振興局や森林室、各市町など林業関係者との連携を図りながら、また、ご協力をいただきながら、地域林業の課題解決に向けて地域に密着したフォレスター活動に取り組んでいきたいと考えています。

引き続き、地域の皆様と一緒に取り組んでいきたいと考えておりますので、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。 

 

国有林フォレスターの写真

国有林フォレスター    

  網走南部森林管理署

     森林技術指導官

           根本 治

 


 

網走南部森林管理署

北海道斜里郡小清水町字小清水656-3

電話:050-3160-5775

ホームページ:http://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/introduction/gaiyou_syo/abasirinanbu/index.html

管轄区域:網走市、大空町、美幌町、津別町、斜里町、清里町、小清水町


 

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お問い合わせ先

森林整備部技術普及課
ダイヤルイン:050-3160-6285
FAX:011-622-5235